
市販薬を決められた量より多く飲んでしまう、飲む回数が増えてやめられない——その背景には、「つらい気持ちを紛らわせたい」「眠りたい」「何も感じたくない」といった、心のSOSが隠れていることが少なくありません。それは意志の弱さではなく、つらさに一人で耐えてきた結果のことがあります。
この記事では、市販薬の飲みすぎ(オーバードーズ)がやめられなくなる心の背景と、相談したほうがいいサイン、ご家族や周りの人ができること、そして相談先を、心療内科医の視点で整理します。今まさにつらい状態にある方は、先に記事の後半の「相談先」をご覧ください。
この記事の要点
- 市販薬の飲みすぎがやめられないのは、意志が弱いからではなく、つらい気持ちに対処するための手段になっていることが多いと考えられています
- 「市販薬だから安全」ではありません。量が増えると体に大きな負担がかかり、やめにくくなっていくことがあります
- 一人でやめようとしなくて大丈夫です。背景にある気分の落ち込みや不安、眠れなさも含めて、医療機関や相談窓口に相談してください
オーバードーズとは
オーバードーズとは、薬を決められた量を超えて飲むことを指します。近年は、若い世代を中心に、せき止めや風邪薬、睡眠改善薬などの市販薬を大量に飲むことが社会問題になっています。
こうした状況を受けて、2026年5月からは、乱用のおそれがある一部の市販薬について販売のルールが厳しくなり、若い世代への大容量の販売や複数個の購入が制限されるようになりました。ただ、ルールで手に入りにくくすることだけでは、「なぜ飲まずにいられないのか」という心の問題は解決しません。
なぜやめられなくなるのか——心の背景

市販薬を飲みすぎてしまう人の多くは、薬そのものを楽しみたいのではなく、薬を使って「今のつらさ」から一時的に逃れようとしています。
| よくある気持ち | 背景にあることが多いもの |
|---|---|
| つらい気持ちを、少しでも紛らわせたい | 気分の落ち込み、強い不安、孤独感 |
| とにかく眠りたい、考えるのを止めたい | 眠れなさ、考えごとが止まらない状態 |
| 何も感じたくない、ぼんやりしていたい | つらい出来事、家庭や学校・職場でのストレス |
| 自分を傷つけたい気持ちを、薬で抑えている | 自分を責める気持ち、消えたいという気持ち |
| やめると落ち着かない、また飲みたくなる | 薬に頼る状態が続き、やめにくくなっている |
つまり、薬の飲みすぎは、つらさに対処しようとして、ほかに方法が見つからなかった結果とも言えます。だからこそ、薬だけを取り上げるのではなく、その奥にあるつらさに目を向けることが大切です。
「市販薬だから安全」ではない理由
市販薬は、決められた用法と用量を守って使うことで、安全に使えるように作られています。決められた量を超えて飲むと、次のようなことが起こるおそれがあります。
- 意識がもうろうとする、吐き気や動悸、けいれんなど、体に強い負担がかかる
- 肝臓など、体の臓器に負担が積み重なる
- 飲む量や回数が少しずつ増え、やめようとすると落ち着かなくなる
量が多い場合や、意識がはっきりしない、呼吸がおかしいといった場合は、命に関わることもあります。そのようなときは、迷わず119番に連絡してください。
相談したほうがいいサイン
次のような状態に当てはまるものがあれば、一人で抱えずに相談することを考えてください。
- 決められた量より多く飲むことが、くり返しある
- やめようと思っても、またつい飲んでしまう
- 薬がないと不安で、いつも持ち歩いている
- つらいことがあると、まず薬に手が伸びる
- 飲む量や回数を、家族や周りの人に隠している
- 気分の落ち込み、眠れない、消えたいという気持ちが続いている
当てはまるものがあっても、自分を責める必要はありません。気づけたこと自体が、変わるための大切な一歩です。
ご家族や周りの人ができること

身近な人が市販薬を飲みすぎていると気づいたとき、驚きや心配から、強く責めてしまうことがあります。けれど、責められると、本人はさらに隠すようになり、相談から遠ざかってしまうことがあります。
