
目次
はじめに:こんなサインは「相談の合図」
小児外来では、「反抗期だから」「思春期はみんなこう」と受診をためらい、症状が長引いてしまうご家庭が少なくありません。イライラ、学校行きしぶり、不登校、朝起きられない、ゲーム・スマホ依存、食欲や睡眠の乱れ、頭痛・腹痛、保健室登校の継続——これらは心身のSOSかもしれません。
心療内科は、心理カウンセリングや認知行動療法(CBT)、家族支援、必要時の薬物療法まで、子どもの発達特性や環境に合わせてサポートします。
心療内科で相談できる主な症状
- イライラ・感情の爆発
- きっかけが小さくても怒りが強く出る、家族に当たる、自己否定が強い。
- 背景に不安、抑うつ、睡眠不足、発達特性(ADHD/ASD)、感覚過敏、HSP気質が隠れることも。
- 不登校・行きしぶり・保健室登校
- 友人関係、いじめ、学業不振、過敏さ、先生との相性、合理的配慮の不足など多因子。
- 「適応障害」「不安障害」「抑うつ状態」「自律神経の不調」を伴う場合があります。
- 朝起きられない・睡眠障害・起立性調節障害(OD)
- 起床困難、立ちくらみ、午前中の強い倦怠感、夜型化。
- 生活リズムの再構築と自律神経ケア、学校との時間配慮が効果的。
- 不安・抑うつ・パニック
- 学校や人間関係に対する強い不安、涙もろさ、やる気低下、過呼吸など。
- 認知行動療法、環境調整、段階的暴露、必要時の薬物療法。
- 発達特性(ADHD/ASD)と二次障害
- 注意散漫、多動、コミュニケーションのつまずき、感覚過敏。
- 合理的配慮、学習支援、ソーシャルスキルトレーニング、家族支援で改善。
- ゲーム・スマホ依存
- 使いすぎの背景には「逃避」「成功体験の不足」「睡眠不足」「孤立」が絡みます。
- ルール作りと代替活動、多職種チームでの支援が役立ちます。
- チック・強迫・場面緘黙・摂食の悩み
- 症状の一貫性や環境要因を丁寧に評価します。焦らず段階的に。
受診の目安チェックリスト
次のうち、2つ以上が2週間以上続くなら、一度ご相談ください。
- 朝起きられず遅刻・欠席が増えた
- イライラや爆発、自己否定が強い
- 頭痛・腹痛が続き検査で異常なし
- 食欲や睡眠リズムの乱れ
- 成績や提出物、遅刻・欠席が急に増えた
- ゲーム・スマホ時間が制御不能
- 学校や友人の話題を避ける
- 「死にたい」「消えたい」と口にする(最優先で受診・相談)
緊急のリスク(自傷・自殺念慮が強い、極端な拒食・脱水、暴力・逸脱行動など)がある場合は、ためらわず医療機関・救急や自治体の相談窓口に連絡を。
初診から治療までの流れ
- 初診
- 本人・保護者からの聞き取り、学校生活の様子、生活リズム、既往歴の確認。
- 必要に応じて身体疾患を除外するための検査(血液・鉄欠乏・甲状腺など)を検討。
- 評価
- 心理検査(例:注意・実行機能、適応、気分、不安スケール)。
- 学校やスクールカウンセラーとの連携、支援会議の提案。
- 共有と計画
- 見立ての説明、治療目標の設定(短期・中期)。
- 家族支援の方針(ペアレントトレーニング、関わり方の整理)。
- 実施
- 認知行動療法(CBT)、行動活性化、問題解決療法、ソーシャルスキルトレーニング。
- 睡眠衛生・自律神経ケア、生活リズムの再構築。
- 必要時のみ少量短期の薬物療法。副作用や中止計画も事前に共有。
- 振り返りと出口戦略
- 症状の再評価、支援の段階的な縮小、再発予防プランの作成。
治療と支援の選択肢(薬に頼りすぎないアプローチ)
- 認知行動療法(CBT)
