
「どうして私ばっかり、人間関係がうまくいかないんだろう…」 「人に嫌われるのが怖くて、いつも顔色をうかがってしまう」 「親密になりたいのに、なぜか人を突き放してしまう」
もしあなたが、こうした「愛され方がわからない」という感覚や、対人関係での尽きない悩みを抱えているのなら、この記事を少しだけ読んでみてください。その生きづらさの背景には、**愛着(アタッチメント)**の課題が隠れているのかもしれません。
クリニックでは日々、多くの患者様が人間関係の悩みを打ち明けてくださいます。その根っこをたどっていくと、「愛着障害(愛着スタイルのかたより)」に行き着くことが少なくありません。
今日は、あなたを長年苦しめているかもしれない「愛着障害」について、そして私たちが心療内科でどのようにお手伝いできるのか、優しく丁寧にお話ししたいと思います。
目次
あなたの悩みはどれ?愛着障害のサイン
愛着障害は、決して特別な「病気」というより、対人関係のパターン(スタイル)のかたよりと捉えると分かりやすいかもしれません。幼少期に、本来であれば安心感の基地となるはずの親や養育者との間で、安定した愛着を形成できなかったことが原因とされています。
大人になってから、主に以下のような形で現れます。
- 不安型(とらわれ型):
- 相手の顔色や機嫌にとても敏感。
- 「見捨てられるのではないか」という不安が常に強い。
- 相手に尽くしすぎる、あるいは過剰に愛情を求めてしまう。
- 恋愛で相手に依存しやすく、関係が終わると激しく落ち込む。
- 回避型(拒絶型):
- 人と深く親密になることを無意識に避ける。
- 弱みを見せたり、人に頼ったりするのが極端に苦手。
- 「一人が楽だ」と感じ、感情的なつながりを軽視する傾向がある。
- 他者からの好意を素直に受け取れない。
- 恐れ・回避型(未解決型):
- 人と親密になりたい気持ちと、人を避けたい気持ちが同居し、混乱している。
- 相手を理想化したり、こき下ろしたり、感情がジェットコースターのように揺れ動く。
- 過去のトラウマ体験が、現在の人間関係に影響を与えていることが多い。
これらのタイプは明確に分かれるものではなく、誰もが少しずつ傾向を持っています。しかし、このかたよりが極端になり、あなたの社会生活や心の平穏を著しく妨げている場合、専門的なサポートが助けになります。
【体験談】Aさん(30代・女性)の場合
「彼氏ができると、最初は幸せなんです。でも、少しでも連絡が遅いと『嫌われたんじゃないか』と不安でパニックになって、何度も電話やLINEをしてしまう。重いと言われて振られる…の繰り返しでした。友達にも本音を言えず、いつも聞き役ばかり。本当は私も話を聞いてほしいのに、『わがままって思われたらどうしよう』と怖くて言えませんでした。『愛され方がわからない』って、ずっと孤独でした。」
Aさんは、カウンセリングを通じて、ご自身の「見捨てられ不安」が、幼少期の親との関係に根差していることに気づいていきました。自分の感情を一つひとつ丁寧に言葉にし、「不安になってもいいんだ」と受け入れる練習を重ねることで、少しずつ対人関係での過剰な不安が和らいでいきました。
心療内科でできること:あなただけの「安心の基地」を再構築する
「心療内科に行っても、何をされるんだろう…」と不安に思うかもしれません。私たちは、あなたの生きづらさの物語に耳を傾け、一緒に解決の糸口を探すパートナーです。
- カウンセリング(心理療法): これが治療の中心です。専門のカウンセラーや医師が、あなたの話をじっくりと伺います。なぜ対人関係で同じパターンを繰り返してしまうのか、その背景にある感情や思考の癖を一緒に探ります。これは、あなたの中に**「安全基地」を再構築していく作業**です。話すこと自体に、心を整理し、癒す力があります。
- 心理教育: 愛着理論について学び、ご自身の対人関係のパターンを客観的に理解します。「私がダメだからじゃない。こういう仕組みだったんだ」とわかるだけで、自分を責める気持ちが和らぎ、心が軽くなる方は少なくありません。
- トラウマへのアプローチ: もし、過去のつらい体験(トラウマ)が影響している場合は、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)など、専門的な心理療法を用いて心の傷をケアすることもあります。
- 薬物療法(補助的に): 愛着障害そのものを治す薬はありません。しかし、不安や抑うつ、不眠などの症状が強く、日常生活に支障が出ている場合には、気持ちを安定させるお薬を補助的に使うことで、カウンセリングに集中しやすくなることがあります。
よくあるご質問(Q&A)
- Q1: 愛着障害は「治る」ものですか?
- A1: 「治る」というより**「和らげ、より生きやすいパターンを身につけていく」**というイメージです。過去は変えられませんが、これからの人間関係の築き方は変えられます。カウンセリングを通じて、安定した愛着スタイルを再学習していくことは十分に可能です。
- Q2: 薬は飲み続けないといけませんか?
- A2: 必ずしも必要ではありません。あくまでカウンセリングをスムーズに進めるための補助的な役割です。症状が安定すれば、医師と相談しながら少しずつ減らしたり、やめたりすることができます。
- Q3: 予約して、何を話せばいいかわかりません。
- A3: 大丈夫ですよ。「愛され方がわからなくて、人間関係で悩んでいます」と、この記事を読んだきっかけを話してくださるだけで十分です。そこから、専門家が優しく質問をしながら、あなたのお話を引き出していきます。うまく話そうとしなくて大丈夫です。
心療内科医からのメッセージ
「“愛され方がわからない”のは、あなたのせいではありません。一人で抱えこまず、専門家のサポートを受けてみませんか。愛着障害は乗り越えられる課題です。あなたらしい生き方を、一緒に見つけていきましょう。」