あなたの「欠点」は、裏返せば「個性」ですらない。ただの“特徴”である。

まえがき:欠点は“悪”じゃない、まずはラベリングを外す

診察室で「私の欠点は直せますか?」と尋ねられることがあります。しかし、欠点という言葉は、いったん机に置いてみませんか?
あなたが抱える「過度に気にしやすい」「先延ばししてしまう」「人混みで疲れやすい」などは、病気とは別の“特徴”かもしれません。特徴は、環境や使い方次第で強みにも弱みにも転びます。
ただし、日常生活に支障が出ているなら、背景にうつ病や不安障害、発達特性など“治療できる要素”が隠れている可能性もあります。この記事では、両者を上手に見分け、必要な支えを得る道筋をお伝えします。

※命に関わる強い希死念慮や急な体調悪化がある場合は、ただちに救急(日本では119)や地域の救急外来へご連絡ください。

欠点と特徴のちがいを、やさしく見分ける

  • 期間と強さ
    • 特徴:状況次第で揺れ、回復の波がある。数日で戻ることが多い。
    • 病気:2週間以上、抑うつや不安・過覚醒が続き、セルフケアで改善しない。
  • 生活への影響
    • 特徴:疲れやすいが、休息や工夫で持ち直せる。
    • 病気:仕事・学業・家事・対人関係に明確な支障。自己管理が利きにくい。
  • 身体症状
    • 特徴:緊張で動悸や発汗が起きるが短時間。
    • 病気:睡眠障害、食欲低下、慢性的な倦怠感、パニック発作などが頻発。
  • コントロール感
    • 特徴:環境調整や時間管理で和らぐ。
    • 病気:工夫しても抑えられず、苦痛と消耗が蓄積する。

迷ったら一度、心療内科で評価を受けることをおすすめします。早めの相談は“重くならないうちに手当てをする”こと。それ自体が前向きなセルフケアです。

よくある「特徴」別のつまずきと整え方

  • 高敏感(HSP傾向)
    • つまずき:人混み・騒音・強い光で疲労。相手の感情に引きずられる。
    • 整え方:ノイズキャンセル・休息のマイクロブレイク・刺激の少ない作業環境。境界線スキル。
  • 完璧主義
    • つまずき:基準が高すぎて着手が遅れる、自己否定が強くなる。
    • 整え方:80点納品の練習、タイムボックス法、思考記録法で「べき思考」を客観視。
  • 衝動性・先延ばし
    • つまずき:スマホや通知で逸れやすい、期限間際に焦る。
    • 整え方:ポモドーロ・行動のトリガー設計・誘惑の遮断(通知オフ)。環境デザインで勝つ。
  • 内向性
    • つまずき:雑談や会議が続くと疲れ切る。
    • 整え方:アポの間に“回復の隙間”を予約。非同期コミュニケーションを提案。

これらは「直す」より「使い方を学ぶ」テーマです。うまく整うだけで、十分に日常は回りはじめます。

病気が隠れている場合に見落としたくないサイン

  • うつ病
    • 症状:興味の喪失、朝の抑うつ、希死念慮、睡眠障害、食欲変化、罪悪感。
    • 原因の一例:慢性的ストレス、過労、喪失体験、体質。
    • 治療:休養調整、認知行動療法(CBT)、薬物療法(SSRIなど)、生活リズムの再建。
  • 不安障害・パニック障害・社交不安
    • 症状:強い不安、動悸、息苦しさ、予期不安、回避行動。
    • 治療:曝露療法、CBT、呼吸法、薬物療法(SSRI/ベンゾ系は慎重に)、段階的リハビリ。
  • 適応障害
    • 症状:特定のストレス要因に対する抑うつ・不安・行動化。原因が軽くなると改善しやすい。
    • 治療:環境調整、カウンセリング、短期支援、職場・学校との連携。
  • ADHD特性(成人)
    • 症状:不注意、過集中、先延ばし、片づけの困難、衝動性。
    • 治療:環境調整、行動療法、コーチング、必要に応じ薬物療法、タスク設計。

特徴と病気は“重なり合う”ことがあります。評価と治療で、できるだけ「苦しさの核」を軽くしましょう。

体験談(仮):Yさんの“特徴”が働き方を変えた

Yさん(30代・事務)は「遅い・神経質・疲れやすい」という“欠点”に悩んでいました。初診時、睡眠は浅く、朝の抑うつが強い。詳細に聴くと、部署異動以降に悪化しており、明るいオープンオフィスと電話応対の多さが負担になっていました。
評価の結果、軽症うつ病と高感受性の特徴が重なっていると考えました。治療は3本柱にしました。

  1. 休息と生活リズムの再建(睡眠衛生・就労調整)
  2. 認知行動療法で「100点じゃないと意味がない」という思考をゆるめる
  3. 環境調整(静かな席・ノイズ対策・チャット中心の連絡)

2カ月後、薬は最小限で済み、Yさんは「私の欠点は“扱い方”の問題だった」と笑いました。特徴を責めるのではなく、手当てと調整で景色は変わります。

受診を迷っている方へ:通院・カウンセリングの流れ

  • 初回相談
    • これまでの経過、生活リズム、困りごと、強みを一緒に整理します。オンライン診療の可否も案内。
  • 評価
    • 必要に応じて質問紙(PHQ-9、GAD-7など)や血液検査で身体要因の除外。
  • 治療計画
    • 認知行動療法・カウンセリング・薬物療法・休職/復職支援・職場連携を組み合わせます。
  • 継続フォロー
    • 再発予防プラン、セルフケアの習慣化、環境の微調整。必要な頻度で通院。

「まだ軽いから」と先延ばしにせず、早めに相談するほど回復はスムーズです。カウンセリングは“弱さ”ではなく“賢さ”の選択です。

ミニセルフケア:今日からできる3つ

  • 睡眠の固定:起床時刻を毎日同じにする(最初の介入点として効果的)。
  • 呼吸2分:吐く息を長めに(4-6秒)×10回。自律神経を整える。
  • 思考のメモ:1日1回、「できたこと」を3つ書く。自己効力感の回復。

Q&A(よくある質問)

Q1. 私の“欠点”は直りますか?
A. 直すより「対処法と環境」を整えます。病気があれば治療、特徴は調整。両輪で改善します。

Q2. 薬は怖いです。飲みたくありません。
A. まず非薬物療法(CBT・睡眠衛生・環境調整)を優先し、必要最小限で薬を使う選択も可能です。副作用や中止計画は事前に説明します。

Q3. どのタイミングで受診すべき?
A. 2週間以上の不調、仕事や家事に支障、睡眠障害・食欲低下・希死念慮があるときは早めの相談を。迷ったら一度評価を。

Q4. オンラインでもカウンセリングは受けられますか?
A. 可能です。対面との併用が効果的な場合もあるため、症状に応じて計画します。

Q5. 発達特性があるか心配です。検査は必要?
A. 特性の強さと困りごとの因果を見極めるため、心理検査や行動観察が役立つことがあります。まずは生活上の支障から一緒に確認しましょう。

医師からのメッセージ

あなたの“欠点”は、罰する対象ではなく、まだ使い方を教わっていない“特徴”です。必要なら治療で苦しさを軽くし、特徴は生活や仕事に合う形へ整え直す—それが私たちの仕事です。ひとりで抱え込まないで。よろしければ、どうぞ受診やカウンセリングでお話を聞かせてください。

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