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はじめに:浦島太郎は、なぜ私たちの心をざわつかせるのか
竜宮城から帰ってきた浦島太郎は、時間の流れに取り残され、あらゆる変化の“手遅れ感”に直面します。
現代でも、人事異動・転職・結婚・出産・介護・SNSのトレンドなど、変化は容赦なく押し寄せます。「ついていけない」「置いていかれる」——そんな不安は、誰にでも起こりうる自然な反応です。
本記事では、臨床現場での経験に基づき、症状・原因・ケア・治療、そして受診やカウンセリングのタイミングをお伝えします。
変化への恐怖と“置き去りにされる”不安のメカニズム
- 脳のしくみ
- 扁桃体が危険(不確実性)に過敏に反応し、交感神経が優位に。動悸・息苦しさ・不眠などの自律神経症状が出やすくなります。
- 心理的要因
- 不確実性への耐性低下、完璧主義、過去の喪失体験、FOMO(取り残される不安)。
- 社会的要因
- SNS疲れ、情報過多、職場の評価構造、孤立。
症状チェック(当てはまるものに印)
- 睡眠:寝つけない、中途覚醒、朝早く目が覚める
- 体の症状:動悸、息苦しさ、胃の不快感、肩こり、頭痛
- 気分・思考:「失敗したら終わり」「皆はできている」「自分だけ遅れている」
- 行動:SNSを過剰に確認、避け行動(メールを開けない、返信を先延ばし)
- 集中:ミスが増える、物忘れ、会議が怖い
- 緊急サイン:突然の強い不安発作、希死念慮、アルコール増加
1つでも強く当てはまる場合は、早めの相談をお勧めします。緊急サインがある場合は、迷わず救急・相談窓口へ。
臨床現場からの一次情報:Aさんのケース(匿名・要約)
30代・在宅勤務。部署異動を機に「周囲に置いていかれる感覚」が強まり、動悸・不眠・朝の嘔気が出現。SNSの同僚投稿で不安が増幅。
治療介入は以下の順で行いました。
- 1〜2週:睡眠衛生+生活リズム調整(起床固定・朝日・軽運動・カフェイン制限)
- 3〜6週:認知行動療法(自動思考の記録、認知のゆがみの検討、段階的な行動活性化)
- 6週以降:必要に応じSSRIを検討(副作用・メリットを共有意思決定)
- 併用:1分間呼吸法、SNSの“時間制限”と“情報の質”の見直し
- 結果:不眠の改善→業務復帰。FOMOは残存するも、対処可能なレベルに。
治療はオーダーメイドです。優先順位やご本人の納得度を大切に進めます。
今日からできるセルフケア
- 睡眠衛生
- 起床時刻を固定、寝る90分前に入浴、ブルーライト抑制、就寝前のSNS断ち
- 体のケア
- 1日合計20分の軽運動、深呼吸(4秒吸って6秒吐く)
- 思考のケア(ミニCBT)
- 「〜でなければならない」を「〜なら良い」に言い換える
- 事実・解釈・反証を書く(ノートで3分)
- 情報の整理
- SNSは“時間・回数・目的”を事前に決める(例:1日2回、各10分)
- 行動活性化
- 「小さな達成」の予定化(5分タスクでOK)
受診・カウンセリングを勧めたいタイミング
- 2週間以上の不眠・食欲低下・強い焦燥が続く
- 仕事・学業・家事に支障が出ている
- パニック発作や希死念慮がある
- セルフケアを試しても改善しない
受診の流れ(目安)
- 初診:30–60分。症状経過、生活リズム、既往歴、服薬歴を確認
- 検査:必要に応じ採血・心電図で身体要因を除外
- 治療:心理療法(CBT/マインドフルネス/支持的療法)、薬物療法の選択肢、産業医や職場との連携、オンライン診療の活用
家族・職場への伝え方
- 事実:「最近、不眠が続いています」
- 気持ち:「焦りが強くて、集中しづらいです」
- 依頼:「午前は静かな業務にしてもらえると助かります」
よくある質問(Q&A)
Q. 病気じゃない気がして受診を迷っています
A. 迷っている段階こそ相談の適期です。予防や早期介入は効果が高いです。
Q. 薬が怖いです
A. 心理療法のみで改善する方も多いです。薬は必要時に“少量から安全に”。副作用や中止計画も含め共有します。
Q. CBTはどれくらいで効果が出ますか
A. 週1回×6〜12回で変化を感じる方が多いです。ホームワークが鍵です。
Q. オンラインでも相談できますか
A. 症状により可能です。初期評価は対面を推奨する場合があります。
Q. 再発予防は?
A. 睡眠・運動・認知スキルの継続、早めの相談、負荷の段階調整が有効です。
緊急時はためらわず119や地域の精神科救急、いのちの電話(0570-783-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)へ。
医師からのメッセージ
変化は怖いもの。でも、怖さは“悪”ではありません。怖さがあるからこそ、準備し、助けを求め、支え合えます。あなたの歩調で大丈夫。必要なとき、私たちが並走します。まずは睡眠から、次に小さな一歩を。迷ったら、遠慮なくご相談ください。

