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抜毛症とは ただの癖ではない理由
抜毛症(トリコチロマニア)は、髪の毛や眉毛 まつ毛などを繰り返し抜いてしまい、やめたいのにやめられない状態が続く病態です。BFRB (反復性焦点行動)の一つとして扱われ、強迫スペクトラムに近い側面もあります。
ポイントは、意志の力だけで止めようとすると、かえって失敗体験が増え、自己否定が強まって悪循環になりやすいことです。治療では、行動の仕組みとトリガーを見つけ、代替行動や環境調整で回路を組み替えていきます。
こんな症状はありませんか セルフチェック
次に当てはまる項目が多いほど、抜毛症の可能性があります。
- 気づくと髪を触っていて、いつの間にか抜いている
- 抜く前にソワソワ 緊張 もやもやが高まる
- 抜いた直後だけスッと落ち着くが、後で後悔する
- 分け目やつむじ 生え際に短い毛や切れ毛が増えた
- 帽子やヘアアレンジで隠すことが増えた
- 抜く行為が勉強 仕事 入眠の妨げになっている
- 皮膚科で円形脱毛症を疑われたが、経過が少し違う気がする
見分けで大切なのは、脱毛の原因が一つではないことです。円形脱毛症、脂漏性皮膚炎、牽引性脱毛、甲状腺機能、貧血なども関係します。抜毛症が疑わしい場合でも、皮膚科と心療内科の併診が役立つことがあります。
原因は一つではない 仕組みを知ると責めなくて済む
抜毛は多くの場合、次の要素が重なって起こります。
- ストレス:不安、緊張の調整としての抜毛
- 退屈や自動運転状態での抜毛:無意識に起こりやすい
- 完璧主義 ・感覚の違和感:ここが気になる という感覚探索
- 家庭・学校・仕事・人間関係・受験・産後など生活イベント
- 睡眠不足、疲労、スマホ作業など手が空く時間の増加
抜毛は、脳が一時的な安心を学習してしまった状態とも言えます。だからこそ、責めるより先に、起点となる場面と気分を言語化することが回復の近道になります。
抜毛症で起こりやすい合併:不安、うつ、 強迫スペクトラム、 ADHD
臨床の現場では、抜毛症の背景に以下が併存することがあります。
- 不安症、パニック、社交不安、全般性不安
- うつ状態:気力低下 自己否定
- 強迫症傾向:反すう、確認、こだわり
- ADHDの不注意:衝動性で手が髪に行きやすい
- 自閉スペクトラム症:感覚過敏で違和感に耐えづらい
合併があると、抜毛だけを止める作戦では不十分なことがあります。気分や睡眠、ストレス反応も一緒に整えるのが現実的です。
治療法の基本:習慣逆転法、CBT、カウンセリング、薬
1) 第一選択になりやすい:習慣逆転法
習慣逆転法は、抜毛の直前サインに気づき、競合反応という代替行動に切り替える訓練です。例
- 抜きたくなったら握る ボールやタオルを両手で握る
- 指先を髪に行かせないために、30秒だけ手を太ももに押し当てる
- 髪を触り始めたら、すぐにヘアバンドや帽子を使う
大切なのは、我慢大会ではなく、動線を変えることです。
2) 認知行動療法:CBTで悪循環をほどく
CBTでは、抜毛を誘発する考え方、例えば、「失敗した私はダメだ」を扱い、ストレス耐性と自己肯定の回復を図ります。マインドフルネスやストレスコーピングも組み合わせると効果的です。
3) カウンセリングで背景を整理する
対人関係の緊張、家庭環境、トラウマ体験、自己評価の低さが関与している場合、心理療法が回復を支えます。安心できる関係の中で、言葉にできなかった感情を整えていくことが、抜毛以外の解決策を増やします。
4) 薬物療法は補助として検討
抜毛症そのものに対する薬は個人差が大きく、不安やうつ、強迫症状、睡眠障害など併存症状に合わせて検討されます。SSRIなどが選択肢になることがあります。サプリやNACが話題になることもありますが、自己判断で増減せず、主治医と安全性や相互作用を確認してください。
自分でできる対策 今日からの工夫
