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はじめに:その「しんどさ」を、独りで抱えないで
夜の静けさの中で「キーン」という音がやまない。ふとした拍子に視界がぐるぐる回る。朝起きるのが怖くなる。耳鳴りやめまいは、痛みのように目に見えません。だからこそ「気のせい」と片づけられやすく、つらさを言葉にしにくいのです。この記事は、あなたの不安をまず受け止め、次に「何から始めればよいか」を具体的に示す地図です。
症状の整理:メニエール病とストレスの関係
- メニエール病とは
反復する回転性めまい、耳鳴り、難聴、耳閉感を特徴とし、内耳の「内リンパ水腫」が関与します。発作は数十分〜数時間続くことが多く、聴力低下を伴います。 - ストレス・自律神経と耳の症状
ストレスや睡眠不足、交感神経優位による筋緊張・血流低下は、耳鳴りの増悪やめまいの誘発因子になります。仕事のプレッシャー、在宅勤務での静音環境、スマホ・PC過多、塩分過多や脱水も関係します。 - 他に考えたい疾患
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV):頭位変換で数十秒の短いめまい。
- 前庭神経炎:数日持続する強いめまい。
- 片頭痛関連めまい(前庭性片頭痛):頭痛・光過敏・音過敏を伴う。
- 中枢性(脳梗塞など):突然の激しいめまい+神経症状は要注意。
まず知ってほしい「危険なサイン(レッドフラッグ)」
以下がある場合は救急受診を検討してください。
- ろれつが回らない、片側の手足が動かしにくい、顔のゆがみ、強い頭痛の急激な発症
- 高熱、激しい嘔吐で水分が取れない
- 新規の強い難聴や耳鳴りが突然発症
- 頭部外傷後のめまい
これらは中枢性めまい(脳卒中など)や急性高度難聴の可能性があります。
受診の順番と「連携」が鍵:耳鼻咽喉科+心療内科
- 耳鼻咽喉科で行うこと
聴力検査、平衡機能検査、眼振検査、必要に応じてMRI等で中枢疾患を除外。メニエール病やBPPVの診断・処置(Epley法など)、ベタヒスチンや利尿薬の処方。 - 心療内科で行うこと
ストレス評価、睡眠衛生の整備、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス、耳鳴り再訓練療法(TRT)併用、心理教育、仕事の環境調整。必要時に抗不安薬・抗うつ薬・漢方を少量から安全に使い、依存や眠気に配慮。
両科の連携で「器質的疾患の診断」+「誘因(ストレス・睡眠・生活)への介入」を同時に進めることが、再発予防の近道です。
治療の選択肢:今日からできることと専門的アプローチ
- 生活改善(ベース)
- 睡眠:寝床は「眠気が来たら」、光と温度を整える、就床・起床の一貫性。
- 食事:塩分はやや控えめ、こまめな水分補給、カフェイン・アルコールの過量は避ける。
- 筋緊張ケア:首肩のストレッチ、軽い有酸素運動。
- デジタル衛生:寝る1時間前はスマホやPCの画面を避ける、通知オフの時間帯を作る。
- 薬物療法(必要に応じて)
ベタヒスチン、利尿薬、抗めまい薬、鎮吐薬、必要時の抗不安薬、睡眠薬は短期・最少量で。漢方(五苓散、苓桂朮甘湯など)は体質と症状に合わせて選択。 - 心理療法・リハビリ
- 認知行動療法(CBT):めまい・耳鳴りに対する不安思考の修正、回避行動の縮小。
- マインドフルネス:音や揺れを「評価せずに」観察する練習で苦痛の主観を軽減。
- TRT(耳鳴り再訓練療法):カウンセリング+サウンドセラピーで慣れ(ハビチュエーション)を促進。補聴器が有効なケースも。
- 前庭リハビリ:理学療法士指導の平衡訓練。
体験談(一次情報):34歳・女性・広報職のケース
「会議前になると視界がぐらつき、夜はキーンという音で眠れない」。耳鼻咽喉科でBPPVが見つかり、耳石法で改善。しかし耳鳴りと不眠は残存。心療内科で睡眠スケジュールと光の使い方を整え、週1回の短時間CBTで「音=危険」という思考をゆるめ、日中はサウンドジェネレーター(小さな環境音)を導入。2カ月後、耳鳴りの「気になり度」は10→3に。直属上司に「朝の集中タイム」を共有し、午前中に会議を入れない運用でめまいも減少。半年後には再発時のセルフケア手順を自分で選べるようになりました。
※個人が特定されないよう内容を一部変更しています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 耳鳴りがあるときは静かな方がよい?
A. 完全な無音はつらさを増幅しがち。小さな環境音(雨音、ホワイトノイズ、扇風機の音)を背景にするのがおすすめです。
Q2. メニエール病は治りますか?
A. 個人差はありますが、多くは発作頻度のコントロールが可能です。生活調整と薬物・心理療法の併用で再発予防が期待できます。
Q3. ストレスでめまいは起こりますか?
A. はい。自律神経の乱れや過換気、睡眠不足、肩頸部筋緊張が関与します。医学的評価で器質疾患を除外しつつ、ストレス対策を並行するのが最善です。
Q4. まずは何科を受診すべき?
A. 強い難聴や急な神経症状があれば救急へ。そうでなければ耳鼻咽喉科での評価が第一選択。心療内科はストレス・睡眠・不安の寄与が疑われる場合に併診すると効果的です。
Q5. 仕事は続けられますか?
A. 多くの方が、勤務時間の調整、静音の活用、会議の時間帯変更などで継続可能です。
心療内科・カウンセリングをおすすめする理由
- 症状の「トリガー」を言語化し、再発予防プランを作れる
- 薬だけに頼らない選択肢(CBT、TRT、マインドフルネス)が増える
- 仕事・家事・育児との両立支援を受けられる
- 不安や抑うつの併存に早期介入できる
まずは一度、状態を一緒に棚卸ししましょう。通院が難しければ、オンライン初回相談や短時間カウンセリングからのスタートでも構いません。
医師からのメッセージ
耳鳴りやめまいは、「わかってもらえない苦しさ」を伴います。だからこそ、検査で「異常なし」と言われた後の不安までケアするのが心療内科の役割です。治療は足し算だけでなく引き算——生活を少し軽くし、体と心の余白を増やすこと。今日できる小さな一歩を、一緒に見つけていきましょう。

