心療内科の薬で太る?眠くなる?副作用のリアルと対策

はじめに:診察室でいちばん多い質問

「先生、この薬を飲むと太りますか?」「仕事中に眠くなりませんか?」——初診でも通院中でも、最も多く寄せられる質問です。私は都内で心療内科外来を担当していますが、体重や眠気は生活の質(QOL)に直結します。薬は“効けばOK”ではありません。あなたの生活や価値観に合う形で、効果と副作用のバランスを一緒に探していきましょう。

よくある誤解と本当のところ

  • 誤解1:「どの薬も必ず太る」
    • 現実:薬によって傾向は違います。同じ薬でも体質で反応は異なります。
  • 誤解2:「眠くなる薬=弱い/合わない」
    • 現実:回復が進む過程で眠気が落ち着くことも。投与タイミングの工夫で改善することがあります。
  • 誤解3:「副作用が出たらすぐ中止」
    • 現実:自己判断の中止は危険です。まずは処方医へ。用量調整・薬剤変更・併用で改善できることが多いです。

代表的な薬と「体重増加・眠気」の出やすさ(傾向)

薬の種類代表例(一般名)体重増加の傾向眠気の傾向
SSRIセルトラリン、パロキセチン、エスシタロプラム中等度(パロキセチンはやや増えやすい)軽〜中等度
SNRIデュロキセチン、ベンラファキシン低〜中等度軽〜中等度
NaSSAミルタザピン増えやすい(食欲↑)出やすい(鎮静)
三環系アミトリプチリン等増えやすい出やすい
抗精神病薬オランザピン、クエチアピン等増えやすい(代謝影響)出やすい
抗不安薬ベンゾジアゼピン系低〜中等度出やすい(反応性に個人差)
睡眠薬ゾルピデム等出やすい(翌日残存に注意)

注:あくまで一般的傾向。個人差が大きいため、必ず主治医に相談してください。

なぜ太る?なぜ眠くなる?メカニズムをやさしく

  • 体重増加の主な要因
    • 食欲増加(ヒスタミンH1受容体、5-HT2C受容体ブロックの影響)
    • 代謝変化(インスリン抵抗性、脂質代謝)
    • 活動量の低下(抑うつ症状・意欲低下の改善途中)
  • 眠気の主な要因
    • 鎮静作用(抗ヒスタミン作用、GABA作動性)
    • 初期適応(数週間で慣れてくることあり)
    • 睡眠リズムの乱れや睡眠負債の“取り戻し”

体重増加をおさえるための現実的な工夫

  • 食事
    • 朝・昼にたんぱく質と食物繊維、夜は軽め。甘い飲料は“隠れカロリー”。
    • 買い置きは“量で管理”(個包装のナッツやヨーグルトを常備)。
  • 行動
    • 「毎日1万歩」より「1日ごとに500歩増やす」のが続きやすい。
    • 体重記録アプリで週平均を確認。日内変動に一喜一憂しない。
  • 医療的な選択肢(医師と相談の上)
    • 投与タイミングの調整、用量の見直し、他剤への切り替え。
    • 代謝モニタリング(体重、腹囲、血糖、脂質)。必要に応じて管理栄養士と連携。
  • やってはいけないこと
    • 独断での断薬・極端な食事制限・過度な運動開始。リスクが高いので避けましょう。

日中の眠気に対する安全な対策

  • まずは生活リズムの整え
    • 起床・就寝時刻を固定し、朝に日光を浴びる。カフェインは午後は控えめに。
  • 薬の飲み方の工夫(必ず主治医と相談)
    • 鎮静が強い薬は「就寝前」へ。朝は軽い薬にする、分割投与の見直しなど。
  • 安全配慮
    • 強い眠気が続く日は車の運転・高所作業を避ける。職場への情報共有も検討。
  • 眠気が続くサイン
    • 2〜3週間たっても改善しない、仕事に支障が出る、ふらつき・転倒がある場合は早めに受診。

受診・カウンセリングが効果的な理由

  • 薬だけでなく「ストレス対処・睡眠衛生・認知行動療法(CBT)」を組み合わせると、再発予防と副作用軽減の両面で有利。
  • 心療内科への通院は「副作用を一緒に管理する」場。身体データを定期的に測り、生活改善プランも伴走します。
  • カウンセリングは「食行動」「眠気のトリガー」への気づきを促進。無理なく続けられる行動変容を後押しします。

体験談:Aさんのケース(匿名加工)

30代・事務職のAさんは、抑うつでSSRIを開始。2週間で気分は少し楽に。ただ「夕方の間食が増え、1か月で2kg増」と相談がありました。診察で食事のタイミングと残業パターンを一緒に確認。就寝前の軽食をプロテイン+ヨーグルトに変え、通勤時に1駅分歩くことに。薬は夜に回して眠気を調整。3か月後、体重は元に戻り、集中力も改善。「薬=太る」ではなく、「薬+生活の工夫」で折り合いがついた好例です。

よくあるQ&A

Q1. どのくらいの割合で太りますか?
A. 薬剤と用量によります。NaSSAや一部抗精神病薬は増えやすい傾向ですが、個人差が大きいです。開始後1〜3か月の体重・腹囲・採血で早期察知が有効です。

Q2. 眠くて仕事になりません。中止していい?
A. 自己中止は避けてください。タイミング・用量調整、より賦活的な薬への切替など選択肢があります。安全配慮(運転回避)も同時に検討します。

Q3. 運動は何をすれば?
A. まずは歩数アップが現実的。階段利用、ポモドーロで立ち上がるなど“日常に溶け込む運動”を。無理な高強度は逆効果になることがあります。

Q4. 食欲が止まらない感覚があります。
A. ヒスタミン・セロトニン系の影響で起きることがあります。たんぱく質・食物繊維を先に、低GIの間食、夜の炭水化物は控えめなどの工夫が有効です。

Q5. どのタイミングで受診すべき?
A. 体重が1か月で2%以上増、強い眠気が2週間以上続く、転倒・ふらつき、むくみ・息切れがある場合は早めに相談を。

Q6. 市販サプリで対策できますか?
A. 相互作用のリスク(セントジョーンズワート等)があります。必ず主治医へ。まずは生活習慣の微調整が安全で効果的です。

参考:厚生労働省、PMDA医薬品安全情報、日本うつ病学会ガイドライン など信頼できる情報を参照しています。

受診前チェックリスト

  • 直近1か月の体重・腹囲の変化
  • 日中の眠気(発生時間・場面・強さ)
  • 食事・間食・飲料の内容とタイミング
  • 仕事・家事・通学のスケジュール
  • 運転や危険作業の有無
  • 服薬時間と飲み忘れの頻度
  • 気になる症状(むくみ、息切れ、動悸など)

医師からのメッセージ

治療は、あなたの生活と並走する長距離走です。「太るかも」「眠くなるかも」という不安は自然なもの。だからこそ、我慢や自己判断ではなく、一緒に調整しましょう。通院やカウンセリングは、薬を“安全に効かせる”ための心強い味方です。あなたのペースで、一歩ずつ。

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