- まずは責めずに、心配していることを伝える——「怒っているのではなく、あなたが心配」という気持ちを言葉にします
- 薬を取り上げるだけで終わらせない——飲まずにいられないほどのつらさが何なのか、話を聞くことを大切にします
- すぐに解決しようとしなくていい——話を聞いてもらえたという経験が、相談への入口になります
- 専門家につなぐ——家族だけで抱え込まず、医療機関や相談窓口に一緒に相談します
- 意識がおかしいなど危ないときは、すぐに119番
受診を嫌がる場合の声のかけ方は、家族が心療内科の受診を嫌がるときの記事も参考にしてください。
心療内科でできること
心療内科では、薬の飲みすぎそのものだけでなく、その背景にある心の不調に目を向けて治療を進めます。
- 背景にある不調の治療——気分の落ち込みや不安、眠れなさなど、薬に頼るきっかけになっているつらさを和らげていきます
- カウンセリング——心理セラピストと一緒に、つらい気持ちへの対処のしかたを、薬以外にも少しずつ増やしていきます
- 減らしていく支援——急にやめるのではなく、状態を見ながら無理のない形で進めていきます
- 専門機関との連携——依存の度合いが強い場合は、依存症を専門とする医療機関につなぐこともあります
当院では、医師と心理セラピストが連携して、ご本人のペースを大切にしながら治療を進めます。小学生以上のお子さんの診察も行っています。
相談先
つらい気持ちが強いときや、一人ではどうにもならないと感じるときは、次の窓口にも相談できます。
- 今すぐ危険がある場合——迷わず119番に連絡してください
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」——電話やSNSで相談できる窓口が紹介されています
- 精神保健福祉センター——各都道府県にあり、依存の問題やこころの健康について、本人や家族からの相談を受け付けています
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。
- つらいことがあると市販薬を多めに飲むのが習慣になっていて、自分でもやめたいと思っている
- 眠れなくて市販の睡眠改善薬を飲んでいるうちに、量が増えてしまった
- 子どもが市販薬を大量に買っていることに気づき、どう声をかければいいか分からない
- やめようとすると不安で落ち着かず、また飲んでしまう
どのご相談でも、まず今の心と体の状態を確認し、薬に頼らざるを得なかったつらさを一緒に整理するところから始めます。感じ方や回復のペースには個人差があります。
よくある質問
市販薬を飲みすぎていることを、受診で正直に話しても大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。責めるためではなく、安全に治療を進めるために必要な情報です。話しにくければ、話せる範囲からで構いません。
自分の力だけでやめることはできますか?
一人でやめようとすると、不安や落ち着かなさが強くなり、かえってつらくなることがあります。背景にあるつらさへの手当てと一緒に、専門家と進めることをおすすめします。
家族が飲みすぎていたら、薬を全部捨てたほうがいいですか?
危ない量の薬を手の届く場所から離すことは大切です。ただし、取り上げるだけでは、ほかの方法で手に入れようとしてしまうこともあります。安全を確保しながら、話を聞き、専門家につなぐことを並行して考えてください。
こんなことで心療内科に行ってもいいのですか?
はい、構いません。市販薬の飲み方に不安がある、やめたいのにやめられないという段階で、相談していただいて大丈夫です。
参考文献
医師からのメッセージ
市販薬に頼ってしまう自分を、責めていませんか。それは、つらい毎日を何とかやり過ごそうとして、あなたなりに必死に見つけた方法だったのかもしれません。
ただ、薬で一時的に紛らわせても、その奥にあるつらさは、一人で抱え続けるには重すぎることがあります。薬以外の方法で、少しずつ楽になっていく道を、一緒に探していきましょう。迷った時点で、ご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

