
「なんだか最近、よく眠れない…」 「前は楽しかったことに、全く興味がわかなくなった」 「理由もないのに涙が出てくることがある」
もし、あなたがこのような気分の落ち込みや不眠の症状で悩んでいるなら、それはあなたの心が「少し休んで」とサインを送っているのかもしれません。
こんにちは、心療内科医です。日々多くの患者さんとお会いする中で、「もっと早く相談に来てくれれば…」と感じることが少なくありません。この記事では、あなたが一人で悩みを抱え込まないように、心療内科への受診のきっかけや、受診を迷っている方へのメッセージをお伝えします。
目次
これって心のサイン?うつ症状・不眠のセルフチェック
「うつ」や「不眠」は特別なことではありません。ストレス社会を生きる現代人にとって、誰にでも起こりうる心身の不調です。まずはご自身の状態を客観的に見てみましょう。以下の項目に、2週間以上当てはまるものはありますか?
【心の症状】
- 気分が重く、憂うつな気持ちが続く
- 今まで楽しめていたことが楽しめない
- 何をするのも億劫(おっくう)に感じる
- 理由もなく不安になったり、イライラしたりする
- 自分を責めてしまう、自分には価値がないと感じる
- 集中力が続かず、仕事や家事でミスが増えた
- 死にたい、消えてしまいたいと考えることがある
【体の症状】
- 寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう(不眠)
- 逆に、一日中眠くて仕方がない(過眠)
- 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
- 原因不明の頭痛、めまい、動悸、胃の不快感がある
- 疲れがまったく取れない、体が鉛のように重い
複数当てはまる場合、それは専門家の助けが必要なサインかもしれません。これらの症状は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることで起こることが分かっています¹。決して「気持ちの問題」や「甘え」ではないのです。
「まさか自分が…」受診をためらってしまう3つの理由
症状に気づいていても、心療内科や精神科への受診には、ためらいを感じる方が多いのも事実です。
- 「精神科は特別な人が行く場所」という偏見
- まだまだ日本では、心療内科への通院に抵抗を感じる風潮があるかもしれません。しかし、風邪をひいたら内科へ行くように、心の不調を感じたら心療内科へ相談するのは、ごく自然なことです。
- 「薬に頼りたくない、副作用が怖い」という不安
- お薬は治療の選択肢の一つですが、必ず処方されるわけではありません。カウンセリングを中心に治療を進めることも可能です。また、お薬を使う場合も、医師があなたの状態に合わせて慎重に種類や量を調整しますので、過度に心配する必要はありません。
- 「何を話せばいいか分からない」という戸惑い
- うまく話せなくても大丈夫です。「よく眠れません」「気分が落ち込んでいます」と伝えるだけで十分です。経験豊富な医師やカウンセラーが、あなたの言葉に耳を傾け、優しく質問しながら話を引き出してくれます。
【体験談】Aさん(30代・女性)が心療内科のドアを叩くまで
ここで、ある患者さん(Aさん)の体験談をご紹介します。
Aさんは、まずカウンセリングと、生活リズムを整えるためのアドバイスから治療を開始しました。専門家と話すことで自分のストレスの原因が整理でき、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していきました。今ではぐっすり眠れる日も増え、週末にはまたカフェ巡りを楽しめるようになっています。
Aさんは、責任感の強い会社員。最近、仕事のプレッシャーからか、夜中に何度も目が覚める不眠に悩まされていました。朝起きるのがつらく、大好きな趣味だった週末のカフェ巡りも「面倒くさい」と感じるように。食欲もなくなり、同僚から「顔色が悪いよ」と心配されても、「大丈夫」と笑顔でごまかす日々。
受診のきっかけは、ある朝、通勤電車の中で突然涙が止まらなくなったことでした。「このままではダメだ」と直感的に感じたAさんは、スマートフォンの検索窓に「眠れない 気分が落ち込む」と入力。そこで見つけたクリニックのウェブサイトに書かれていた「あなたは一人ではありません」という言葉に背中を押され、予約の電話をかけたそうです。
初診では、緊張しながらも医師に今のつらい状況を話しました。医師は親身に話を聞いてくれ、「これまで一人でよく頑張りましたね」と言ってくれたそうです。その一言で、張り詰めていた糸が切れ、Aさんは安心して涙を流すことができました。
Aさんは、まずカウンセリングと、生活リズムを整えるためのアドバイスから治療を開始しました。専門家と話すことで自分のストレスの原因が整理でき、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していきました。今ではぐっすり眠れる日も増え、週末にはまたカフェ巡りを楽しめるようになっています。
心療内科・精神科ってどんなところ?何をしてもらえるの?
心療内科や精神科は、あなたの心の健康を取り戻すためのパートナーです。主に以下のような治療やサポートを行います。
- 問診・診察: あなたの症状や生活状況、悩みをじっくりお聞きします。
- 心理検査: 必要に応じて、客観的に心の状態を把握するための検査を行います。
- カウンセリング: 臨床心理士や公認心理師などの専門家と対話を通じて、悩みの原因を探り、考え方や物事の捉え方を整理していくお手伝いをします。認知行動療法などが有効な場合があります²。
- 薬物療法: 症状に応じて、脳内の神経伝達物質のバランスを整えるお薬を処方します。うつ病や不眠症の治療において、薬物療法は非常に有効な選択肢の一つです。
- 環境調整のアドバイス: 休職の診断書作成や、職場・家庭環境の調整に関するアドバイスなど、あなたが安心して療養できる環境づくりをサポートします。
勇気を出して、まずは「相談」から始めませんか?
この記事を読んでいる今も、あなたはつらい気持ちを抱えているかもしれません。しかし、その悩みを誰かに話すだけで、心は少し軽くなります。
病院へ行くのは「治療」のためだけではありません。自分の状態を知り、専門家と「相談」する場所だと考えてみてください。その一歩が、あなたの未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
医師からのメッセージ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 心の不調は、目に見えないため周りに理解されにくく、一人で抱え込みがちです。しかし、あなたは決して一人ではありません。 つらい気持ちを我慢し続ける必要はないのです。 あなたの心と体を守るために、勇気を出して専門家のドアを叩いてみてください。私たちは、あなたが本来のあなたらしさを取り戻すためのお手伝いをする準備ができています。 あなたの人生が、再び穏やかで明るい光に満ちたものになることを心から願っています。
引用文献
¹: Kupfer, D. J., Frank, E., & Phillips, M. L. (2012). Major depressive disorder: new clinical, neurobiological, and treatment perspectives. The Lancet, 379(9820), 1045-1055.
- URL: https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(11)60602-8/fulltext
- (概要: 大うつ病性障害に関する臨床的、神経生物学的、治療的視点からの包括的なレビュー。神経伝達物質の役割についても触れられている。)
²: Hofmann, S. G., Asnaani, A., Vonk, I. J., Sawyer, A. T., & Fang, A. (2012). The efficacy of cognitive behavioral therapy: A review of meta-analyses. Cognitive therapy and research, 36(5), 427-440.
- URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3584580/
- (概要: 認知行動療法(CBT)の効果に関するメタアナリシスのレビュー。うつ病を含む様々な精神疾患に対するCBTの有効性を示している。)