気づかないうちに心が原因?緊張型頭痛とメンタルの深い関係【心療内科医が解説】

はじめに

その頭痛、本当に「いつものこと」ですか?

「また頭がギューッと締め付けられる…」 「後頭部から首筋にかけて、重たい石が乗っているみたい…」

デスクワークやスマートフォンの使いすぎで、このような緊張型頭痛に悩まされている方は少なくないでしょう。マッサージに行ったり、市販の鎮痛薬を飲んだりして、その場をしのいでいるかもしれません。

しかし、もしその頭痛が頻繁に起こり、何ヶ月も続いているとしたら、原因は単なる「肩こり」だけではないかもしれません。こんにちは、心療内科医です。今回は、多くの人が見過ごしがちな、緊張型頭痛とメンタルヘルスの深い関係についてお話しします。

緊張型頭痛とは?

その特徴と症状

緊張型頭痛は、最も一般的な頭痛のタイプです。その主な症状は以下の通りです。

  • 頭全体がヘルメットや鉢巻きで締め付けられるような圧迫感・鈍痛
  • 後頭部、首筋、肩にかけての強いこりや張り
  • めまいや、体がフワフワするような感覚を伴うこともある
  • 吐き気はあっても、実際に嘔吐することは少ない
  • 光や音に過敏になることはあまりない

片頭痛のようにズキンズキンと脈打つ痛みとは異なり、「重い」「痛い」といった鈍い痛みがだらだらと続くのが特徴です。

なぜ「心」が頭痛を引き起こすのか?ストレスとの関係性

では、なぜストレス不安といったメンタルの不調が、緊張型頭痛を引き起こすのでしょうか。そのメカニズムは、私たちの体の「防衛反応」と深く関わっています。

  1. 精神的ストレスと身体の緊張 仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、将来への不安などを感じると、私たちの体は無意識に「戦闘モード」に入ります。このとき、自律神経のうち交感神経が優位になり、全身の筋肉がこわばります。特に、首、肩、背中の筋肉は緊張しやすく、これが頭部への血流を悪化させます。
  2. 血行不良と痛みの発生 筋肉の緊張が続くと、血管が収縮して血行が悪くなります。すると、筋肉内に乳酸などの疲労物質が溜まり、神経を刺激して「痛み」として認識されます。これが、緊張型頭痛の直接的な原因の一つです。
  3. 痛みの感受性の変化 さらに、長期的なストレスは、脳内の痛みをコントロールするシステムにも影響を及ぼします。セロトニンなどの神経伝達物質のバランスが乱れることで、普段なら気にならない程度の刺激でも、強い痛みとして感じてしまう「痛みの悪循環」に陥ることがあります。これは、うつ病不安障害を抱える方に緊張型頭痛が多い理由の一つでもあります。

つまり、「心の疲れ」が「体の緊張」を生み、それが「頭痛」というSOSサインとして現れているのです。

もしかして…?心因性の頭痛セルフチェック

以下の項目に心当たりはありませんか?

  • □ 市販の鎮痛薬を飲んでも、あまり効かない、または一時的にしか効かない。
  • □ 頭痛がない日の方が少ない。
  • □ 特に大きなストレスを感じた日や、翌日に頭痛が悪化する。
  • □ 最近、よく眠れない、または寝ても疲れがとれない。
  • □ 理由もなく不安になったり、気分が落ち込んだりすることが増えた。
  • □ 何事にも集中できず、やる気が出ない。
  • □ 頭痛以外に、めまい、動悸、胃の不快感など他の不調もある。

複数当てはまる方は、あなたの頭痛の背景にメンタルの問題が隠れている可能性があります。

専門家への相談が改善への近道:心療内科でできること

「頭痛で心療内科?」と驚かれるかもしれません。しかし、ストレスが原因の身体症状を専門的に扱うのが、まさに私たち心療内科医の役割です。

市販薬で痛みを抑えるのは、対症療法にすぎません。根本的な原因であるストレス心の状態にアプローチしなければ、つらい症状は繰り返されてしまいます。

心療内科や精神科では、以下のようなアプローチで治療を進めます。

  • 丁寧な問診(カウンセリング):まず、あなたの生活背景、ストレスの原因、感じていることなどをじっくりお伺いします。話すだけでも気持ちが楽になり、問題が整理されることがあります。
  • 薬物療法:筋肉の緊張を和らげる薬(筋弛緩薬)や、痛みの感受性を正常に戻し、不安や抑うつ気分を改善する薬(抗うつ薬、抗不安薬)などを、症状に合わせて慎重に処方します。
  • 心理療法:認知行動療法などを通じて、ストレスに対する考え方や向き合い方を見直し、ご自身でストレスをコントロールできる力を育むお手伝いをします。
  • 生活指導:リラクセーション法、適度な運動、睡眠習慣の改善など、日常生活でできるセルフケアについても具体的にアドバイスします。

一人で抱え込まず、専門家の力を借りることは、決して特別なことではありません。むしろ、自分自身を大切にするための、賢明な選択なのです。

医師からのメッセージ

私たち医療従事者は、心と体の両方を支えるため日々診療を行っています。頭痛は決して一人で悩むものではありません。まずはお気軽にご相談ください。一緒に改善策を探していきましょう。

引用文献

  1. Ashina, S., Mitsikostas, D. D., Lee, M. J., Yamani, N., Wang, S. J., Messina, R., Ashina, H., Buse, D. C., Pozo-Rosich, P., Jensen, R. H., & Lipton, R. B. (2021). Tension-type headache. Nature reviews. Disease primers7(1), 24.
  2. Cathcart, S., Winefield, A. H., Lushington, K., & Rolan, P. (2010). Stress and tension-type headache: a meta-analytic review. Cephalalgia : an international journal of headache30(9), 1059–1078.
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