双極性障害の家族が知っておきたいこと|躁の時期の関わり方

双極性障害で家族が最も対応に困るのは、うつの時期ではなく躁の時期です。本人に「困っている」という自覚が生じにくく、周囲だけが振り回される構造になるためです。

急に多弁になり夜も眠らず動き回る、大きな買い物を次々に決めてしまう、止めようとすると激しく怒る——そんな状況に直面しているご家族は少なくありません。

この記事では、躁の時期にご家族ができることを、双極性障害の特性を踏まえて心療内科医の視点で整理します。

なぜ躁の時期は家族が苦しいのか

うつの時期は本人がつらさを訴えるため、周囲も「支えよう」と動けます。ところが躁の時期は本人が「絶好調だ」と感じているため、話が噛み合いません。

これを病識(自分が病気だという自覚)が保たれにくい状態と呼びます。本人が嘘をついているわけでも、わがままなわけでもなく、症状そのものによって自己評価が高まっている状態です。だからこそ、説得や議論では動かないという前提を持っておくことが役立ちます。

うつの時期と躁の時期で、家族の役割は変わる

うつの時期躁の時期
本人の自覚つらいと感じている調子が良いと感じている
家族の主な役割休養を支える・見守る損失を最小限に抑える
関わり方励まさず受け止める議論せず、事実だけ淡々と
優先すること安心して休める環境お金・契約・人間関係・安全

ここが重要なのですが、躁の時期の目標は「本人を落ち着かせること」ではありません。症状が治まるには治療が必要で、家族にできるのは、その間の被害を減らして治療につなぐことです。

躁のサインに早く気づく

本人より周囲の方が先に気づけることが多くあります。次のような変化が数日続く場合は、早めに主治医へ連絡することを検討してください。

  • 睡眠時間が極端に短いのに、疲れた様子がない
  • 話す量とスピードが増え、話題が次々に飛ぶ
  • 高額な買い物や投資、契約を短期間に決めてしまう
  • 「自分は特別だ」という発言が目立つ
  • 普段なら言わない攻撃的な言葉が出る
  • 知らない相手と急に親密になる、連絡量が増える
  • 仕事や計画を一度に多く抱え込む

とくに睡眠時間の減少は、早い段階で現れるサインとして知られています。記録しておくと主治医への情報として役立ちます。

躁の時期の関わり方

  • 議論しない:正しさを説いても、対立が深まるだけになりやすいです
  • 否定せず、同意もしない:「そう考えているんだね」で止めておきます
  • 事実だけ短く伝える:「今日は3時間くらいの睡眠だったね」など、評価を含めずに
  • その場で決めさせない:「明日また話そう」と時間を置く提案をします
  • 主治医へ連絡する:本人の同意が得られなくても、家族から状況を伝えることはできます

あらかじめ決めておくと助かること

躁の時期に入ってから話し合うのは困難です。調子が安定している時期に、本人と一緒に決めておくことが最も現実的な備えになります。

  • 大きな買い物や契約は、事前に家族へ相談するというルール
  • クレジットカードや通帳の管理方法
  • 「このサインが出たら受診する」という具体的な取り決め
  • 主治医へ家族から連絡してよいという合意
  • 緊急時の連絡先(主治医・夜間対応・救急)

こうした取り決めは、本人を管理するためではなく、本人が築いてきたものを守るためのものです。安定期にその趣旨を共有しておくと、実行しやすくなります。

躁が過ぎた後にこそ支えが必要です

躁の時期が落ち着くと、多くの場合その後にうつの時期が訪れます。ここで本人は、躁の時期の言動を思い出して強い後悔に襲われることがあります。

  • 使ってしまったお金や、壊した人間関係を突きつけられる
  • 「あんなことを言った自分が信じられない」と自責が強まる
  • 周囲の変わってしまった目を敏感に感じ取る

この時期の自責は、うつを深める大きな要因になります。

躁の時期の言動を責め続けないことが、ご家族にできる大きな支えです。現実的な後始末は必要ですが、「症状によるものだった」と切り分けて扱う姿勢が、次の回復を支えます。とはいえ、ご家族の側にも傷が残ります。許せない気持ちがあっても、それは自然なことです。

ご家族自身を守るために

躁の時期の対応は、うつの時期より短期的な負担が大きくなりがちです。

  • 一人で対応せず、他の家族や支援者と分担する
  • 暴言があっても、症状によるものと切り分けて受け止める(受け流せなくても構いません)
  • 金銭的な被害は記録に残しておく
  • ご自身が眠れない、気分が落ち込む状態が続くなら、ご自身の受診も検討する

うつの時期の関わり方については、うつ病の家族への接し方もあわせてご覧ください。

すぐに相談が必要な状況

  • 自傷や他害のおそれがある
  • 取り返しのつかない金額の契約や借入をしようとしている
  • 数日間ほとんど眠っていない
  • 幻覚や妄想と思われる言動がある

こうした場合は様子を見ず、主治医または地域の精神科救急・保健所や入院加療が可能な医療機関へご相談ください。

よくあるご相談例

外来では、ご家族から次のようなご相談をよくお聞きします。

  • 「本人に自覚がなく、受診をどう切り出せばいいか分からない」というご相談
  • 「調子がいい時期に借金が増え、後になって本人が落ち込む」というご相談
  • 「暴言を症状だと分かっていても、こちらが耐えられない」というご相談

よくある質問

Q. 本人に「躁状態だ」と伝えるべきですか?
A. 伝えても受け入れられないことが多く、対立を招きやすいです。安定期に決めた取り決めを持ち出す方が現実的です。

Q. 家族から主治医に連絡してもいいですか?
A. はい。医師から診療内容をお伝えすることは本人の同意なくできませんが、ご家族から状況を伝えることは可能です。

Q. 買い物や契約を取り消せますか?
A. 状況によります。金額が大きい場合は、消費生活センターや弁護士など専門窓口へ早めにご相談ください。

Q. うつ病とは対応が違うのですか?
A. はい。うつの時期は休養の支援、躁の時期は損失を抑えることが中心になります。双極性障害Ⅱ型の見分け方もご覧ください。

参考文献

医師からのメッセージ

「なぜ分かってくれないのか」と、何度も説明を試みてこられたのではないでしょうか。話が通じないのはご本人の性格でも、あなたの伝え方の問題でもなく、症状そのものが自己評価を高めているためです。

ご家族だけで抱え込む必要はありません。ご本人が受診できない段階でも、ご家族からのご相談を承っています。迷った時点でお越しください。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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