家族が心療内科の受診を嫌がるとき|勧め方・避けたい言葉と、家族にできること

家族が心療内科の受診を嫌がるのは、めずらしいことではありません。あなたの伝え方が悪いから、というわけでもありません。

眠れていないのは明らかなのに「大丈夫」と言う。受診を勧めると不機嫌になる。予約を取ろうとすると「大げさだ」と怒られる——心配しているのに届かず、どうすればいいのか分からなくなっている方に向けて書いています。

この記事では、本人が受診を嫌がる理由と、伝え方の工夫、急いだほうがよいサイン、そして当院でご家族にできることを、心療内科医の視点で整理します。

なぜ、受診を嫌がるのか

拒まれると「心配を分かってくれない」と感じてしまいますが、本人の側にはたいてい理由があります。

  • 病気だと認めたくない——受診すること自体が、「自分は弱い」と認めることのように感じられます
  • 心療内科・精神科への抵抗——特別な場所だという印象が、まだ根強く残っています
  • 薬への不安——「一度飲んだらやめられないのでは」と心配している方は多くいます
  • 知られることへの不安——職場や親族に伝わるのではないか、と気にしています
  • 受診する気力が残っていない——予約を取る、出かける、説明する。そのすべてが重く感じられます
  • 本人は困っていない——周囲から見て明らかでも、本人には自覚がないことがあります

拒んでいるのは、あなたではなく「受診」という行為に付いてくる不安のほうです。ここを分けて考えると、次の一手が変わります。

勧める前に、整えておきたいこと

  • 気づいた変化を、事実として書き留めておく——「2週間ほど夜中に起きている」「食事を半分残す日が続いている」など。印象ではなく事実は、本人にも医師にも伝わります
  • 話すタイミングを選ぶ——口論の最中や、本人が疲れきっている夜は避けます。比較的落ち着いている時間に
  • 一度で決めようとしない——最初は「心配している」と伝えるだけで十分です

伝え方を少し変える

同じ内容でも、言い方で受け取られ方は大きく変わります。

避けたい言い方伝わりやすい言い方
「病気だから病院に行って」「最近眠れていないみたいで、心配している」
「あなたはおかしい」「前と様子が違うように見える」
「いいから行きなさい」「一度だけ、話を聞いてもらうのはどうかな」
「みんな心配している」「私が心配している」
「どうして行かないの」「行きたくない理由があったら、聞かせてほしい」

ポイントは、診断や評価をしないことと、主語を「私」にすることです。「あなたは病気だ」は反論されますが、「私は心配している」は否定のしようがありません。

それでも嫌がるときの、現実的な進め方

  • 体の症状を入口にする——「眠れないのを相談しに行こう」「胃の調子を診てもらおう」のほうが、受け入れられやすいことがあります
  • かかりつけの内科から始める——いきなり心療内科でなくても構いません。内科で相談し、そこから紹介を受ける道もあります
  • 手間を引き受ける——予約、道順の確認、当日の付き添いを申し出ると、「行く気力がない」という壁が下がります
  • 選べる形にする——「今週と来週、どちらがいい?」と、行くかどうかではなく、いつ行くかを尋ねます
  • 期限をゆるく決める——「あと2週間続いたら、一度相談しよう」と、先に約束しておく方法もあります

だまして連れて行くことは、おすすめしません。その場では受診できても、医療そのものへの不信が残り、その後の通院が続かなくなることが多いためです。

待たずに動いたほうがよいサイン

本人の気持ちを尊重することは大切ですが、次のような場合は、説得を続けるより先に動いてください。

  • 「死にたい」「消えたい」と口にする、身辺を整理しはじめる
  • 食事や水分がほとんど取れていない
  • 何日も眠れていない
  • 現実にはないことを確信していて、本人や周囲に危険が及びそうである
  • 暴力や、自分を傷つける行為がある

命に関わる危険があるときは、迷わず119番・110番に連絡してください。夜間や休日につらくなったときの相談先は、厚生労働省「まもろうよ こころ」に電話とSNSの窓口がまとめられています。

当院で、ご家族にできること

ご家族の関わり方について、当院の決まりを正確にお伝えします。

診察に同伴する

ご本人の診察に、ご家族が最初から最後まで同伴される場合は、別に予約を取っていただく必要はありません。一人では説明しにくい、付き添いがいれば行ける、という方には、まずこの形をおすすめします。

