
目次
はじめに
心がすり減る前に 「朝が来るのが怖い」「些細な言葉に体が固まる」「眠れず、食べられず、頭痛や動悸が続く」。パワハラ(パワーハラスメント)やモラハラ(モラルハラスメント)は、“気の持ちよう”では片づけられません。脳と自律神経に本物の変化を起こし、うつ病、適応障害、不安障害、PTSD、睡眠障害、身体症状(頭痛・胃痛・めまい)として現れます。心療内科は、あなたの苦痛を“病気として”丁寧に扱い、回復の道筋を一緒に描く場所です。
心療内科で相談できること
- 症状の医療的評価:抑うつ・不安・過覚醒・睡眠障害・身体症状(自律神経症状)の見立て
- 診断と説明:うつ病、適応障害、PTSD、睡眠障害などの診断と病状説明
- 治療計画:薬物療法(必要時)と心理療法(CBT、トラウマ焦点療法)、睡眠治療
- 診断書の作成:休職・就業配慮・復職支援プランに必要な書類
- 産業医・職場との連携:就業上の配慮、分離配置、時短勤務、復職プログラム
- 労働相談につなぐ:労働局の総合労働相談、労基署、社内ハラスメント窓口、弁護士紹介(必要時)
- セルフケアと安全計画:再燃予防・危機時対応・生活リズムの再建
- 労災・公的支援の情報提供:適応条件の確認と手続き先の案内
よくある症状と考えられる病気
- 抑うつ・意欲低下・罪悪感:大うつ病、適応障害
- 強い不安・過覚醒・集中困難:不安障害、PTSD
- 不眠(入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒):不眠症、サーカディアンリズム障害
- 頭痛、胃痛、下痢、動悸、めまい:心身症(自律神経の乱れ)
- フラッシュバック、回避、過覚醒:PTSDやトラウマ反応
- 出勤困難・遅刻・欠勤増加:適応障害、うつ病のサイン
原因とメカニズム(ストレス反応と自律神経)
反復するハラスメントは、脳の警報装置(扁桃体)を過敏にし、ストレスホルモン(コルチゾール)や自律神経を乱します。睡眠が崩れると回復力が落ち、不安とうつが悪循環になります。これは「弱さ」ではなく、生体の自然な反応です。医療的介入で断ち切ることができます。
受診の流れ
- 初診:30〜60分目安。お困りごと・経緯・睡眠・食欲・業務内容・職場環境・これまでの対処をお伺いします。必要に応じて簡単な心理検査(PHQ-9、GAD-7、PCL-5など)。
- 診断・説明:病名に縛られず、いま起きている反応を言葉にします。
- 初期対応:睡眠と安全確保。診断書が必要なら作成(休職・時短・配置転換の提案)。
- 治療開始:薬物療法(必要時最小限)+心理療法(CBT、トラウマ焦点療法)、生活リズム介入
- フォローアップ:症状の変化を確認し、復職支援や再発予防を具体化。
治療の選択肢
- 薬物療法(必要時)
- うつ病・不安障害:SSRI等の抗うつ薬は多数の比較試験で有効性が示されています。
- 不眠:睡眠薬は短期的に補助として。
- 心理療法
- CBT(認知行動療法):考え方と行動のクセを整え、回復と再発予防を目指します。
- トラウマ焦点療法(TF-CBT等):フラッシュバック・回避・過覚醒の軽減に有効です。
- 不眠の認知行動療法:睡眠の質を中核から立て直します。
- 生活リズム・セルフケア
- 睡眠衛生(起床時刻固定、朝光、就床前のスマホ断ち)
- 栄養・運動(短時間の有酸素運動や軽負荷筋トレ)
- アルコール・カフェインの見直し
- 連携と環境調整
- 産業医と就業配慮(業務軽減、配置転換、在宅併用)
- 労働相談(厚労省・労働局、社内相談窓口)
- 必要時、法的支援に橋渡し
産業医・職場・労働相談との連携(診断書・労災等) 診断書は「病状」「就業上の配慮」「期間」を明記します。休職だけでなく「時短」「静かな席」「加害者と分離」など選択肢を一緒に検討します。労災の可能性がある場合は、証拠の保全(日時・言動の記録、メール等)や相談窓口の案内も行います。
体験談(匿名加工)
- 30代女性・事務職 毎朝吐き気がし、上司の足音だけで手が震えました。初診で「まず眠ろう」と言われて涙が出ました。2週間で夜が眠れるようになり、診断書で業務量が半分に。3か月後、笑う時間が戻りました。今は週1のカウンセリングで、再発予防の練習を続けています。
- 40代男性・営業 成果の責め立てで食欲がなく10キロ減。休職に罪悪感がありましたが「回復は仕事の一部」と言われ、肩の力が抜けました。CBTで“自分責め”の思考を見直すうち、復職への不安が小さく。産業医と戻り方を段階づけて、今は午後勤務から再開しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. どのタイミングで受診すべき? A. 2週間以上続く不眠・食欲低下・仕事への恐怖・涙もろさ・身体症状があれば早めに。緊急性が高いのは「希死念慮」「極端な不眠」「急な体重減少」「動悸やめまいの悪化」があるときです。 Q2. 診断書はすぐ出ますか? A. 症状や業務状況をうかがい、必要と判断すれば初診から作成します。内容は「休職」「就業配慮」「復職の段階性」など個別最適化します。 Q3. 薬は必ず必要? A. 必ずではありません。心理療法や環境調整が優先の場合も。重症度や合併症に応じて最小限から開始します。 Q4. 会社に知られませんか? A. 医療情報は守秘義務で守られます。提出先に必要な範囲の情報のみを共有します。 Q5. どのくらいで良くなりますか? A. 不眠は数週間、抑うつ・不安は数週間〜数か月、PTSDは個人差があります。早期介入ほど回復は速い傾向です。
受診を迷うあなたへ つらさを言葉にすること自体が難しい—それを私は知っています。心療内科は、あなたを評価する場所ではなく、守る場所です。まずは「眠りを取り戻す」「安全を確保する」といった、小さな一歩から一緒に始めましょう。
医師からのメッセージ
あなたの弱さではありません。過度なストレス環境に、体と脳が誠実に反応しているのです。治療には順番があります。眠りを整え、体を守り、心を回復させ、必要なら環境を変える。私たちは、診断書も、治療も、復職も、あなたのペースに合わせて伴走します。
参考文献(PubMed掲載・エビデンス)
- Cipriani A, et al. Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. The Lancet. 2018;391:1357-1366. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29477251/
- Trauer JM, et al. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2015;163(3):191-204. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26054060/
- Bisson JI, et al. Psychological therapies for chronic post-traumatic stress disorder (PTSD) in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(12):CD003388. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24338345/
- Harvey SB, et al. Can work make you mentally ill? A systematic meta-review of work-related risk factors for common mental health problems. Occup Environ Med. 2017;74(4):301-310. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28153940/
- Nielsen MB, Indregard AMR, Øverland S. Workplace bullying and sickness absence: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2016;11(3):e0152341. PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27008705/