うつ病・パニック障害…心療内科でよくある相談TOP5

 「なんだか最近、心が晴れない」「理由もなく涙が出る」「急に心臓がドキドキして、息苦しくなる…」。 私たちのクリニックには、毎日さまざまな心と体のサインを抱えた方がいらっしゃいます。心の不調は、決して特別なことではありません。風邪をひいたら内科に行くように、心が疲れたら、私たちのような専門家を頼ってほしい。その思いで、日々患者様と向き合っています。

この記事では、皆さんが少しでも安心して心療内科のドアを叩けるように、実際に当院でよくお受けするご相談をTOP5形式でご紹介します。

あなたの「つらい」は、決して気のせいではありません

「頑張りが足りないだけ」「気持ちの問題だ」と自分を責めていませんか? 心の不調は、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れや、過剰なストレスなど、明確な原因があって生じる「症状」です。あなたのせいではありません。まずはそのことを、ご自身で認めてあげてください。

では、具体的にどのようなご相談が多いのか見ていきましょう。

第5位:不眠・睡眠障害「夜、眠れないんです…」

「ベッドに入っても何時間も眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「朝、起きるのが本当につらい」。睡眠に関する悩みは、心の不調の入り口として現れることが非常に多いサインです。

  • よくある症状: 入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟睡感の欠如
  • 考えられる原因: 仕事や家庭のストレス、生活リズムの乱れ、うつ病や不安障害の初期症状
  • 治療のアプローチ: まずは睡眠環境や生活習慣を見直す「睡眠衛生指導」から始めます。それでも改善が難しい場合は、依存性の少ない睡眠導入剤を短期間使用したり、不眠に特化した「認知行動療法(CBT-I)」を行ったりします。

【ワンポイント】 寝る前のスマホは、ブルーライトが脳を覚醒させてしまいます。せめて就寝1時間前にはスマホを置いて、リラックスできる音楽を聴いたり、温かいハーブティーを飲んだりする時間を作ってみませんか?

第4位:身体症状「原因不明の体調不良が続いています…」

「内科で検査しても『異常なし』と言われるのに、動悸、めまい、頭痛、胃の不快感が続く」。このように、精神的なストレスが体の症状として現れることを「身体症状症」と呼びます。

  • よくある症状: 頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、息苦しさ、吐き気、腹痛、下痢、原因不明の痛み
  • 考えられる原因: 抑圧された感情や精神的ストレスが、自律神経のバランスを崩すことで身体に現れます。ご自身ではストレスを自覚していないケースも少なくありません。
  • 治療のアプローチ: まずは丁寧にお話をお伺いし、症状とストレスの関連性を一緒に探っていきます。心と体の緊張を和らげる「自律訓練法」や、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬を少量から使用し、自律神経のバランスを整えていきます。

第3位:パニック障害・不安障害「また、あの発作が起きたらどうしよう…」

「電車の中や人混みで、突然、心臓がバクバクして、息ができなくなるような恐怖に襲われた」。これがパニック発作です。そして、「また発作が起きたらどうしよう」という強い不安(予期不安)から、外出などが困難になるのがパニック障害です。

  • よくある症状: パニック発作(動悸、発汗、震え、息苦しさ、死の恐怖)、予期不安、広場恐怖(特定の場所や状況を避ける)
  • 考えられる原因: 脳の警報装置(扁桃体)が誤作動を起こしている状態です。ストレスや過労が引き金になることが多いと言われています。
  • 治療のアプローチ: 薬物療法(SSRIという種類の抗うつ薬が第一選択です)と精神療法(特に認知行動療法)が治療の二本柱です。認知行動療法では、発作への誤った認知を修正し、不安な状況に少しずつ慣れていく「曝露療法」などを行います。これは、いわば「脳の筋トレ」のようなものです。

第2位:適応障害「職場のことを考えると、涙が止まりません…」

「新しい部署に異動してから、全く仕事が手につかない」「上司のことを考えると、お腹が痛くなる」。特定のストレス(職場、家庭、学校など)が原因で、心や体に不調をきたし、社会生活に支障が出ている状態が適応障害です。

  • よくある症状: 抑うつ気分、不安、怒り、焦り、涙もろさ、出勤・登校拒否、無断欠勤
  • 考えられる原因: 明確なストレス因の存在。本人の性格や気質、サポートの有無なども影響します。
  • 治療のアプローチ: 最も重要なのは、原因となっているストレスから離れることです。診断書を書いて休職し、心と体を休める環境を整えることが第一歩。その上で、カウンセリングを通してストレスへの対処法(コーピング)を身につけたり、環境調整(部署異動の相談など)を行ったりします。

第1位:うつ病「何もする気が起きない。生きているのがつらい…」

「今まで楽しかったことが、全く楽しいと感じられない」「一日中気分が沈んでいて、消えてしまいたいとさえ思う」。うつ病は、気分の落ち込みや意欲の低下が長く続く、脳のエネルギーが枯渇した状態です。

  • よくある症状: 抑うつ気分、興味・喜びの喪失、食欲不振または過食、不眠または過眠、疲労感、思考力・集中力の低下、自責感、希死念慮
  • 考えられる原因: ストレスをきっかけに発症することが多いですが、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の不調が関係していると考えられています。
  • 治療のアプローチ: 「休養」「薬物療法」「精神療法」の3つが基本です。まずはしっかり休むこと。そして、脳内の神経伝達物質のバランスを整える抗うつ薬(SSRIなど)を服用します。同時に、カウンセリングなどで自分の考え方の癖に気づき、修正していくことで、再発しにくい心を作っていきます。

【体験談:Aさん(30代・女性)の場合】

【体験談:Aさん(30代・女性)の場合】 Aさんは昇進を機に仕事のプレッシャーが増え、不眠と食欲不振に悩んで来院されました。当初は「自分が弱いからだ」とご自身を責めていましたが、うつ病と診断。休職して抗うつ薬による治療を開始し、週に1度のカウンセリングを続けました。半年後、少しずつ意欲が戻り、復職支援プログラムを経て、無事に職場復帰。今では「あの時、勇気を出して病院に行ってよかった」と笑顔で話してくれます。

医師からのメッセージ

「こころの病気は決して特別なことではありません。痛みや苦しみに一人で悩まず、必要な時は迷わず心療内科やカウンセリングをご利用ください。あなたの気持ちに寄り添い、共に回復の道を歩むことをお約束します。」

PubMedに基づく信頼できる文献の引用

当記事で解説している治療法は、科学的根拠に基づいています。例えば、うつ病やパニック障害に対するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や認知行動療法(CBT)の有効性は、数多くの研究で示されています。

  • 引用文献1: Cipriani, A., Furukawa, T. A., Salanti, G., et al. (2018). A comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. The Lancet, 391(10128), 1357-1366.
  • 引用文献2: Otte, C. (2011). Cognitive behavioral therapy in anxiety disorders: current state of the evidence. Dialogues in clinical neuroscience, 13(4), 413–421.
    • URLhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3263389/
    • 概要: このレビュー論文では、パニック障害を含む様々な不安障害に対する認知行動療法(CBT)が高い効果を持つことを、多くの研究結果を基に解説しています。
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