
目次
はじめに
気分が落ち込む日と、不思議と元気が出る日。
誰にでも波はありますが、その波が少し大きくなりすぎると、仕事や家庭、人間関係に影響が出てきます。
- 朝、起き上がれない
- ささいな一言でひどく落ち込む
- 夜になると急にハイテンションになって、後から自己嫌悪になる
こうした「気分の波」に振り回されると、「自分は弱いのではないか」「性格の問題なのでは」と自分を責めてしまいがちです。
心療内科医として多くの患者さんを診てきて感じるのは
メンタルの波は「性格」ではなく「体調」や「脳のコンディション」である
ということです。
ここでは、気分の波に悩む方が、自分を責めすぎず、適切なケアや心療内科受診につなげられるよう、できるだけやさしい言葉でまとめました。
気分の波は「甘え」ではなく、脳と心のサイン
気分の波がつらいとき、多くの方が最初に抱くのは
「自分が弱いだけなのでは」
という自己否定です。
ですが、診療内科に来られる方を拝見していると
- 真面目で責任感が強い
- 周囲に気をつかいすぎる
- つねに頑張り続けてしまう
そんな方ほど、強いストレスや睡眠不足が重なって、脳のエネルギーが消耗し、気分の波が大きくなっていることがよくあります。
代表的な状態としては
などがあります。これらは意志や根性ではなく、脳と心のバランスの乱れが背景にある「病気」や「状態」であり、治療やサポートの対象です。
気分の波に気づくためのセルフチェック
ご自身の状態を知るために、いくつかの問いを用意しました。
- 朝、起きるのがつらく、布団から出られない日が多い
- 楽しかったことや趣味が、前ほど楽しく感じられない
- 食欲が極端に落ちた、または過食してしまう
- 理由もなく不安になり、息苦しさや動悸が出る
- 夜になると妙に元気になり、寝るのが惜しくなる
- イライラして人に当たってしまい、自己嫌悪する
- 「消えてしまいたい」と思うことがある
これらが2週間以上、生活に支障が出るレベルで続いている場合、心療内科や精神科での相談を強くおすすめします。
特に
- 寝る時間が極端に短くなっているのに元気な状態が続く
- お金の使いすぎや衝動的な行動が増えた
といった場合は、双極性障害の可能性も考え、早めの受診を検討してください。
心療内科医が伝えたい
気分の波を整える6つのセルフケア
ここからは、心療内科医として日々患者さんにお伝えしている、現実的で続けやすいセルフケアを紹介します。
1. 睡眠のリズムを最優先にする
気分の波を整えるうえで、睡眠は「薬以上の薬」と言われるほど重要です。
- なるべく毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる
- 眠れなくても、布団に入る時間だけは固定する
- 寝る2時間前からスマホ・PCの光を少し減らす
- カフェインは夕方以降は控える
完全に守れなくても「7割できたら合格」くらいの感覚で十分です。
2. 気分の波を「見える化」する
感情は主観的ですが、記録すると客観視しやすくなります。
- 手帳やスマホのメモに、その日の気分を0〜10で記録
- 一緒に睡眠時間や出来事もメモする
数週間続けると
- 生理前に落ち込みやすい
- 休日明けに不調になりやすい
- 徹夜明けは必ずイライラが強くなる
など、自分だけの「パターン」が見えてきます。これは診療の場でも、とても役立つ一次情報です。
3. 「完全に治そう」より「波を小さくする」発想へ
気分の波をゼロにするのは、医学的にもかなり難しいことです。
- 波をゼロにする
ではなく - 波の高さを少しずつ低くしていく
- 波の周期をゆるやかに伸ばしていく
と考えると、現実的で続けやすくなります。
4. 食事と運動は「頑張りすぎない」レベルで続ける
- 1日1回は温かい汁物をとる
- コンビニでもいいので、サラダや野菜スープを1品プラス
- 5〜10分の散歩から始める
メンタルヘルスのガイドラインでも、軽い運動とバランスの良い食事は、うつ状態・不安障害の回復を助ける「補助療法」として位置付けられています。
5. 甘えではなく「相談する力」を鍛える
強いストレスで心身が疲れ切っているときは、ひとりで抱え込むほど、気分の波は激しくなります。
- 家族や友人に「話だけ聞いて」と伝える
- 職場で信頼できる上司に、体調の波について相談する
- カウンセリングや心療内科という専門機関を使う
これは「甘え」ではなく、自分を守るための立派なスキルです。
6. ネット情報は「参考」程度に
専門家と話す機会をつくる
インターネットのメンタル情報は、とても便利ですが、診察室で感じるのは
- 読みすぎて余計に不安になっている
- いくつもの病名が自分に当てはまる気がして、混乱している
という方が多いことです。
ネット情報はあくまで「地図」
正確な診断と治療は「現場での対話」
と分けて考えていただけると、心が少し楽になります。
心療内科・カウンセリングを受けた体験談
(ケースはプライバシーに配慮して内容を変えています)
ここでは、診療内科に通院した方、カウンセリングを受けた方のストーリーを、匿名・内容調整のうえでご紹介します。
ケース1
30代会社員
「性格だと思っていた波が、治療対象だと知って救われた」
30代前半の会社員Aさんは、仕事では高評価で、周囲からは「頼れる人」と見られていました。
一方で、内面では
- 朝起きられない日が増える
- 突然涙が出る
- 仕事の後に何もする気が起きない
という状態が続いていました。
ご自身では
「これは私の甘え、性格の問題だ」
と思い込み、長く我慢されていましたが、ある日出社できなくなり、当院を受診されました。