ご家族が、個別に医師へ相談する

ご本人とは別に、ご家族だけで医師と話す時間を取りたい場合は、ご本人の同意を得られていることが前提になります。そのうえで、ご家族のお名前で医師相談枠(自費)などをご予約ください。医師相談予約料は30分あたり15,000円で、いかなる理由による予約変更・キャンセルでも返金はされません。くわしくはご利用案内をご確認ください。

同意を前提にしているのは、ご本人が安心して話せる場所を守るためです。「自分の知らないところで話が進んでいる」と感じると、受診そのものをやめてしまうことがあります。

ご家族自身が、つらくなっているとき

支える側が眠れない、気分が落ち込む、という状態になることは珍しくありません。その場合は、ご家族ご自身の受診としてご相談いただけます。

ご本人がまだ受診しておらず、同意も得られていないとき

この段階のご相談は、お住まいの地域の保健所や精神保健福祉センターが窓口になります。ご家族からの相談を受けている公的な機関です。お近くの窓口は全国の精神保健福祉センター一覧から探せます。

職場の方(上司・人事ご担当者)の場合

部下や同僚に受診を勧めたいとき、家族とは少し事情が変わります。

  • 受診を命じたり、病名を推測して伝えたりすることは避ける
  • 「遅刻が今月3回あった」「以前より発言が減っている」など、業務上の事実を伝える
  • 社内に産業医や相談窓口があれば、そちらにつなぐ
  • 受診の有無を、評価や処遇と結びつけない

声のかけ方は部下がうつ病かもしれないと感じたら、復帰のときの受け入れ方は休職した社員が復帰するときにまとめています。外部の医師による面談については法人の方へのページをご覧ください。

支える側が、先に倒れないために

説得に疲れ、眠れなくなっているご家族は少なくありません。あなたが休むことは、ご本人を見捨てることではありません。

  • 一人で抱えず、ほかの家族や信頼できる人に状況を共有する
  • 「今日は勧めない日」を作る。毎日言い続けると、お互いに消耗します
  • ご自身の睡眠と食事を、後回しにしない

病気ごとの関わり方は、うつ病の家族への接し方、双極性障害の家族が知っておきたいこと、統合失調症の初期サインと家族ができる対応、摂食障害の家族ができることにまとめています。

よくあるご相談例

ご家族からは、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多く寄せられる悩みを一般化したものです。

  • 明らかに眠れていないのに、本人が「大丈夫」と言って受診しようとしない
  • 受診を勧めるたびに口論になり、話題に出すこと自体が怖くなった
  • 本人には内緒で、先に医師に相談しておきたい
  • 支えている自分のほうが眠れなくなってきた

よくある質問

本人に内緒で、先に医師へ相談できますか?

当院の医師相談枠は、ご本人の同意を得られていることが前提です。同意がまだ得られていない段階では、お住まいの地域の保健所や精神保健福祉センターにご相談ください。ご家族からの相談を受け付けています。

無理にでも連れて行ったほうがよいでしょうか?

命に関わる危険がある場合は別ですが、そうでなければ、無理に連れて行くことはおすすめしません。その後の通院が続かなくなりやすいためです。時間はかかっても、本人が「一度だけなら」と思える形を探すほうが、結果として早く進みます。

受診したあと、家族は診察の内容を聞けますか?

ご本人の同意がある範囲でお伝えします。同伴されていれば、その場で一緒に聞いていただけます。同意のないまま、内容をお伝えすることはできません。

初めての受診で、本人は何を話せばよいのでしょうか?

うまくまとまっていなくて構いません。話しづらいことの切り出し方や初めての方へのページも参考になります。ご家族が書き留めた「気づいた変化」のメモを持参していただくと、診察が進めやすくなります。

参考文献

医師からのメッセージ

「どう言っても聞いてくれない」と、ご自身を責めていませんか。けれど、受診を嫌がるのは、あなたの言葉が足りないからではありません。本人のなかにある不安が、それだけ大きいということです。

一度で動かなくても、心配していることが伝わっていれば、それは無駄にはなりません。そして、支えているあなた自身が先に倒れないことも、同じくらい大切です。うまく言葉にならないままで構いませんので、気になった時点でご相談ください。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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