
舌痛症(ぜっつうしょう)とは、舌に見た目の異常がないのに、ヒリヒリ・ピリピリとした灼けるような痛みが続く状態のことです。
歯科で診てもらったが異常なしと言われた。血液検査も問題なかった。それなのに、朝から晩まで舌の先が痛む。誰にも分かってもらえず、いつまで続くのか不安になっている——そんな方に向けて書いています。
この記事では、舌痛症で何が起きているのか、そしてどこに相談すればよいのかを、心療内科医の視点で整理します。
まず、気のせいではありません
検査で異常が出ないことと、痛みが存在しないことは別です。舌痛症は、痛みを伝える神経や、痛みを感じ取る側の働き方が変化していると考えられている状態で、以前から医学的に知られています。
「異常なしと言われたのだから、気にしすぎだ」と自分に言い聞かせている方が多いのですが、その必要はありません。説明がつかない痛みではなく、見た目に出ない痛みだというだけのことです。
特徴的な現れ方

次のような特徴が知られています。当てはまるものが多いほど、この状態として整理できる可能性が高くなります。
- 舌の先や縁が、灼けるように・ヒリヒリと痛む
- 見た目には潰瘍や炎症がなく、歯科でも異常が指摘されない
- 食事中や、何かに集中しているあいだは軽くなる、または感じない
- 朝は比較的軽く、夕方から夜にかけて強くなる傾向がある
- 痛みで眠れなくなることは少ない
- 口の渇きや、味の感じ方の変化を伴うことがある
- 中高年の女性に多いと言われている
三つ目は、この状態を見分けるうえでとくに重要な手がかりです。けがや炎症による痛みは、食べれば通常もっと痛くなります。食事中に楽になるという点が、まったく逆の動きをしています。
| けがや炎症による痛み | 舌痛症 | |
|---|---|---|
| 見た目 | 傷や赤み、腫れがある | 異常が見当たらない |
| 食事中 | しみて、より痛くなる | 軽くなる、または忘れている |
| 一日の変化 | 時間帯とあまり関係しない | 朝は軽く、夕方から強くなりやすい |
| 睡眠 | 痛みで目が覚めることがある | 眠れなくなることは少ない |
| 痛み止め | 飲むと和らぐことが多い | 効きにくいことが知られている |
この表でいちばんの手がかりは食事中の変化です。夢中になっているあいだ痛みが消えるのは、痛みが嘘だからではなく、注意が向いていないと信号が届きにくくなるという痛みの性質によるものと考えられています。
その前に、体の側の原因を確かめてください
順番を間違えないでいただきたいところです。舌痛症は、ほかの原因が見つからないことを確かめたうえで考えるものです。
舌の痛みを起こしうるものには、次のようなものがあります。
- 口の中のカンジダ(真菌)や、細菌による炎症
- 鉄や亜鉛、ビタミンの不足、貧血
- 唾液の減少(ドライマウス)
- 合っていない義歯や詰め物による、機械的な刺激
- 糖尿病や甲状腺の病気、薬の影響
ですから、まだ歯科・口腔外科を受診していない場合は、先にそちらへお願いします。すでに検査を受けて異常がないと言われている場合は、その結果を持って心療内科にお越しください。「異常なし」は行き止まりではありません。
なぜ、痛みが続くのか
痛みは、傷の大きさだけで決まるものではありません。痛みを伝える経路と、それを受け取って意味づける側の両方が関わっています。
舌は、体の中でもとくに感覚が細かい場所です。そこに注意が集まり続けると、わずかな信号も強く感じ取られるようになります。しかも、舌は自分で何度でも確認できてしまいます。
- 痛みが気になる → 舌を歯や上あごに押し当てて確かめる
- 確かめるほど、その部分に刺激が加わる
- 鏡で見て異常を探し、見つからないことでさらに不安になる
- 不安が高まると、痛みの信号はより強く受け取られる
確かめる行動そのものが、痛みを保つ側に回ってしまうのがこの状態の厄介なところです。意志が弱いからではありません。痛む場所を確認するのは、生き物として自然な反応です。
なお、味の感じ方が変わったと感じる場合は食事の味がしないという形で相談されることもあります。また、日中ずっと体に力が入り続けている状態では、舌を上あごに押しつける癖が出ていることがあり、それが刺激になっている場合もあります。
セルフチェック