受診前でもできる、再現性の高い工夫です。
- 1日3回だけ記録する:いつ どこで どんな気分で 抜いたか
- 抜毛ゾーンを作らない、机に鏡を置かない、照明を変える
- 手の代替物を固定する:指サック、ハンドクリーム、編み物、ガム
- 髪型を変える:分け目を変える、短めにする、ヘアアレンジを簡略化
- 睡眠と血糖を整える:夜更かしと空腹は衝動を強めやすい
- 週1回の振り返りだけでOK:できた日を増やす設計にする
コツは、抜かない完璧を目標にしないことです。抜く回数が減る、抜き始めてから止められる、傷つく前に気づける、これらはすべて回復のサインです。
体験談:相談してから生活が変わった話
20代女性 会社員の方の例
仕事の締め切り前や会議の前に、無意識に分け目を触って抜いてしまう。最初は隠せていたが、短い毛が増え、朝のセットに時間がかかるようになり自己嫌悪が強まった。
心療内科で話しているうちに、抜毛は緊張が上がった時の逃げ道になっていたことがわかった。カウンセリングでは、会議前の5分だけ呼吸法、席に着いたら両手でペンを持つ、髪に触れたらすぐ指先を太ももに当てる、という小さな動作の切り替えを練習。
2か月後、ゼロにはなっていないが、抜毛の頻度が減り、抜く前に気づける日が増えた。何より自分は意志が弱いのではなく、トリガーや対処法を知らなかっただけと思えるようになったのが一番の変化だった。
よくある質問 FAQ
Q1 抜毛症は治りますか
完治という言葉より、コントロール可能になるケースが多いと捉えると現実的です。波はあり、ストレス期に再燃することもありますが、早めに手当てできるスキルが身につくと生活への影響は大きく減らせます。
Q2 子どもや思春期でも起こりますか
起こります。叱るほど悪化しやすいので、責めずに状況を一緒に観察し、環境調整と専門家相談を進めるのが安全です。小児科や児童思春期外来、心療内科が相談先になります。
Q3 円形脱毛症との違いは
円形脱毛症は境界が比較的はっきりした脱毛斑になることが多い一方、抜毛症では切れ毛や長さの不揃いが目立つことがあります。ただし見た目だけで確定はできません。皮膚科で頭皮所見を確認するのが確実です。
Q4 受診すると何を聞かれますか
いつから、どの部位、頻度、きっかけ、睡眠や不安、気分、生活背景、服薬歴などを確認します。メモがあるとスムーズです。恥ずかしさが強い方ほど、紙に書いて渡す方法が役立ちます。
Q5 家族やパートナーはどう支えればいいですか
やめなさい と監視するより、抜いていない時間を増やす協力が効果的です。例えば、手が空く時間に一緒に散歩、指先を使う趣味の提案、受診の付き添いなど。本人の羞恥を刺激しない声かけが大切です。
受診の目安と受診先:心療内科 ・精神科・カウンセリング
次のいずれかがあれば、心療内科、精神科への相談を勧めます。
- 脱毛が目立ち始め、隠すことで生活の自由が減っている
- 罪悪感、不安、うつが強い、眠れない
- 自分の意思だけでは止められない感じが続く
- 学校・仕事・対人関係に支障が出ている
- 皮膚トラブルがある:かさぶた、出血、炎症
受診先の使い分け
- 頭皮の評価:皮膚科
- 心の症状と行動の治療:心療内科、精神科
- 具体的なトレーニングや背景整理:公認心理師、臨床心理士のカウンセリング
緊急性が高いサイン
自傷の衝動、死にたい気持ちが強い、食事や睡眠が極端に崩れている場合は、早めに入院可能な医療機関へ連絡してください。
医師からのメッセージ
抜毛症は、あなたの弱さの証明ではありません。今のあなたが抱えている緊張や不安を、何とかやり過ごすために身につけた対処が、たまたま髪を抜く形になっているだけです。
責めるほど、孤立するほど、行動は強くなりやすい。だからこそ、恥ずかしさごと持ってきてください。心療内科やカウンセリングでは、やめさせるのではなく、一緒にほどいていくことができます。少しずつで大丈夫です。回復は、気づける瞬間が増えるところから始まります。

