
「朝、起きられない」「学校のことを考えると、お腹が痛くなる…」 大切なお子さんからそんな言葉を聞いたとき、ご家族は胸が張り裂けるような思いをされることでしょう。もしかしたら、これを読んでいる君自身が、今まさにそんな苦しさの中にいるのかもしれませんね。
クリニックでは、不登校やいじめをきっかけに、心と体のバランスを崩してしまったたくさんの子供たち、そしてご家族にお会いしてきました。
まず、一番にお伝えしたいこと。 それは、「あなたは一人ではない」ということです。そして、今感じている苦しさは、あなたの心が「もう限界だよ」と教えてくれている大切なサインなのです。この記事では、そのサインを正しく受け止め、回復への一歩を踏み出すための方法を、一緒に考えていきたいと思います。
目次
不登校やいじめが心と体に与える影響:見逃さないでほしいSOSサイン
子供の心は非常に繊細です。いじめのような強いストレスや、学校環境への不適応は、目に見えない大きな負担となり、様々な症状として現れます。
身体のサイン:頭痛、腹痛、吐き気、めまい、食欲不振、過食、不眠、朝起きられない
心のサイン:気分の落ち込み、イライラ、不安感が強い、好きなことに興味が持てない、涙もろくなる、人と会いたがらない
行動のサイン:学校に行きたがらない、部屋に引きこもる、急に乱暴になる、自傷行為
これらのサインは、決して「怠け」や「わがまま」ではありません。心と体が助けを求めている悲鳴なのです。特に、いじめの長期的な影響は深刻で、うつ病や不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)につながる可能性も指摘されています。
【体験談】中学生Aさんのケース
Aさん(14歳)は、中学2年生の秋から学校を休みがちになりました。朝になると「お腹が痛い」と言い、布団から出られなくなったのです。最初は風邪かと思いましたが、週末は元気に過ごせるため、ご両親は「気持ちの問題では?」と戸惑っていました。 当院を受診されたAさんは、問診でぽつりぽつりと話してくれました。「クラスのグループから無視されるようになった。LINEも既読スルー。誰も話してくれない教室にいるのが怖い」。 Aさんの腹痛は、強いストレスが引き起こした身体症状でした。私たちはまず、「学校を休むこと」を始めてみました。そして、週に一度のカウンセリングで、Aさんが自分の気持ちを安心して話せる場所を作りました。傷ついた自己肯定感を少しずつ取り戻し、今はフリースクールに通いながら、自分のペースで未来を考えています。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 子供が「学校に行きたくない」と言います。無理に行かせるべきですか?
A1. 無理強いは禁物です。お子さんの心は、今「安全な場所で休みたい」と訴えています。まずは「そうか、行きたくないんだね。辛かったね」と気持ちを受け止め、安心できる環境を整えてあげてください。エネルギーが枯渇している状態で無理をさせると、回復が遅れるだけでなく、親子関係が悪化してしまうこともあります。まずは「休む」ことが最初の治療です。
Q2. 心療内科やカウンセリングは、どんなことをするのですか?行くのが不安です。
A2. とても勇気のいる一歩ですよね。心療内科では、まずじっくりお話を聞くことから始めます。何に困っているのか、どんな症状があるのかを整理し、必要に応じてうつ病や不安障害などの診断を行います。治療は、お薬を使うこともありますが、中心となるのはカウンセリング(心理療法)です。専門のカウンセラーが、お子さんの気持ちに寄り添い、ストレスへの対処法を一緒に考えたり、自己肯定感を高めるお手伝いをしたりします。病院は「治す場所」というより、「あなたの回復を隣で支える伴走者」を見つける場所だと考えてみてください。
Q3. 親として、子供に何ができますか?
A3. まずは、お子さんの最大の味方でいてあげてください。「あなたのせいじゃないよ」「何があっても大好きだよ」というメッセージを伝え続けることが、何よりの薬になります。そして、ご家族だけで抱え込まないでください。学校の先生、スクールカウンセラー、そして私たちのような医療機関など、外部のサポートを積極的に活用しましょう。お父さん、お母さん自身の心が疲れてしまわないように、ご自身のケアも忘れないでくださいね。
なぜ専門家への相談が必要なのか
不登校やいじめの問題は、根っこに複雑な心理が絡み合っています。ご家庭の愛情だけでは、どうしても解決が難しい局面があるのです。 私たち専門家は、
客観的な視点で状況を評価し、医学的な診断を下せる
適切な治療法(薬物療法や心理療法)を提案できる
学校や他の支援機関との連携(ブリッジ役)ができる という点で、ご家族の大きな力になれます。心のエネルギーが底をついてしまう前に、ぜひ一度、心療内科や精神科のドアを叩いてみてください。
医師からのメッセージ
これを読んでくれているあなたへ。 今、暗いトンネルの中にいるように感じているかもしれません。未来が見えず、自分だけが取り残されたような気持ちかもしれません。でも、大丈夫。その苦しみは、あなたが弱いからではありません。嫌なことがあれば、傷ついて、落ち込んだり、気力が出ないのは当たり前のことなのです。今は、無理に笑わなくてもいいし、頑張らなくても大丈夫です。まずは、ただ、自分の心と体を休ませてあげることだけを考えてください。 そして、もし少しだけ勇気が出たら、周りの大人に助けを求めてほしいと思います。私たちのような専門家は、あなたが安心して羽を休め、再び自分の力で飛び立つ日まで、ずっと隣で支え続けるためにいます。 自分のペースで、一歩ずつ。その先には、必ず新しい景色が広がっています。
【引用文献】
いじめ被害は、うつ病、不安、自殺念慮などの精神医学的問題のリスクを著しく増加させることが研究で示されています。特に、身体的ないじめよりも関係性のいじめ(仲間外れなど)の方が、長期的に深刻な精神的影響を及ぼす場合があります。
引用元情報: Ttofi, M. M., Farrington, D. P., Lösel, F., & Loeber, R. (2011). The long-term effects of bullying: A meta-analysis. Journal of Experimental Criminology, 7(4), 301-319. (※この論文は直接的なURLがありませんが、学術データベースで検索可能です。ここでは概念の参照元として記載します。)
関連するPubMedの検索結果URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=bullying+long-term+mental+health