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はじめに:あなたの心の天気、今日は晴れですか?曇りですか?
毎日、天気予報をチェックするように、ご自身の「心の天気」を意識したことはありますか? 「なんだか朝から気分が重い」「理由もなくイライラしてしまう」…そんな心の曇りや雨模様は、誰にでも訪れるものです。
こんにちは、心療内科医です。私のクリニックには、責任感が強く、真面目に頑張るあまり、いつの間にか心のエネルギーが枯渇してしまった方が多くいらっしゃいます。皆さん口を揃えて言うのは、「まさか自分が」という言葉。
近年、多くの企業が「心の健康診断」の導入を進めています。これは、身体の定期健診と同じように、心の状態を客観的に把握し、深刻な状態になる前に対処するための、非常に大切な取り組みです。今日は、この「心の健康診断」について、皆さんの疑問や不安に寄り添いながら、お話しさせてください。
「心の健康診断」って、一体何をするの?
「心の健康診断」と聞くと、なんだか難しく感じますか?多くの場合、これは国が定めた「ストレスチェック制度」を指します。いくつかの質問に答えることで、あなたが今どれくらいのストレスを抱えているか、そしてそれが心身にどのような影響を与えているかを可視化するものです。
まるで、あなたの心にかかっている霧の濃度を測るようなもの。自分では「大丈夫」と思っていても、客観的な数値や結果として見ることで、「ああ、少し休みが必要なんだな」「専門家に相談してみようかな」と、自分を大切にするきっかけになるのです。決して、あなたを評価したり、弱点を指摘したりするためのものではありません。
【体験談】「大丈夫」の鎧を脱いだAさん(30代・企画職)
ここで、先日私のクリニックに来られたAさんのお話を少しだけ。
Aさんは、仕事熱心で周囲からの信頼も厚い方でした。しかし、最近どうも仕事に集中できず、夜もぐっすり眠れない日が続いていたそうです。会社のストレスチェックで「高ストレス者」と判定されたものの、「自分がそんなはずはない」と結果を無視していました。
しかし、ある朝、満員電車で息苦しくなり、途中下車。その時、初めて「これは普通じゃないかもしれない」と感じ、当院のドアを叩きました。
カウンセリングを通じて、Aさんは自分が無意識のうちに「期待に応えなければ」というプレッシャーを抱え込み、心身ともに悲鳴を上げていたことに気づきました。今は少しお仕事のペースを落とし、自分の時間を取り戻すことで、少しずつ笑顔が戻ってきています。Aさんは言います。「あの診断がなかったら、きっと倒れるまで走り続けていました。自分の心の声を聞く、大切なきっかけでした」と。
【Q&A】心の健康診断、よくあるギモンにお答えします
Q1. 診断結果が悪かったら、会社に知られて評価が下がるのでは?
A1. ご安心ください。これは最も多いご質問ですが、法律で固く守られています。ストレスチェックの結果には、社内でも限られた人間だけが関わる権限を持っており、本人の同意なく会社全体や上司に提供されることはありません。産業医や保健師など、守秘義務を持つ専門スタッフだけが結果を把握し、あなたのケアのために動きます。結果によって人事評価が左右されるような不利益な扱いは、法律で禁じられています。これはあなたを守るための制度なのです。
Q2. 「高ストレス」と判定されたら、どうすればいいの?
A2. まずは、「自分の心がサインを送ってくれている」と受け止めてください。そして、一人で抱え込まないでください。多くの企業では、結果を受けて産業医との面談を申し出ることができます。産業医はあなたの味方です。仕事の負担をどう調整できるか、どんな環境なら働きやすいか、一緒に考えてくれます。
また、もし会社の窓口に相談しづらいと感じたら、私たちのような外部の心療内科やカウンセリングルームを頼ってください。そこは、あなたの心の安全地帯です。
専門家を頼ることは、弱さではなく「賢さ」です
車も定期的にメンテナンスをしないと、いつか大きな故障につながりますよね。私たちの心も全く同じです。不調を感じた時に専門家の力を借りるのは、特別なことではありません。むしろ、自分自身をマネジメントする「賢い選択」です。
心療内科やカウンセリングは、「病気の人が行く場所」から「より良く生きるためのヒントをもらう場所」に変わりつつあります。私たちは、あなたの話をじっくりと聞き、絡まった思考の糸を一緒に解きほぐしていくパートナーです。薬を使うことも選択肢の一つですが、それだけが治療ではありません。あなたに合った方法を、必ず一緒に見つけ出します。
医師からのメッセージ
この記事を読んでくださっているあなたは、きっと真面目で、ご自身の心と真摯に向き合おうとしている方なのでしょう。
忘れないでください。仕事や役割を代わりに担う人物は探せるかもしれませんが、あなた自身の代わりは誰もいません。仕事や役割の前に、まずあなたの心と身体が一番大切です。
「疲れたな」と感じたら、それは心が「少し休もう」と送っているサインです。「辛いな」と感じたら、それは「誰かに助けを求めて」というSOSです。
その小さなサインを見過ごさず、どうかご自身を労ってあげてください。そして、もし一人で抱えきれなくなったらいつでも私たち専門家を頼ってください。あなたの心の健康を、私たちはいつでも応援しています。