診察と問診、心理検査を行い、うつ病の診断となりました。
- 抗うつ薬を少量から開始
- 睡眠リズムの調整
- 2週間に1回のカウンセリング
を続ける中で、3ヶ月ほどかけて、少しずつ気分の波が落ち着き、半年後には
「自分の限界ラインを知って、無理をしすぎない働き方ができるようになった」
と話してくださいました。
ケース2
20代女性
「カウンセリングで、自分を責めるクセに気づいた」
20代後半のBさんは、恋愛や仕事で何かあるたびに、気分が急降下し
「どうせ自分なんて」
という気持ちに支配されていました。
診察の結果、病名のつく「うつ病」とまではいかないものの、ストレス反応と自己否定のクセが重なり、強い落ち込みにつながっている状態でした。
Bさんには、薬物療法ではなくカウンセリング中心のサポートを提案しました。
- 1〜2週間に1回のペースでカウンセリング
- 感情の言語化と、思考のクセの整理
- セルフコンパッション(自分への思いやり)の練習
を重ねることで
「落ち込んでいる自分を、少し離れた場所から見られるようになった」
「気分の波が来ても、前ほど振り回されなくなった」
と感じられるようになりました。
Q&A
気分の波と心療内科・カウンセリングについて
Q1
気分の浮き沈みは昔からあります
病気として診てもらうほどではない気がして、受診してよいのか迷います
A1
診療内科には、「病名をつける」ためだけでなく
- 今の状態が病気に近いのか
- 生活習慣の調整で様子を見られるのか
- カウンセリングが向いているのか
を一緒に整理する場として来ていただいて構いません。
「今の状態がどの位置にあるのか」を確認するだけでも、安心材料になる方は多いです。
Q2
忙しくて通院の時間がとれません
それでも受診した方がいいサインはありますか
A2
次のようなサインがある場合は、忙しくても一度相談されることを強くおすすめします。
- 仕事や家事が、明らかにこなせなくなっている
- 食欲・体重の変化が大きい
- 眠れない、または寝すぎてしまう状態が続く
- 「いなくなりたい」と感じることが増えている
オンライン診療や夜間外来、土日診療を行っているクリニックもあります。
「それでも来てください」というより、「来られる形を一緒に探しましょう」というスタンスで良いと思います。
Q3
薬を飲むのが怖いです
一度飲んだらやめられないイメージがあります
A3
不安に感じられるのは自然なことです。
実際には
- 今の状態に本当に薬が必要かどうか
- 生活調整やカウンセリングで様子を見る選択肢もあるか
を、診察の中で一緒に検討します。
薬を使う場合でも
- 最小限の量から開始
- 効果と副作用を確認しながら調整
- 目標が見えたら、医師と相談しつつ減量・中止を検討
というステップを踏むのが一般的です。
「絶対に薬を飲みたくない」も含めて、率直に伝えていただいて大丈夫です。
Q4
カウンセリングと心療内科は、どちらに行けばいいですか
A4
ざっくりとした目安ですが
- 日常生活に大きな支障が出ている
- 睡眠や食欲の変化が続いている
- 自傷念慮や希死念慮がある
場合は、まず心療内科や精神科などの医療機関を受診してください。
一方で
- 自分の考え方や感情のクセを整理したい
- 対人関係や家族関係の悩みをじっくり話したい
という場合は、臨床心理士や公認心理師によるカウンセリングがとても役立ちます。
実際には
心療内科で診断と方針を確認しつつ、必要に応じてカウンセリングを併用する
という組み合わせが最も多いです。
心療内科・カウンセリングに行く前に知っておきたいこと
1. どんなことを話せばいい?
完璧に整理して話す必要はありません。
- 最近つらかった出来事
- 気分の波が強かったタイミング
- 体の変化(睡眠、食欲、体重、動悸など)
を、思いつく範囲でメモしておくと、診察がスムーズになります。
2. 家族やパートナーと一緒に行ってもいい?
可能であれば、同席は大いに役立ちます。
- 第三者から見た様子
- 家庭や職場での変化
は、診断や治療方針を考えるうえで、大切な情報です。
もちろん、ひとりで静かに話したい方は、その旨を遠慮なく伝えてください。
3. 一度の受診で結論を出さなくていい
メンタルの状態は、1回の診察だけでは判断しきれないこともあります。
- 数回の診察を通して見えてくるパターン
- ご本人の生活の変化
を踏まえながら、少しずつ方針を一緒に整えていくイメージでいてください。
医師からのメッセージ
「波のあるあなたへ」
気分の波に悩んでいる方の多くは、自分を責めすぎています。
- もっと頑張れるはずなのに
- こんなことで落ち込んでしまうなんて
- 周りはちゃんとやっているのに
診察室で、そうやってご自分を責めながら、涙をこぼされる方を何度も見てきました。
ですが、医師の立場から正直にお伝えすると
- 波が出るほど頑張りすぎてきた
- 自分の限界を超えて、長く耐えてきた
という背景をお持ちの方が、とても多いです。
気分の波は
「あなたがダメだから」ではなく
「今の環境と身体のバランスが、少し無理をしている」
というサインかもしれません。
心療内科やカウンセリングは、「弱い人が行く場所」ではなく
- 頑張りすぎた人が、少し立ち止まって、自分を立て直す場所
- 自分ひとりでは見えなかった選択肢を、一緒に探す場所
だと、私は思っています。
もしこの記事を読んで
少しでも「話を聞いてもらってもいいのかもしれない」と感じたなら
それは、回復への最初の一歩です。
あなたのペースで構いません。
気分の波に振り回されない日々を、専門家と一緒に取り戻していきましょう。

