男性も気をつけたい“産後うつ”——心療内科ができること、家族ができること

男性にも起こる「産後うつ」とは

出産は母親だけでなく、父親にとっても心身に大きな変化をもたらします。寝不足、育児ストレス、夫婦関係の変化、仕事と家庭の両立…この重なりが「男性の産後うつ(父親の産後うつ/パタニティーブルー)」につながることがあります。珍しいことではなく、誰にでも起こり得るメンタルヘルスの状態です。恥ずかしいことではありません。早めの相談が回復を早く、確実にします。

主な症状チェックと受診の目安

以下が2週間以上続く場合は、心療内科や精神科への受診を検討してください。

  • 気分の落ち込み、イライラ、焦燥感
  • 興味や喜びの低下(趣味・育児への関心が薄れる)
  • 睡眠障害(寝つけない、夜中に何度も目が覚める)
  • 食欲の変化、体重の増減
  • 集中力・判断力の低下、仕事のミス増加
  • 自分を責める思考、将来への絶望
  • 家族から「最近違う」と言われるほどの変化
  • アルコール量が増える、孤立が強まる 自分で判断に迷うときは、PHQ-9やGAD-7などのセルフチェック(簡易問診)も参考になりますが、診断は医療機関で行います。

なぜ起こる?原因とリスク因子

  • 生活リズムの崩れ:夜間対応で慢性睡眠不足
  • 心理社会的ストレス:家計不安、育児役割の変化、里帰り出産による孤立
  • 夫婦関係の変化:産後クライシス、コミュニケーションのすれ違い
  • 既往歴・家族歴:うつ病・不安障害の既往
  • 職場環境:長時間労働、育休取得の困難さ
  • 生物学的要因:ホルモン変化の関与が示唆される研究もあり、総合評価が重要

心療内科での評価と治療 アセスメント(初診で確認すること)

  • 症状の経過と重症度(問診・尺度)
  • 睡眠・生活習慣、アルコール・カフェイン
  • 仕事・家庭のストレス、サポート状況
  • 鑑別診断:適応障害、双極性障害、不安障害、甲状腺機能異常など

治療の選択肢(個別化が基本)

  • 心理療法:認知行動療法(CBT)、リラクセーション、マインドフルネス
  • 薬物療法:必要時にSSRI等を慎重に選択(副作用や就業・育児への影響を説明)
  • 家族支援:カップルカウンセリング、育児・家事の分担見直し
  • 生活介入:睡眠衛生、軽い有酸素運動、情報(SNS)との距離、職場調整(主治医意見書)

カウンセリングでできること

  • 認知の癖に気づく:「父親は我慢すべき」「完璧でなければならない」などを機能的思考へ
  • ストレス対処:1分呼吸法、短時間で効くリラクセーション、状況別ロールプレイ
  • 夫婦コミュニケーション:Iメッセージ、1日10分の対話、タスクの見える化
  • 再発予防:早期警告サインの棚卸し、危険時の行動計画を紙に

家族・職場ができる支援

  • 具体的に頼る:「夜間は交代」「土曜午前は一人時間」など合意形成
  • 外部資源:祖父母・産後ドゥーラ・家事代行・地域子育て支援の活用
  • 職場:育休・時短・テレワークを早めに相談し、無理のない復帰計画を

体験談(再構成・匿名)

「長男の誕生後1カ月、些細なことで怒りやすくなり、通勤中に“消えたい”と考えてしまいました。怖くなって心療内科へ。『それは弱さではなく、産後うつのサインです』と言われ、CBTと睡眠の立て直しを開始。『完璧な父親』という思い込みを手放し、家事分担表を作ると、1カ月で仕事の集中力が戻りました。今は“早く相談してよかった”と心から思います」

よくある質問(FAQ)

Q1. 男性の産後うつは自然に治りますか? A1. 軽症は自然軽快もありますが、長期化や悪化を防ぐため受診をおすすめします。

Q2. 抗うつ薬は仕事に影響しますか? A2. 個人差はありますが、多くは副作用を見ながら調整可能。眠気が出にくい選択や夜間服用でも対処できます。

Q3. どのくらいで回復しますか? A3. 数週間で睡眠・不安が改善し、数カ月で寛解を目指すケースが多いです。再発予防の継続支援が鍵です。

Q4. パートナーが受診を嫌がるときは? A4. 責めずに事実を共有し、「一緒に相談に行こう」と同伴提案。セルフチェックや自治体相談窓口を橋渡しに。

Q5. 産後クライシスとの違いは? A5. 産後クライシスは夫婦関係の不調、産後うつは医学的症状が中心。併存することもあります。

再発予防とセルフケア

  • 睡眠最優先:交代制・昼寝・寝室環境の最適化
  • 小さな運動:1日合計20分の早歩きから
  • 情報ダイエット:SNS時間を決める
  • つながり:父親学級・育休コミュニティ
  • 予定に「休む」を入れる:週1回のオフ時間を家族で合意

受診のすすめと緊急時の対応

  • 早期受診は回復の近道。心療内科・精神科に遠慮なくご相談ください。
  • 自傷他害の恐れや強い希死念慮、育児の安全に関わる混乱がある場合は、ためらわず救急や地域の緊急相談窓口へ。

医師からのメッセージ 

「嬉しいのに苦しい——産後は相反する感情が同時に起こります。男性の産後うつは珍しくありません。あなたが悪いのではなく、心身と環境の負荷が原因です。治療で良くなります。どうかひとりで抱え込まず、早めに相談してください。あなたの回復は、家族みんなの力になります。」

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