- 不安や回避、抑うつに有効。小さな成功体験を積み上げる「行動実験」が鍵。
- 親面接・家族支援
- 境界線の再設定、声かけの工夫、強化(ほめる)と制限のバランス。
- 生活リズム・睡眠衛生
- 起床時刻固定、朝の光曝露、就寝前のスクリーンオフ、昼寝は20分以内。
- 自律神経ケア
- 水分・塩分・鉄分の最適化、ストレッチ、呼吸法、入浴、段階的運動。
- 学校との連携
- 保健室登校・時差登校・課題調整・個別配慮、在宅学習の段階的移行。
- 薬物療法
- 必要最小限・短期を原則に。メリット・リスクを丁寧に説明し、合意形成。
学校との連携と家庭でできるサポート
- 学校側
- スクールカウンセラー・養護教諭・担当教員と情報共有。校内支援会議で合理的配慮を検討。
- 家庭側
- 朝の声かけを短く具体的に。「今日できそうなことを一つ」から。
- 予定は見える化(ホワイトボード・チェックリスト)。
- 成功体験を言語化してほめる。失敗の掘り下げよりも次の一歩へ。
- ゲーム・スマホは時間・場所・内容の3点でルール化。大人も共通ルール。
体験談
- ケースA:中1・朝起きられない男児
- 経過:2学期から朝起きられず遅刻。腹痛と立ちくらみ。週3で欠席。
- 介入:起立性調節障害の評価、朝の光曝露と水分・塩分の調整、時差登校を導入。CBTで「朝の準備を3ステップに分解」。
- 結果:4週間で午前からの登校が週4日に。保健室経由で教室へ戻る流れが定着。
- ケースB:小5・イライラと宿題拒否の女児(ASD傾向)
- 経過:夕方の癇癪、自己否定。宿題は白紙。
- 介入:課題の分割、感覚過敏への配慮(静かな場所、ノイズ対策)、親面接で声かけの再設計。「やること・やったこと」ボードを導入。
- 結果:癇癪が週1以下に。宿題は15分×2セットで完了。自己効力感が回復。
よくある質問(Q&A)
- Q. 反抗期と不調の違いは?
- A. 生活機能(睡眠・食事・登校・友人関係)が2週間以上落ち、本人が「困っている」なら相談を。
- Q. まず小児科?心療内科?
- A. どちらでも構いません。身体疾患の除外は小児科が得意。心身の統合的評価は心療内科・小児精神科が得意です。
- Q. 薬は飲ませたくないのですが…
- A. 非薬物療法が基本。必要時のみ少量から提案します。開始・中止は合意形成のうえで進めます。
- Q. 学校に知られたくない
- A. 本人・家族の同意なしに情報共有はしません。ただし支援が進むのは「必要な範囲での共有」がある場合が多いです。
- Q. ゲーム時間が守れない
- A. ルールは「時間×場所×内容」で具体化し、大人も同じルールに。代替活動を同時に用意します。
- Q. すぐに良くなりますか?
- A. 多くは「階段状に少しずつ」良くなります。短距離走ではなくマラソンのペースで。
迷ったら早めに相談を(通院・カウンセリングのすすめ)
「大したことない」で先送りにすると、自己否定や回避が強まりやすくなります。心療内科・小児精神科は、診断名よりも「目の前の困りごと」を一緒に整える場所です。早めの受診・カウンセリングが、最短の回復ルートになることは珍しくありません。
医師からのメッセージ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。子どもの背景には、がんばりや優しさが隠れていることが多いです。叱るより先に、困りごとを一緒に言語化しましょう。私たちは、診断名ではなく「その子らしさ」を守りながら、学校・家庭・医療のチームで伴走します。ひとりで抱えず、どうぞ気軽にご相談ください。