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「不安定な私」を責めないために
「泣きやすい」「怒りっぽい」を性格の問題と決めつける必要はありません。脳の調整機構(セロトニン・ノルアドレナリン)、ホルモン(特に月経前〜排卵期、産後、更年期)、睡眠負債、鉄欠乏や甲状腺機能の変化は、感情の振れ幅に直結します。まずは「原因を一緒に見つける」姿勢で、心療内科やカウンセリングにつながることが回復への最短ルートになります。
受診の目安チェックリスト(3つ以上当てはまれば相談を)
- 涙もろさ・怒りっぽさが2週間以上ほぼ毎日続く
- 睡眠の質の低下(寝つけない、早朝覚醒、過眠)
- 動悸、息苦しさ、頭痛、胃腸不調など身体症状が増えた
- 月経前〜月経中に症状が強くなる(PMS/PMDDの可能性)
- 集中力が落ち、ミスが増える/対人関係がつらい
- アルコール・カフェイン・SNSで気を紛らわす量が増えた
- 希死念慮や「消えてしまいたい」気持ちが出ることがある
- 家族や同僚から「最近、様子が違う」と指摘される
- 甲状腺・貧血・更年期の既往、または産後である
1つでも強く当てはまる場合や、不安が続く場合は受診をためらわないでください。緊急性が高い場合(自傷の危険、強い希死念慮など)は119または地域の救急に相談を。
よくある原因と背景
1) 心の病気・特性
- うつ病・適応障害・不安障害・パニック障害
- 双極性スペクトラム(軽躁うつを含む)
- ADHD/ASD特性による過負荷・刺激感受性
- トラウマ関連(PTSD/複雑性PTSD)
- パーソナリティ傾向(境界・回避・強迫など)
2) 身体的要因
- 甲状腺機能異常(亢進・低下)
- 鉄欠乏・ビタミンD欠乏・低血糖
- 月経前症候群(PMS)/PMDD、産後・更年期
- 睡眠時無呼吸や慢性疼痛
3) 生活・環境
- 睡眠不足、シフト勤務、長時間労働
- 過度なカフェイン・アルコール・ニコチン
- SNS/ニュース過多による過刺激
- 孤立やハラスメント、ライフイベントの重なり
「心と体と生活」が重なり合って、情緒の“振れ幅”が大きくなります。検査と問診を合わせて丁寧に見立てることが大切です。
体験談(匿名・要約)
- 30代女性:生理前に涙が止まらず、家族に八つ当たり。心療内科でPMDDが疑われ、血液検査で鉄欠乏も判明。CBTベースのカウンセリングと生活調整、低用量SSRIを周期的に使用。3か月後、「波はあるが折れにくい自分」に。パートナー向けの説明資料も役立ったとのこと。
- 40代男性:在宅勤務で寝つき悪化、朝から神経が張り詰めて怒りっぽい。アクチグラフで睡眠の断片化、問診でカフェイン過多。刺激制御(カフェイン・スクリーン制限)とマインドフルネス、30分の昼散歩を導入。2週間で易怒性が半減。
(個人の感想であり、効果には個人差があります)
受診の流れ
- 初診:主訴、経過、生活、家族歴、服薬歴を整理
- 評価:心理尺度(PHQ-9、GAD-7、ASRSなど)、必要に応じ血液検査(甲状腺、鉄、ビタミンD等)
- 見立て共有:診断名にこだわり過ぎず、症状の「地図」を一緒に作る
- 治療計画:カウンセリング(CBT/ACT/スキーマ療法/アンガーマネジメント)、薬物療法、生活介入を併走
- フォロー:再発予防プラン、職場・学校との連携(主治医意見書など)
治療の選択肢
- カウンセリング
- CBT(認知行動療法):自動思考の偏りを整える
- ACT:不快な感情と共に価値に沿って行動する
- アンガーマネジメント、感情ラベリング、対人スキル
- マインドフルネス、ジャーナリング、睡眠衛生
- 薬物療法(必要に応じて)
- SSRI/SNRI、気分安定薬、β遮断薬、PMDDに対する周期投与
- 漢方(加味逍遥散など)を併用する場合も
- 副作用・相互作用を主治医と確認しながら調整
- 生活療法
- 睡眠リズム(起床固定、朝の光、カフェイン・スクリーン制限)
- 栄養(鉄・たんぱく質・ビタミンD)、適度な運動
- アルコールの「自己治療」をやめる戦略
- 連携・就労支援
- 産業医、学校、家族への情報提供
- 必要に応じて休職・復職支援
今日からできるセルフケア3つ
- 呼吸の間(6-6呼吸):6秒吸って6秒吐くを3分。交感神経の過緊張を緩める。
- 感情ラベリング:ノートに「いまの感情」を名詞で3つ書く。言語化が情動を鎮める。
- SOSカード:つらい時の連絡先(家族・友人・医療機関・相談窓口)と対処手順をスマホに固定。
つらさが強いときはセルフケアより「安全の確保」が優先です。ためらわず専門家へ。
Q&A
Q1. 情緒不安定は性格ですか?
A. 様々な要因が考えられます。脳内伝達物質やホルモン、睡眠、疾患、ストレスなど多因子が関与することがわかっています。評価と支援を得ることが必要です。
Q2. どの診療科に行けばいい?
A. まずは心療内科・精神科。月経や更年期の関与が疑わしければ婦人科、動悸や体重変化があれば内科で甲状腺や貧血も確認。
Q3. 薬は飲みたくありません。
A. 薬は選択肢の一つ。カウンセリングや生活介入で十分改善するケースも多いです。利点・懸念を主治医と話し合いましょう。
Q4. PMDDかもしれません。
A. 月経前の感情変化が強い場合はPMDDを疑います。症状日誌を2周期つけると診断と治療選択に役立ちます。
Q5. 怒りが爆発して人間関係が壊れそう。
A. アンガーマネジメントで「トリガー→合図→対処」を整え、距離の取り方を練習します。安全確保と謝罪・修復のスキルも重要。
Q6. 受診はどのタイミングが良い?
A. 「生活に支障」「2週間以上持続」「自分での対処に限界」を感じたら十分な理由です。早期ほど負担は軽くて済みます。
Q7. 自殺念慮があるときは?
A. ためらわず緊急支援へ。119/110、地域の救急、いのちの電話、よりそいホットライン等に連絡してください。
相談窓口(日本)
- いのちの電話:0570-783-556(10:00–22:00)/ 0120-783-556(毎日16:00–21:00)
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
- 自治体の「こころの健康相談」窓口や厚生労働省「こころの耳」
緊急時は119または最寄りの救急へ。
医師からのメッセージ
強い感情の発露はあなたの「弱さ」ではなく、体と心からの大切なサインです。原因探しは責任探しではありません。うまくいかない日は誰にでもあります。検査で分かること、対話で整うこと、生活で変えられることが必ずあります。ひとりで抱え込まず、どうぞ気軽に相談に来てください。あなたのペースで、一緒に歩いていきましょう。

