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はじめに:その“時間のズレ”はこころのサインかもしれません
「今日も一日が一瞬で終わった」「待ち時間が地獄のように長い」——誰にでも起こりうる感覚ですが、頻度が増えたり生活に支障が出るとき、背景にストレスやメンタルの不調が隠れていることがあります。時間の感じ方(心理的時間・主観的時間)は、自律神経や脳の働きと密接に結びついています。まずは仕組みを知り、必要に応じて心療内科やカウンセリングにつなげましょう。
心理的時間とは?脳と自律神経のメカニズム
- 自律神経の影響:交感神経が優位(緊張・不安・予期不安)だと感覚が鋭くなり、瞬間は長く、全体の一日は短く感じがち。副交感神経が働くと、時間の流れは穏やかになります。
- 脳内ネットワーク:注意ネットワーク(前頭前野)、情動(扁桃体)、基底核(タイミング処理)、海馬(記憶)が関与。ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、GABAなどの神経伝達物質も時間知覚に影響。
- ストレスホルモン:コルチゾールが高い状態が続くと、時間の「圧縮(早い)」や「停滞(遅い)」の両方が起きやすくなります。
- 注意の当て方:退屈や苦痛に注意が向くと1分が長い。フローや過集中では時計を忘れ、全体が一瞬に。
「早く感じる」と「遅く感じる」—よくあるパターン
- 早く感じる(時間がすり抜ける)
- 慢性的な多忙・マルチタスク・スクリーンタイム過多
- 過集中(ハイパーフォーカス)やフロー状態
- ADHDの時間盲(タイム・ブラインドネス)
- バーンアウトの前兆(記憶が曖昧、日が“飛ぶ”)
- 遅く感じる(時計が止まったよう)
- 混在するケース
- 平日は一瞬、休日がやたら長く感じる
- 朝は遅いのに、夕方以降は一瞬で終わる(日内変動)
背景になりやすい状態
- 不安障害・予期不安・社交不安:心拍上昇、呼吸の浅さ、交感神経優位で“1分が長い”
- うつ病・適応障害:活動性の低下、反芻思考で“1日が遅い”
- ADHD(成人含む):時間見積りが苦手、締切直前の過集中で“全体は早い”
- PTSD・解離症状:記憶の断片化で“時間の穴”を感じることがある
- 睡眠不足・交代勤務:概日リズムの乱れで時間感覚が不安定
- 物質・薬剤:カフェイン、アルコール、ベンゾ系、刺激薬などは時間知覚に影響
- 神経疾患(例:パーキンソン病など)や甲状腺機能異常でも時間感覚が変わることがあるため、医療機関での評価が安全です
体験談(匿名加工)
- 30代・会社員Aさん 「気づくと定時。やったことを思い出せない。家に帰るとぐったりで、土日は逆に長すぎて不安になる。」面談では長時間のマルチタスクと睡眠の浅さが判明。時間ブロック術とスクリーンタイムの上限、ポモドーロ、呼吸法、必要に応じたカウンセリングで3週間ほどで“1日の輪郭”が戻り、メモと日誌で達成感も可視化できるように。
- 40代・デザイナーBさん 「締切前は一瞬、待ち時間は永遠。」不安症傾向が強く、予期不安で呼吸が浅いタイプ。HRV(心拍変動)バイオフィードバック、マインドフルネス、カフェイン調整、短期の認知行動療法(CBT)で“長い1分”が和らぎ、締切も前倒しで調整可能に。
3分セルフチェック(当てはまる項目にチェック)
- ここ1か月、1日の記憶が飛ぶように感じることが増えた
- 待ち時間が苦痛で、身体の違和感ばかり気になる
- 楽しい予定があっても時間が進まない(うつっぽさ)
- 仕事は一瞬で終業、達成感が乏しい
- スマホやSNSの“ちょっとだけ”が30分以上になりがち
- 締切直前まで手がつかず、最後に猛ダッシュする
- 寝つきが悪い・中途覚醒・早朝覚醒がある → 2~3個以上当てはまる人は、生活調整とともに心療内科やカウンセリングを検討してください。
受診の目安と心療内科でできること
- こんなとき受診を:仕事・学業や家事に支障、ミス増加、遅刻、強い不安・抑うつ、睡眠障害、パニック、記憶の抜け落ち、フラッシュバック、自傷衝動
- 初診の流れ:生活歴・睡眠・ストレスイベント・服薬/嗜好品・既往歴を丁寧に聞き取り。必要に応じて血液(甲状腺等)・心理検査(注意・不安・うつ)を実施
- 主な介入
- 心理療法:CBT、ACT、MBCT、ストレスマネジメント、グラウンディング
- 生活介入:睡眠衛生、時間設計(時間ブロック、ポモドーロ)、デジタル衛生
- バイオフィードバック:HRVを用いた呼吸訓練
- 薬物療法:必要最小限で検討(不安・うつ・ADHDなどの適応に応じて)
- カウンセリング:感情の整理、行動計画、メタ認知の支援
- リモートカウンセリングも選択肢です
今日からできるセルフケア
- 呼吸と身体
- ボックスブリージング(4秒吸う-4秒止める-4秒吐く-4秒止める)を2~3分
- 足裏感覚や五感に注意を戻すグラウンディング
- マインドフルネス
- 3分間の呼吸瞑想、食事やシャワーの“ながら”をやめて一つに集中
- 時間設計と見える化
- カレンダーに“行動”単位で時間ブロック(移動・休息を含める)
- 25分集中+5分休憩(ポモドーロ)、タイムタイマーで残り時間を可視化
- 朝イチに今日の3つの最重要タスク(MIT)を決める
- デジタル衛生
- 通知の一括オフ、SNSは2枠/日(各15分)にまとめる
- 睡眠衛生
- 起床時刻の固定、就床前90分はブルーライト控えめ、カフェインは昼以降を避ける
- 運動と栄養
- 1日合計20分の速歩、たんぱく質と鉄・ビタミンB群を意識
よくある質問(Q&A)
Q1. ただの疲れですか?病気ですか? A.“ときどきある”程度なら正常範囲。頻度増加や生活の支障、苦痛が強い場合は評価をおすすめします。
Q2. 薬は必ず必要? A. いいえ。睡眠・ストレス調整や心理療法、呼吸法で十分改善する方も多いです。必要時のみ少量から検討します。
Q3. ADHDかもしれません。どう見分けますか? A. 子どもの頃からの不注意・多動性の持続、時間管理の困難、先延ばしのパターンなどを問診・心理検査で評価します。
Q4. うつだと時間が遅く感じるのはなぜ? A. 喜びの低下と注意の固定化で“主観的な時間”が伸びます。行動活性化と睡眠是正が効果的です。
Q5. 仕事は休むべき? A. 症状の強さ次第。短期の調整や産業医・会社との連携も含めて個別に判断します。
Q6. どの診療科へ? A. 心療内科・精神科が基本。身体疾患を疑う所見があれば内科や神経内科とも連携します。
Q7. どれくらいで良くなりますか? A. 生活調整で2~4週間、心理療法で4~12週間程度で自覚改善する方が多い印象です(個人差あり)。
医師からのメッセージ
時間の感じ方は、あなたの「こころとからだの現在地」を教えるセンサーです。一人で抱え込まず、気軽に相談してください。お話を伺い、生活と治療のバランスを一緒に設計します。
※本記事は一般的情報で、診断に代わるものではありません。強い苦痛、自傷衝動、現実感の低下がある場合は至急受診または救急へ。

