
メンタル不調で休職した社員の復帰でつまずきやすいのは、復帰した瞬間ではなく、戻ってから3か月ほどの期間です。
気を遣いすぎるべきか、普通に接するべきか。仕事はどこまで任せていいのか——迷いながら受け入れ準備を進めている職場の方は少なくありません。
この記事では、休職者を迎える職場側が気をつけたいことを、心療内科医の視点で整理します。
復帰後にこそ支援が必要な理由
厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」でも、職場復帰は復帰の日をゴールとせず、その後のフォローアップまでを含めた段階的なプロセスとして位置づけられています。
復帰直後は本人も周囲も緊張感があり、無理が利いてしまいます。ところが緊張が解けた頃に疲れが表面化し、再休職はこの時期に起こりやすいと考えられています。「戻ってこられたから大丈夫」と支援を終えないことが大切です。
やりがちだが負担になる受け入れ方
| やりがちな対応 | 本人側に起きやすいこと |
|---|---|
| 腫れ物に触るように距離を置く | 疎外感を覚え、居場所がないと感じる |
| 「無理しないで」とだけ繰り返す | 戦力外だと受け取り、焦りが強まる |
| 復帰初日から以前と同じ量を任せる | 体力が戻る前に消耗し、再発の引き金になる |
| 休職の理由を本人や周囲に詮索する | プライバシーが守られない不安が生じる |
| 歓迎会など大人数の場をすぐ設ける | 気疲れが大きく、負担になることがある |
どれも善意から出る対応です。「特別扱いしすぎず、負荷はかけすぎない」という一見矛盾したバランスが求められる点が、この場面の難しさです。
受け入れ前に決めておきたいこと
- 業務量と内容:最初は残業なし・定型業務からなど、具体的に決めておく
- 段階を上げる目安:「何ができたら次の段階か」を事前に共有する
- 相談窓口:不調時に誰に相談すべきかを決めておく
- 周囲への伝え方:必ず本人の同意を得たうえで、どこまで共有するかを決める
- 面談の頻度:復帰後しばらくは定期的に短時間で行う
これらを復帰前に本人と合意しておくことで、戻ってから毎回判断する負担が減ります。
復帰後の時期別に気をつけたいこと
必要な配慮は時期によって変わります。同じ対応を続けると、かえって合わなくなることがあります。
| 時期 | 本人の状態 | 職場側で意識したいこと |
|---|---|---|
| 復帰〜1か月 | 通勤するだけで消耗する。緊張で無理が利いてしまう | 業務量を意図的に抑える。「来られたこと」を評価軸にする |
| 1〜3か月 | 緊張が解け、疲れが表面化しやすい最も注意が必要な時期 | 面談の頻度を落とさない。負荷を上げるのは慎重に |
| 3〜6か月 | 徐々に本来のペースへ。周囲の関心が薄れがち | 支援を終わりにしない。定期的な確認を続ける |
ここが重要なのですが、周囲の緊張感が緩む時期と、本人の疲れが出る時期は重なります。「もう大丈夫そうだ」と見えるタイミングこそ、確認を続ける価値があります。
声のかけ方
特別な言葉は必要ありません。迷ったときは次を目安にしてみてください。
- 普通に挨拶する:それだけで居場所があると伝わります
- 体調の詮索はしない:「調子どう?」より「おはよう」で十分です
- 仕事は具体的に頼む:「無理しないで」より「この件だけお願いできますか」の方が動きやすいことがあります
- できたことを事実で返す:「助かりました」と短く伝える
周囲の社員への配慮も忘れずに
見落とされやすいのですが、休職中に業務を引き受けてきた同僚にも負荷がかかっています。ここへの目配りがないと、復帰者への不満という形で表面化することがあります。
- 引き継ぎで増えた業務を、復帰に合わせて段階的に戻す計画を伝える
- 「いつまで負担が続くのか」の見通しを示す
- 復帰者への配慮の理由を、診断名に触れずに説明する
- 同僚側の疲弊にも面談の機会を設ける
復帰者を支える体制は、周囲が消耗していない状態でこそ機能します。
再発のサインに早く気づくために
次のような変化が続く場合は、早めに面談や産業医への相談を検討してください。
- 遅刻や早退、当日の欠勤が増えてきた
- 表情が乏しくなり、会話が減った
- 以前はしなかったミスや、報告の遅れが目立つ
- 休憩時間に一人でいることが増えた
- 「大丈夫です」と言いながら、残業が増えている
本人が「大丈夫」と言っていても、行動の変化の方が先に出ることがあります。責める形ではなく「最近どうですか」と場を用意する形が向いています。
主治医・産業医との連携について
復職の可否や業務上の配慮については、主治医の意見書や診断書が判断材料になります。ただし主治医は職場の実情を必ずしも把握していないため、記載内容と実際の業務にずれが生じることがあります。
- 産業医がいる場合は、主治医の意見と職場の実情をつなぐ役割を担ってもらう
- 産業医がいない場合は、本人の同意を得たうえで職場の状況を主治医へ伝える
- 「フルタイム可」などの記載だけで判断せず、具体的な業務内容を照らし合わせる
なお、本人の同意なく職場が主治医から診療内容を得ることはできません。守秘義務があるためで、連携は本人を介する形が基本になります。
よくあるご相談例
外来では、職場の立場の方から次のようなご相談をよくお聞きします。
- 「どこまで仕事を任せていいのか分からず、結果的に何も頼めていない」というご相談
- 「本人は大丈夫と言うが、周囲から見ると明らかに無理をしている」というご相談
- 「一度復帰したがまた休職になり、対応が正しかったのか分からない」というご相談
よくある質問
Q. 休職の理由を本人に聞いてもいいですか?
A. 業務上必要な範囲を超えて詮索することは避けてください。大切なのは診断名ではなく、どの業務にどんな配慮が要るかという情報です。
Q. 周囲の社員にはどう説明すればいいですか?
A. 本人の同意を得た範囲で、業務上必要な情報のみを共有します。診断名を伝える必要は通常ありません。
Q. 短時間勤務から始めるべきですか?
A. 一概には言えませんが、段階的に負荷を上げる方法は広く用いられています。無理のない働き方の観点も参考にしてください。
Q. 管理職自身がつらくなってきました。
A. 支える側の負担も小さくありません。管理職・昇進うつもあわせてご覧ください。
参考文献
医師からのメッセージ
「どう接するのが正解なのか分からない」と迷いながら、それでも受け入れ準備を進めてこられたのだと思います。その迷い自体が、相手を尊重しようとしている証拠です。
復帰はゴールではなく再スタートです。ご本人のうつ病などの治療と、職場の配慮が両輪になって初めて安定します。判断に迷われたときは、産業医や主治医とご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

