休職・復職の前に知っておきたい心療内科でできること【医師が解説】

はじめに:心が「疲れた」と感じたら

「朝、どうしてもベッドから出られない」 「仕事のことを考えると、動悸や吐き気がする」 「大好きだった趣味も、今は楽しめない」

もしあなたが今、こんな風に感じているなら、それは心が「少し休みたい」とサインを出しているのかもしれません。決して、あなたが弱いわけでも、怠けているわけでもありません。誰にでも起こりうることなのです。

責任感が強い方ほど、「自分が休むわけにはいかない」と無理を重ねてしまいがちです。しかし、車のエンジンも走り続ければオーバーヒートするように、私たちの心と体にもメンテナンスが必要です。

そんな時、あなたの力になれるのが心療内科です。この記事では、心療内科医の視点から、休職や復職という人生の大切な岐路において、私たちがどのようにあなたをサポートできるかをお話ししたいと思います。

心療内科ってどんなところ?怖くない?

「心療内科」と聞くと、少し緊張するかもしれませんね。精神科との違いが分からなかったり、特別な人が行く場所だと思われたりすることも少なくありません。

簡単に言うと、心療内科は「心のストレスが原因で、体に症状が出ている状態(心身症)」を主に診る科です。例えば、ストレスによる胃痛、頭痛、めまい、不眠、食欲不振などですね。もちろん、気分の落ち込みや不安といった心の症状も、うつ病適応障害といった病気も専門的に診療します。

私たちは、あなたの心と体の両方に耳を傾け、不調の原因を一緒に探っていくパートナーだと考えてください。安心して、あなたの言葉で、今感じていることをお話しいただければと思います。

「休む」という選択肢を支えるために

休職を考え始めた時、心療内科では次のようなサポートができます。

正確な診断と状態の評価 まずは、あなたの心と体がどのような状態にあるのかを正確に把握することが大切です。丁寧な問診を通じて、症状の背景にあるものを探り、うつ病や適応障害、不安障害などの診断を行います。診断名はあなたを縛るものではなく、最適な治療方針を立てるための「現在地」を知るためのものです。

診断書の作成 休職するためには、多くの場合、医師の診断書が必要です。私たちはあなたの状態を客観的に評価し、「〇ヶ月程度の休養を要する」といった内容の診断書を作成します。これは、あなたが安心して治療に専念するための「お守り」のようなものです。

治療計画の立案(薬物療法・心理療法) 治療の柱は、十分な休養、薬物療法、そして心理療法(カウンセリング)です。お薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、辛い症状を和らげる手助けをします。抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、必要性や副作用について丁寧に説明し、ご納得いただいた上で最小限から始めます。 カウンセリングでは、公認心理師などの専門家があなたの考え方の癖やストレスへの対処法(コーピング)を一緒に見つけていきます。

休職中の過ごし方のアドバイス 「休めと言われても、何をすればいいかわからない…」。そうした声もよく聞きます。最初のうちは何もせず、ただ心と体を休めることが重要です。回復度合いに応じて、散歩を始めたり、生活リズムを整えたりと、段階的なアドバイスを行います。焦る必要は全くありません。

【体験談】Aさん(30代・SE)の場合

「プロジェクトの重圧で、ある朝、会社に行けなくなりました。自分を責めましたが、妻に勧められて心療内科へ。先生は『よく来られましたね。今まで本当によく頑張りました』と言ってくれました。その一言で涙が止まりませんでした。 適応障害と診断され、3ヶ月休職することに。最初の1ヶ月はひたすら寝て過ごし、徐々に散歩や読書ができるように。カウンセリングで、自分が完璧主義だったことに気づき、物事の捉え方を変える練習をしました。復職前は不安でしたが、先生がリワークプログラムを勧めてくれ、そこで同じ悩みを持つ仲間と出会えたことも大きな支えになりました。今は時短勤務で、無理なく働けています。」

復職後のフォローアップ

復職してからも、定期的な通院で心身の状態をチェックし、再発を防ぐためのサポートを続けます。仕事の悩みや人間関係のストレスなど、どんなことでも相談してください。

よくあるご質問(Q&A)

Q1: 会社には、病名を詳しく伝える必要がありますか? A1: 必ずしも伝える必要はありません。診断書には「うつ状態」「適応障害」などと記載されますが、プライバシーに関わることですので、ご本人の意思が尊重されます。まずは「医師の指示により休職が必要」と伝える形で十分な場合が多いです。どう伝えるか不安な場合は、一緒に考えましょう。

Q2: 薬を飲み始めたら、一生やめられないのでしょうか? A2: そんなことはありません。お薬は、あくまで症状が辛い時期に心と体を守り、回復を助けるためのものです。症状が安定すれば、医師と相談しながら少しずつ減らし、最終的にはやめることを目指します。自己判断で中断すると症状が悪化することがあるため、必ず相談してください。

Q3: カウンセリングはどんな効果があるのですか? A3: カウンセリングは、専門家との対話を通じて、自分の悩みを客観的に見つめ直す時間です。ストレスの原因となっている考え方のパターンに気づいたり、新しい問題解決の方法を学んだりすることができます。誰かに話すだけでも、心が軽くなる効果があります。

医師からのメッセージ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

もし今、あなたが暗いトンネルの中にいるように感じていたとしても、必ず光はあります。そして、あなたはそのトンネルを一人で歩く必要はありません。

私たち心療内科医やカウンセラーは、あなたの伴走者です。すぐに解決策が見つからなくても、あなたの話に耳を傾け、気持ちが少しでも楽になるよう、時間をかけて一緒に歩んでいきます。

どうか「助けを求めることは弱さではない」ということを覚えていてください。それは、自分を大切にしようとする勇気ある一歩です。

あなたのこれからが少しずつ穏やかで、心安らぐ日々へと向かっていけるよう、私たちはいつでもここでお待ちしています。

引用元の情報

引用文献: Nigatu, Y. T., et al. (2021). “Effectiveness of return-to-work interventions for employees with common mental disorders: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.” Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 47(8), 576–588. 有効なURL (PubMed): https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34282855/ (この文献の要約) このシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、一般的な精神疾患(うつ病や不安障害など)を持つ従業員に対する復職支援介入の効果を検証しています。結果として、問題解決療法や認知行動療法を含む多面的な介入が、休職期間を短縮し、復職を促進する上で有効であることが示唆されています。これは、本記事で述べたようなカウンセリングやリワークプログラムの重要性を科学的に裏付けるものです。

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