メンタル不調になりやすい人の生活習慣とは

はじめに

診察室でよく耳にする言葉があります。「たいしたことじゃないのに、気力が湧かない」「眠れないのは性格の問題だと思っていた」。多くの場合、心と体が回復できない生活リズムや習慣が、少しずつブレーキをかけているだけです。メンタル不調は“弱さ”ではありません。仕組みを知って、生活と医療を上手につなげることが回復への近道になります。

メンタル不調になりやすい生活習慣

  • 慢性的な睡眠不足・不規則な睡眠 なぜ問題か:睡眠の乱れは不安・抑うつと双方向に関連します(下部参考文献)。寝不足は情動を過敏にし、判断力を落とします。 よくあるパターン:平日5時間睡眠+週末の寝だめ/就寝直前までスマホ。
  • 食生活の乱れ(朝食抜き、超加工食品中心、野菜・魚不足) 地中海式などバランスの良い食事は抑うつ症状の改善と関連(SMILES試験)。
  • カフェイン・エナジードリンクの過剰摂取 夕方以降のカフェインは入眠と睡眠の質を妨げ、翌日の不調を招きます。
  • アルコールで「寝る」習慣 寝つきはよく見えても、眠りが浅くなり中途覚醒が増え、日中の不調が悪化します。
  • からだを動かさない(運動不足) 定期的な身体活動は“うつの発症予防薬”とも言えるほど効果が示されています。
  • 過度な画面時間・夜間のブルーライト 体内時計が後ろにずれ、メラトニン分泌が抑えられて寝つきが悪化。
  • 長時間労働・境界線の曖昧さ(仕事のオン・オフが混線) 仕事ストレス(要求が高く裁量が低い状態)はうつのリスク上昇と関連。
  • 孤立・相談相手の不在 社会的つながりは強い“保護因子”。孤立は回復力(レジリエンス)を下げます。
  • 喫煙や夜食、深夜のSNS議論など交感神経を高ぶらせる習慣 自律神経バランスの乱れを招き、動悸・胃腸症状・頭痛など身体症状を悪化させます。

気づきのサイン(早めに受診を検討したい症状)

  • 2週間以上続く:気分の落ち込み、興味・喜びの低下、疲れやすさ
  • 集中力低下、ケアレスミス増加、決断しづらさ
  • 眠れない・朝早く目が覚める、悪夢
  • 身体症状:頭痛、めまい、動悸、胃痛・食欲不振、過食、便秘・下痢
  • 焦燥感、不安、イライラ、人混みや通勤がしんどい
  • 「いなくなりたい」などのつらい考えが浮かぶ(この場合はすぐに相談を)

なぜ起こるのか(メカニズムの要点)

  • 体内時計の乱れ:夜更かし+光刺激で概日リズムが後退し、睡眠と覚醒が逆転ぎみに。
  • ストレス応答(HPA軸)の過活動:慢性的ストレスでコルチゾールが乱高下し、気分・免疫・代謝に影響。
  • 炎症と脳可塑性:食事の質や睡眠不足は炎症性サイトカインを上げ、海馬の可塑性に影響しうる。
  • 自律神経バランス:交感神経優位が続くと心身の休息がとれず、症状が長引きやすい。

今日からできるセルフケア(臨床で効果を実感しやすい順)

  • 睡眠の基本セット
    1. 起床時刻を毎日そろえる 2) 朝の光を浴びる(窓辺or散歩10–15分)
    2. 就寝90分前に入浴(ぬるめ) 4) 寝る前はスマホをベッドに持ち込まない
    3. 夕方以降のカフェインは控える
  • 食事 1日3食のリズムを戻し、野菜・豆・全粒・魚・オリーブ油を増やす(地中海型)。エナジードリンク・超加工食品は“ごほうび”に。
  • 身体活動 週合計150分の中等度運動(速歩など)+週2回の筋トレ。最初は“1日10分”からで十分。
  • デジタル衛生 就寝1時間前は「低刺激モード」。夜は暖色系の照明、通知はオフ。
  • つながりの再構築 週1回、気楽に話せる人と5~10分だけでも会話の時間を。
  • マインドフルネス・CBT的セルフヘルプ 3分呼吸法、思考記録法(事実と推測を分けて書く)を試す。

受診をためらわないで

  • こんなときは心療内科へ
    1. 上の症状が2週間以上 2) 仕事・家事・育児に支障
    2. 睡眠薬やアルコールに頼り始めた 4) 自分を責める考えが強い
  • 受診でできること
    • 評価:睡眠・不安・抑うつ・自律神経や身体疾患のスクリーニング
    • 治療:認知行動療法(CBT)、マインドフルネス、カウンセリング、必要に応じて薬物療法(SSRI等)を組み合わせる
    • 産業医連携:勤務調整
  • 相談先 迷ったら自治体の精神保健福祉センター、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)。緊急時は119または最寄りの救急へ。

体験談(匿名の要約)

Aさん(30代・女性・企画職) 繁忙期に連日22時退社。夕方のエナジードリンクが習慣になり、布団に入ってもスマホを離せず、眠りは浅い。朝は強い胃痛と動悸。ある朝、電車に乗れず受診。まずは睡眠の整え(起床固定・朝散歩・カフェイン見直し・就寝前のスマホオフ)と、週1回のカウンセリングで「仕事の境界線(メールは19時まで)」を実践。必要最小限の薬で不安をならしながら4週間で胃痛が軽快、8週間で集中力が戻る。本人の言葉:「病気じゃないと思い込んで、がんばるほど沈んでいました。早く相談してよかった」

よくある質問(FAQ)

Q1. 心療内科と精神科の違いは? A. どちらも“こころの不調”を診ます。心療内科は身体症状(胃腸・頭痛・めまい等)を伴うストレス関連疾患を含めて診ることが多く、精神科はうつ病・不安障害・双極症など精神疾患全般を広く扱います。迷ったらどちらでも構いません。

Q2. カフェインはどれくらいまで? A. 個人差はありますが、午後はなるべく控えめに。少なくとも就寝6時間前以降は避けると睡眠の質が上がります(参考文献)。

Q3. 運動は何から始める? A. 1日10分の速歩から。慣れたら週150分を目安に。継続が最優先です(参考文献)。

Q4. お酒で寝るのはダメ? A. 寝つきは良く見えても眠りが浅くなり、夜間覚醒が増えます。依存や抑うつの悪化にもつながるため、睡眠目的の飲酒は避けましょう(参考文献)。

Q5. スマホが手放せません A. ベッドの外で充電、就寝1時間前に通知オフ、画面を暖色に。朝の“光浴び”で体内時計を前に戻すと夜に自然と眠くなります。

Q6. 薬はクセになりますか? A. 必要に応じて最小限・最短で。依存性の少ない薬を第一選択にし、開始前に利点と注意点を説明します。不安があれば遠慮なく質問を。

医師からのメッセージ

不調は、あなたの弱さではなく、からだの「もう少し休ませて」というサインです。生活を少し整え、必要な支援を受けるだけで、回復のスイッチは必ず入ります。一人で背負わないで、早めに相談してください。私たちは、あなたのペースで伴走します。

引用文献(PubMed)

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