ここ1か月ほどを振り返って、当てはまるものを数えてみてください。診断ではなく、相談するかどうかを決めるための目安です。
- 舌の痛みが3か月以上続いている
- 歯科や内科で調べたが、原因が見つからないと言われた
- 食事や会話に集中していると、痛みを忘れていることがある
- 一日に何度も、舌の状態を舌先や鏡で確認している
- 重い病気ではないかと調べる時間が増えている
- 痛みのことを考えている時間が、生活の中心になってきた
- 家族や同僚に話しても、分かってもらえないと感じる
- 眠りが浅くなった、または気分が落ち込むようになった
4つ以上が当てはまり、3か月以上続いているなら、一度ご相談ください。
心療内科でできること
当院は「痛みをすぐ消す」ことをお約束するものではありません。慢性的な痛みは、量を減らしながら付き合える範囲に持っていくという考え方で扱います。
- これまでの検査結果を確認し、体の側にまだ確かめるべきことが残っていないかを整理する
- 痛みが強くなる時間帯や場面を記録として見える形にする
- 確かめる行動を減らす方法を、無理のない範囲で一緒に組み立てる(心理療法を用いることがあります)
- 痛みの伝わり方に働きかける薬を検討することがあります
- 眠れない、気分が落ち込むといった変化が重なっている場合は、そちらも同時に整える
当院では医師と心理セラピストが連携して進めます。痛み止めを増やす方向では、この状態は落ち着きにくいことが知られています。使う薬の種類が、けがの痛みとは異なると考えてください。
受診の目安
- 歯科で異常なしと言われたあとも、痛みが3か月以上続いている
- 痛みのことを考える時間が長くなり、仕事や家事に支障が出ている
- 重い病気ではないかという不安が頭から離れない
- 眠りが浅くなった、食欲が落ちた
- 人と話すのが億劫になり、外出が減ってきた
なお、胃の不調など、ほかの部位でも同じように「検査では異常がないのにつらい」という状態が起きることがあります。舌だけの特殊な話ではありません。
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多く寄せられる悩みを一般化したものです。
- 複数の歯科を受診したが原因が分からず、どこにかかればよいのか分からなくなった
- 食べているあいだは平気なのに、手が空くと痛みが戻ってくる
- 重い病気ではないかと調べるうちに、不安で眠れなくなった
- 家族に話しても伝わらず、痛みのことを口に出さなくなった
よくある質問
がんではないかと心配です。
見た目の異常がなく、歯科や口腔外科で確認を受けているのであれば、その心配は下げていただいて構いません。ただし、しこりや潰瘍、出血、片側だけの症状がある場合は、あらためて口腔外科でご確認ください。不安が強い場合、その不安自体も診察でお話しいただけます。
痛み止めが効きません。
一般的な痛み止めが効きにくいことは、この状態でよく知られています。効かないから重症だということではありません。痛みの伝わり方が違うため、使う薬の種類も変わります。自己判断で量を増やすことは避けてください。
ストレスが原因ということですか?
ストレスだけが原因と言い切ることはできません。体の要因、注意の向き方、生活状況などが重なって続いていると考えられています。「ストレスのせい」と言われて納得できない感覚は、正しいものです。
どのくらいで良くなりますか?
期間を断言することはできません。数か月で落ち着く方もいれば、時間をかけて付き合い方が変わっていく方もいます。ただ、確かめる行動が減っていくと、痛みに使う注意の量は変わっていくことがあります。個人差があります。
参考文献
医師からのメッセージ
「異常なしと言われるたびに、余計につらくなる」——この状態でいちばん苦しいのは、痛みそのものより信じてもらえないのではないかという孤立感かもしれません。ご自身でさえ、気のせいなのではと疑ってしまうことがあります。
けれど、見た目に出ないことは、痛みがないことの証明にはなりません。ここまで一人で抱えてこられたのだと思います。うまく説明できないままで構いませんので、これまでの検査結果を持ってご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

