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その「憂鬱」は、あなたの心が発しているSOSかもしれません
街中がクリスマスやお正月のムード一色になると、なぜか動悸がしたり、気分が沈んだりすることはありませんか? 世間が「家族団欒」や「ハッピーニューイヤー」と盛り上がるこの時期、診察室では逆に、表情を曇らせる患者様もいらっしゃいます。
いわゆる「年末年始うつ(ホリデー・ブルース)」や、帰省に伴う強烈なストレス反応です。 「みんなが楽しんでいるのに、辛く感じる自分は冷たい人間なのではないか」 そんな風に自分を責める必要はありません。この記事では、医学的な視点と現場での経験をもとに、この苦しい時期をどう乗り越え、心を守るかについてお話しします。
年末年始に心が不安定になる医学的な理由
なぜ、長期休暇で体調を崩すのでしょうか。これには自律神経と環境要因が深く関わっています。
- 生活リズムの乱れと概日リズム睡眠障害 夜更かしや暴飲暴食により、体内時計(サーカディアンリズム)が狂いやすくなります。これにより、セロトニンの分泌が乱れ、抑うつ状態を引き起こしやすくなります。
- 「役割」への過剰適応 「良き妻・夫」「良き子供」を演じなければならないプレッシャーは、精神的な緊張状態を持続させます。これは適応障害の引き金になりかねません。
- 冬季うつ(季節性情動障害)の影響 日照時間が短いこの時期は、もともと気分が落ち込みやすい時期でもあります。
帰省ストレスの正体と、具体的な防衛策
特に多いのが、親戚付き合いや実家への帰省に関する悩みです。苦手な親族からの「結婚はまだか」「子供は」「仕事は」といった何気ない言葉(マイクロアグレッション)は、心に深い傷を残すことがあります。
今日からできる「心のシェルター」の作り方
- 物理的な距離を確保する(ショートステイ作戦) 「仕事が忙しい」という嘘も、心を守るためには必要な「方便」です。滞在時間を半日だけにする、あるいは今年は帰省をスキップする勇気も、立派なセルフケアです。
- トイレとお風呂は「聖域」にする 実家の中で唯一、一人になれる場所です。深呼吸(腹式呼吸)をして、副交感神経を優位にする時間を意識的に作ってください。
- 「マインドフルネス」を取り入れる 親戚の言葉を真に受けず、「ただの音」として聞き流すイメージを持ちましょう。自分の感情を客観視する認知行動療法のテクニックが有効です。
患者様の体験談:Aさん(30代女性)のケース
Aさんは、毎年義実家への帰省後にひどい頭痛と不眠に悩まされ、1月中旬まで体調が戻らない状態で来院されました。 診断は「適応障害」。 診察室での提案は、「今年は帰省せず、ホテルで一人で過ごすか、ご主人だけ帰ってもらうこと」でした。 最初は「そんなことできない」と仰っていましたが、実行した結果、「こんなに静かで穏やかなお正月は初めて」と涙を流されました。 「逃げる」ことは「負け」ではありません。「戦略的撤退」なのです。
よくある質問(FAQ)〜心療内科医がお答えします〜
Q1:親に会うと動悸がします。これは病気ですか? A1: それは体が発している拒絶反応のサインであり、身体化症状の一つかもしれません。特定の人物や場所で症状が出る場合、無理を重ねるとうつ病へと移行するリスクがあります。早めに専門家へ相談することをお勧めします。
Q2:年末年始でも心療内科は受診できますか? A2: 多くのクリニックは年末年始に休診となりますが、その前後は非常に混み合います。「辛いな」と思ったら、12月の中旬までに一度受診するか、あるいは年明けの予約を早めに確保しておくことが、安心材料(お守り)になります。
Q3:ただの疲れか、受診が必要なレベルか分かりません。 A3: 「眠れない」「食欲がない」「何をしていても楽しくない」状態が2週間以上続く場合、あるいは「消えてしまいたい」という希死念慮がよぎる場合は、迷わず受診してください。
医師からのメッセージ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 もしあなたが今、年末年始の予定を考えて胃が痛くなるようなら、それはあなたの心が「助けて」と言っている証拠です。
家族や親戚よりも、まずは「あなた自身の心」を最優先にしてください。 お正月だからといって、無理に笑う必要はありません。 布団の中で丸まって過ごしたとしても、あなたが生き延びて新年を迎えたなら、それは100点満点の年末年始です。
もし、自分一人で抱えきれない苦しみがあるなら、私たち専門家を頼ってください。薬物療法で不安を和らげたり、カウンセリングで思考の整理をしたりすることで、楽になれる道は必ずあります。
あなたの心が、少しでも穏やかな年末年始を過ごせますように。

