復職判定で主治医と産業医の意見が違うとき|人事担当者が知っておきたい進め方

「主治医は復職可能と言っているが、産業医は時期尚早だと言う」——この食い違いは、どちらかが間違っているために起きているわけではありません。二人が見ている対象が、そもそも違うからです。人事のご担当者から最も多くいただくご相談のひとつがこの場面です。この記事では、なぜ意見が分かれるのか、分かれたときに何から進めればよいのかを、厚生労働省の手引きに沿って整理します。

なぜ意見が食い違うのか——見ているものが違う

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、この点をはっきり書いています。

主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。(厚生労働省・同手引き 第2ステップ)

何を基準に見ているか
主治医日常生活を送れる程度まで回復したか
産業医その職場の、その業務を遂行できるか

つまり主治医は多くの場合、その職場の実際の業務内容を知りません。診断書に「復職可能」とあっても、それが「以前と同じ密度で働ける」という意味とは限らない、ということです。

手引きは続けて、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力について産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要だとしています。意見が分かれること自体は、制度上あらかじめ想定された過程だと捉えたほうが、実務は前に進みます。

手引きが示す5つのステップ

第1ステップ病気休業開始及び休業中のケア
第2ステップ主治医による職場復帰可能の判断
第3ステップ職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
第4ステップ最終的な職場復帰の決定
第5ステップ職場復帰後のフォローアップ

意見が食い違うのは、第2ステップと第3ステップの境目です。ここで止まってしまう企業が少なくありませんが、手引きの設計上、第2ステップの診断書は判断材料のひとつであって、結論ではありません。可否を判断するのは第3ステップです。

意見が分かれたとき、まずやること

  1. 主治医に、職場で必要とされる業務遂行能力を伝える
  2. 産業医等から主治医へ、必要な情報や意見を照会する
  3. 復職支援プランを作り、段階を設計する

1つ目が最も効果があります。手引きも、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、就業可能な回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうとよい、としています。

2つ目について、手引きは診断書の内容だけでは不十分な場合、産業医等は労働者の同意を得た上で、必要な内容について主治医から情報や意見を収集すると定めています。本人の同意なしに主治医へ照会することはできません。ここは必ず順序を守ってください。

3つ目は、可否を「できる・できない」の二択にしないための工夫です。勤務時間、業務内容、段階的な配置の変更などを具体的に組み立てることで、判断が白黒から現実的な設計に変わります。

主治医に情報提供を依頼するときの注意点

手引きが挙げている留意点です。

  • 事前に、当該労働者への説明と同意を得ておく
  • 主治医に対し、職場復帰支援に関する事業場の制度や、本人に求められる業務の状況等を十分に説明する
  • 情報は、職場で配慮すべき事項を中心に必要最小限とする
  • 情報提供を依頼する場合の費用負担を、あらかじめ主治医との間で取り決めておく

実務でつまずきやすいのは2つ目です。「復職可能でしょうか」とだけ問い合わせても、返ってくる答えは変わりません。1日何時間の勤務か、どのような作業か、通勤にどれくらいかかるか——具体的な条件を渡してはじめて、主治医は職場の基準で答えられるようになります。

復職可否の判断基準の例

手引きは、判断基準の例として次を挙げています。

  • 労働者が十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
  • 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業ができる
  • 作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している

ここで注目していただきたいのは、手引きが労働者の業務遂行能力が完全に改善していないことも考慮し、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断するとしている点です。100点の回復を待つのではなく、受け入れ側の条件とセットで考える設計になっています。

試し出勤制度という選択肢

正式な職場復帰決定の前に、社内制度として試し出勤等を設けると、より早い段階で復帰の試みを開始できます。手引きが挙げている例です。

模擬出勤勤務時間と同様の時間帯に、模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす
通勤訓練自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する
試し出勤職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する

ただし導入には注意が必要です。手引きは、処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等について、あらかじめ労使で十分に検討しルールを定めておくことを求めています。作業について使用者が指示を与えたり、作業内容が業務に当たる場合などには労働基準法等が適用される場合があり、賃金等について合理的な処遇を行うべき点にも留意が必要です。

最終的に決めるのは誰か

事業者です。手引きの第4ステップは「最終的な職場復帰の決定」とされ、事業者による最終的な職場復帰の決定を行うと明記されています。産業医等は「職場復帰に関する意見書」等を作成し、事業者はそれを踏まえて決定し、就業上の配慮の内容とあわせて労働者に通知します。

したがって、主治医の診断書に必ず従わなければならない、というものではありません。ただし医学的な意見を無視してよいという意味でもなく、産業医等による精査を経ることが前提になります。手引きはさらに、決定した対応や配慮の内容が労働者を通じて主治医に的確に伝わるようにすることも求めています。

よくあるご質問

Q. 主治医が「復職可能」としているのに復職させないと、問題になりませんか。
手引きは、主治医の診断が必ずしも業務遂行能力の回復を意味しないことを前提に、産業医等が精査して意見を述べる仕組みを示しています。重要なのは結論よりも過程です。情報を集め、産業医等の意見を得て、記録を残したうえで判断しているかどうかが問われます。

Q. 産業医がいない事業場ではどうすればよいですか。
産業医の選任義務があるのは常時50人以上の事業場ですが、それ未満でも医師の意見を求めることはできます。復職判定や面接指導を単発で依頼する形もあります。

Q. 本人が強く復職を希望している場合は。
意欲があること自体は判断基準の一つに挙げられています。ただし通勤や勤務の継続可能性は別に確認が必要です。試し出勤等を挟むと、本人にとっても職場にとっても判断材料が増えます。

Q. 復職後にまた不調が出た場合は。
手引きの第5ステップはフォローアップです。再燃・再発は早期の気づきと迅速な対応が不可欠とされており、復職後も定期的に勤務状況と業務遂行能力を評価し、必要に応じてプランを見直します。

企業のご担当者さまへ

当院では、嘱託産業医の契約のほか、復職可否についての意見書作成や面接指導をスポットでもお受けしています。院長は日本医師会認定産業医で、複数の企業で嘱託産業医を務めています。

外来で本人の診療を担当する立場と、職場側で判断する立場の両方を日常的に行き来しているため、今回のような食い違いの実務にも具体的にお答えできます。詳しくは法人・企業のご担当者さまへをご覧ください。

参考文献

医師からのメッセージ

復職判定でご担当者が板挟みになるのは、判断が難しいからというより、判断の枠組みが共有されていないからであることがほとんどです。主治医と産業医が別のものを見ているという前提さえ共有できれば、対立ではなく分担として扱えるようになります。

そして、迷ったまま復帰を急ぐことが、結果的に再休職につながる場面を何度も見てきました。時間をかけて情報を揃えることは、遠回りではありません。

判断に迷われた段階でご相談いただいても大丈夫です。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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