
「いまの自分、ちょっと頑張りすぎているかもしれない」——そう感じたら、一度立ち止まりましょう。情報の波は見えないけれど、確実に脳の体力を削ります。診療内科の外来でも、うつ病や不安障害の手前で「認知疲労」「SNS疲れ」「決断疲れ」を訴える方が増えています。ここでは、医療の知見と、日常ですぐ使える工夫を、できるだけやさしい言葉でお伝えします。
目次
情報過多とは?——脳の「注意資源」を使い切る状態
- つぎつぎ届く通知・ニュース・SNS・チャット・動画により、脳の「注意資源(attention)」が消耗。
- 「認知負荷」が上がると、集中力の低下、判断ミス、感情の波、睡眠障害が起きやすくなります。
- アルゴリズム設計は“つい開きたくなる”仕組み(間欠強化・ドーパミン)になっており、意思の弱さではありません。
よくあるサイン(症状)
- 寝つきが悪い・夜中に目が覚める(睡眠衛生の乱れ)
- 仕事や勉強のミス増加、締切直前の焦り
- 心がざわつく、動悸・息苦しさ、肩こり・頭痛、めまい
- 何度も同じアプリを無意識に開いてしまう(習慣化)
- 文章が頭に入らない、会議後に極端に疲れる
- 決断がつらい(意思決定疲労)、イライラ、自己否定
- 休日も休まった感じがしない(バーンアウトの手前)
医療的に見ると、うつ病・不安障害・ADHD/発達特性・睡眠障害などと併存しやすい点に注意が必要です。
原因をひも解く:なぜ止められないのか
- 通知・未読バッジ・リールは「間欠強化」でドーパミンを刺激
- 情報の粒度がバラバラで脳が絶えずコンテキスト切替(タスクスイッチングコスト)
- FOMO(取り残される不安)、比較による自己効力感の低下
- リモートワークで境界が消え、オン・オフが崩れる
60秒セルフチェック(簡易版)
各項目に当てはまる数を数えてください。
- 朝起きても疲れが抜けない日が週3日以上ある
- SNSやニュースを閉じた直後に、また開いている
- ベッドに入ってから30分以上スマホを触る
- 決められず、つい「保留」が増えている
- 仕事後の頭痛・肩こり・目の乾燥が気になる
- 休日も「何か見なきゃ」と焦る
- 会議後にぐったりして、言葉が出にくい
- 0–2個:セルフケアで回復が見込めます
- 3–4個:生活調整+カウンセリングを検討
- 5個以上:心療内科での評価を推奨(睡眠・不安・気分の評価を含む)
※診断ではありません。つらさが続く場合は早めにご相談ください。
今日からできる「情報防衛スキル」7選
- 通知の90%オフ
- 必須アプリ以外は「通知なし」。バッジもオフに
- チャットは「時間を決めてまとめて読む」
- ホーム画面の断捨離
- 1ページ目は「使う道具」だけ。SNS・ニュースは2ページ目以降
- 白黒表示にすると衝動が減ります
- 情報ファスティング(3ステップ)
- 期間:まずは24時間のミニ実験
- 入力を「3枠」だけに限定(例:仕事のメール、1紙のニュース、家族LINE)
- 出力(メモ/日記/散歩)を同じかそれ以上の時間に
- 就寝90分前のスクリーンオフ
- ブルーライトと認知興奮を避ける
- 代わりに、40℃以下の入浴、ストレッチ、紙の本
- 3分マインドフル呼吸
- 4秒吸って6秒吐く×10回。肩と顎の力を抜く
- 不安が波のように来ても「ラベリング(今、不安)」で流す
- 予定に「空白の30分」を入れる
- タスクスイッチングの回復時間
- ポモドーロ(25分集中+5分休憩)を1~2セットでも
- 情報の「栄養バランス」
- 目的のある長文1本>断片的な短文100本
- 「入力:出力=1:1」を目安に、メモ・手書き・散歩でアウトプット
専門的なサポートが必要なとき
- 2週間以上の抑うつ・不安、食欲や睡眠の著しい変化、仕事・学業に支障、希死念慮がある場合は受診を。
- 心療内科・精神科では:
- 認知行動療法(CBT)やACTで「情報との距離」をトレーニング
- 睡眠衛生指導、概日リズム調整
- 必要に応じて薬物療法(不眠・不安への短期介入が中心)
- 併存のADHD/発達特性の評価や職場・学校への調整書面
カウンセリングは「やり方がわかる」「一人では続かなかった工夫が続く」ための伴走役です。早めの相談は回復を速めます。
体験談(外来でのよくあるケース)
- 会社員・30代男性
「寝る前のニュース巡回が習慣でしたが、気づくと1時間。朝のだるさが抜けず焦って受診。通知オフと“1紙だけルール”、就寝前のストレッチで2週間後には入眠がスムーズに。会議の集中も戻り、週末の頭痛が減りました。」 - 大学生・20代女性
「SNSの比較で自己嫌悪。勉強が手につかず不安で涙が出る日も。カウンセリングで“朝1時間はSNSレス”のゴールドタイムを作り、学習はポモドーロ2セットから。3週目で“できる自分”が戻り、SNSは1日合計30分に。」
※いずれも匿名化・複数事例の要約です。
よくある質問(FAQ)
Q. 情報に疲れるのは“怠け”ですか?
A. いいえ。人の脳はそんな設計ではありません。アルゴリズムと通知設計が強力すぎるのです。仕組みで守りましょう。
Q. 仕事柄スマホを手放せません。
A. 使う時間帯を決める・通知の段階化・1ページ目を道具だけにする、で負荷は大きく下げられます。
Q. 薬は必要ですか?
A. 必要な方は一部です。不眠・強い不安には短期的に有効な選択肢があります。まずは評価し、非薬物療法と並行します。
Q. 子どもの情報過多は?
A. 年齢に応じたスクリーンタイム、就寝前は紙の読書、家族ルールの合意形成が効果的です。学校・保護者と連携します。
Q. HSP(敏感気質)との違いは?
A. HSPは刺激に敏感な特性。情報過多は環境因子です。両方が重なると負荷は増すため、環境調整が特に有効です。
Q. 何科に行けば?
A. まずは心療内科・精神科へ。身体症状が強い場合は内科の併診も検討します。
7日間リセット・プラン(簡易テンプレ)
- Day 1:通知断食(必須以外オフ)+就寝90分前スクリーンオフ
- Day 2:ホーム画面整理+1紙ルール
- Day 3:ポモドーロ2セット+3分呼吸
- Day 4:情報ファスティング24h(入力3枠限定)
- Day 5:朝散歩10分+紙のノートにメモ出力
- Day 6:SNS合計30分に上限設定
- Day 7:1週間の振り返り(何が楽だったか/戻したいもの)
「全部」は不要。7割で十分です。
受診・カウンセリングのご案内
- 初診では、睡眠・気分・不安・生活リズム・仕事/学業の状況を丁寧に伺います。
- オンライン相談や夜間枠も用意。職場・学校向け文書の作成にも対応します。
- まずは「しんどさを言語化」することから。一人で抱え込まないでください。
医師からのメッセージ
情報の波は、無意識にあなたを疲れさせているかもしれません。小さなテコでも、生活は驚くほど楽になることがあります。つらさを“早めに言葉にする”ことも立派な対策です。必要なときは、どうか私たちを頼ってください。あなたのペースを取り戻すお手伝いをします。