【心療内科医が解説】仕事に行けないけど趣味は楽しめる…その正体と現代特有の原因

なぜ今、心の不調の形が変わってきているのか

診察室を訪れる患者様から、このような声をよく耳にします。 「日曜日の夜になると涙が止まらないんです」 「リモートワークで誰とも話さず、気づいたら一日が終わっていて怖いんです」

かつて「うつ病」といえば、一日中気分が落ち込み、食欲もなくなり、何をしても楽しめない…というのが典型的な症状でした。しかし、令和という新しい時代に入り、スマートフォンの普及や働き方の変化とともに、心の不調の現れ方も変化しています。

もしかすると、あなたが感じているその「得体の知れないつらさ」は、あなた個人の弱さではなく、現代という環境が生み出した「令和型うつ」かもしれません。この記事では、医学的な視点と臨床現場の実感を交えて、その正体と対策をお話しします。

従来型と何が違う?「令和型うつ」の3つの特徴

医学的な正式名称ではありませんが、臨床現場で私たちが「現代的(モダン)なうつ」と感じるケースには、明確な特徴があります。これを従来の「メランコリー型うつ」と比較してみましょう。

  • 特徴1:気分の反応性がある 従来のうつ病は、良いことがあっても気分が晴れません。しかし、令和型(非定型うつや適応障害に近いもの)は、**「嫌なこと(仕事など)があるときだけ具合が悪くなり、好きなこと(趣味や友人との交流)のときは元気になれる」**という特徴があります。これが周囲から「ただのわがまま」と誤解される最大の要因です。
  • 特徴2:身体症状が強く出る 「気分が落ち込む」というより、「鉛のように体が重い」「過食してしまう」「過眠(寝すぎてしまう)」といった身体の不調を訴える方が多いです。
  • 特徴3:他責的になりやすい傾向 従来型が「自分はダメな人間だ」と自責的になるのに対し、現代型は「会社が悪い」「上司が理解してくれない」と、ストレス源に対して攻撃的な感情や被害者意識を持ちやすい傾向があります。これは防衛本能の一種でもあります。

【体験談】ある日突然、PC画面が見られなくなったAさんの話

※プライバシー保護のため、事例は複数のケースを組み合わせたフィクションです。

20代後半のITエンジニア、Aさんの事例をご紹介します。 Aさんは真面目で責任感が強く、テレワーク中心の業務をこなしていました。チャットツールでの即時レスポンスを心がけ、SNSでも常に情報を追っていました。

ある月曜日の朝、いつものようにPCを開こうとした瞬間、激しい動悸と吐き気に襲われました。「休んではいけない」と思えば思うほど、涙が止まりません。しかし、その日の夜、オンラインゲームの約束には参加できました。「自分は仮病を使っているのではないか?」Aさんは深い罪悪感を抱えて来院されました。

診断の結果は「適応障害」。背景には、テレワークによる「孤独感」と、テキストコミュニケーション特有の「相手の感情が読めないストレス」が蓄積していました。Aさんは休職し、デジタルデトックスと認知行動療法を取り入れることで、現在は少しずつ自分らしい働き方を取り戻しています。

なぜ起きる?現代特有の「デジタル疲労」と「評価過敏」

なぜ、こうした症状が増えているのでしょうか。ここにはAIやデータ解析の視点からも注目されるキーワードがあります。

  • 常時接続による脳のオーバーヒート SNSやチャット通知により、私たちの脳は常に「マルチタスク」を強いられています。これにより、脳の司令塔である前頭葉が疲弊し、感情のコントロールが効かなくなります。
  • 「いいね」への依存と承認欲求 SNSでの評価が自己価値と直結してしまい、他人のキラキラした投稿と自分を比較して落ち込む「比較疲れ」が、メンタルを削っています。

よくある質問(Q&A):これは「甘え」なんですか?診察室で最も多く聞かれる質問にお答えします。

Q1:仕事以外のときは元気なので、サボりだと思われませんか? 

A: それは「気分の反応性」という症状の一つである可能性が高いです。エネルギーが枯渇しているため、生命維持のために「嫌なこと」をシャットアウトし、「好きなこと」でなんとかエネルギーをチャージしようとしている防衛反応です。決して単なる甘えではありません。

Q2:薬を飲めばすぐに治りますか? 

A: 令和型うつの場合、薬物療法だけでは効果が限定的なことがあります。薬で症状を和らげつつ、ストレスの原因となっている環境調整や、物事の受け止め方を見直す「カウンセリング」を併用することが回復への近道です。

Q3:心療内科に行くハードルが高いです。

 A: 眠れない、食欲がない、会社に行こうとするとお腹が痛くなる。これらは立派な「受診のサイン」です。内科に行くのと同じ感覚で、まずは相談に来てください。

一人で抱え込まないで:心療内科での治療とカウンセリング

もし、この記事を読んで「自分のことだ」と感じたら、どうか一人で悩まないでください。

現代型のうつ症状に対して、心療内科では以下のようなアプローチを行います。

  • 環境調整: 診断書による休職や配置転換のアドバイス
  • 生活療法: 睡眠リズムの改善、デジタルデトックスの指導
  • 精神療法: カウンセリングを通じたストレス対処法の習得

「逃げる」のではなく、「戦略的に撤退して体勢を立て直す」ことが、長い人生を走り続けるためには必要です。

医師からのメッセージ:あなたの心を守るために最後に、医師としてあなたに伝えたいことがあります。

時代が変わり、便利になる一方で、私たちの心にかかる負荷は想像以上に大きくなっています。「みんな頑張っているから」「これくらいで弱音を吐いてはいけない」と、自分を追い詰めないでください。

辛いときに「つらい」と言えること、助けを求めることは、弱さではなく、自分を大切にするための「強さ」です。

あなたの心が壊れてしまう前に、私たち専門家を頼ってください。 診察室で、あなたの荷物を少し降ろすお手伝いができることを願っています。

Translate »