ひきこもりの家族ができること|本人が動き出すまでの関わり方

ひきこもりの状態にあるご家族に対して、周囲がまずできることは「動かすこと」ではなく、安心して過ごせる状態を保ちながら関わり続けることです。

部屋から出てこない、食事は家族がいない時間にとる、声をかけても返事がない——そんな日々が続き、どう接すればいいのか分からなくなっているご家族は少なくありません。

この記事では、ご本人が動き出すまでにご家族ができることを、心療内科医の視点で整理します。

まず知っておきたいこと

ひきこもりは、厚生労働省の定義では「さまざまな要因の結果として社会的参加を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」とされています。病名ではなく状態を表す言葉で、その背景は一人ひとり異なります。

背景に、うつ病・不安症・発達特性・強い対人不安などが関わっていることもあれば、明確な診断がつかないこともあります。「怠け」や「甘え」で説明できるものではないという点は、最初に共有しておきたいところです。

よくある「よかれと思って」が逆効果になる場面

ご家族の多くは、なんとか力になろうと働きかけます。ただ、次のような関わりは、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。

やりがちな関わり本人側に起きやすいこと
「いつまでこうしているの」と期限を迫る焦りと自責が強まり、さらに動けなくなる
就労や進学の情報を次々に渡す「今の自分は認められていない」と受け取る
部屋に無理に入る・強引に連れ出す安全な場所を失い、警戒が強まる
他の家族や親戚と比較する存在そのものを否定されたと感じる
腫れ物に触るように一切関わらない見捨てられ感が強まり、孤立が深まる

どれも愛情から出た行動です。責める必要はありませんが、「早く動かす」ことを目的にすると空回りしやすいという点は知っておくと役立ちます。

今日からできる関わり方

  • 返事を求めない声かけをしてみる(「おはよう」「ここに置いておくね」だけで十分です)
  • 食事や生活の世話は淡々と続ける(世話をやめることは働きかけになりません)
  • 本人が話し始めたときは、助言せずに最後まで聞く
  • 将来の話は本人が触れたときだけにする
  • 「あなたが悪いわけではない」と一度だけ言葉にしてみる

変化がすぐに見えなくても構いません。安心して過ごせる時間が積み重なることが、動き出すための土台になります。

声のかけ方に迷ったときは

何を言えばいいか分からず、結果として何も言えなくなる——これはご家族から最もよくお聞きする悩みです。迷ったときは、次の3つを目安にしてみてください。

  • 評価を含まない:「えらいね」「まだ無理か」ではなく、「おはよう」「雨降ってきたよ」など事実だけを
  • 返事を求めない:問いかけの形にすると、答えられないこと自体が負担になります
  • 短く、日常的に:改まった長い話より、すれ違いざまの一言を続ける方が届きやすいことがあります

うまく言えなかった日があっても構いません。完璧な声かけより、関わりが途切れないことの方が大切です。

回復には段階があります

ひきこもりからの回復は、一直線には進みません。「動き出す」より前に、いくつかの段階があると考えられています。

  • 安心の回復期:家の中で安全に過ごせるようになる。表情や生活リズムに少し変化が出る
  • 関係の回復期:家族との会話が戻る。自分から話しかけることが増える
  • 外との接点期:買い物や散歩など、短時間の外出ができるようになる
  • 社会参加の模索期:支援機関の利用や、就労・進学を考え始める

ご家族が焦りやすいのは、最初の段階が外から見えにくいためです。何も変わっていないように見えても、家の中で安心して過ごせているなら、それは止まっているのではなく土台を作っている時間かもしれません。

また、進んだ後に戻ることもよくあります。後戻りは失敗ではなく、回復の過程にしばしば含まれるものだと考えられています。

ご家族自身が消耗しないために

ここが重要なのですが、支える側が倒れてしまうと、関わりそのものが続けられなくなります。

  • ご家族だけで抱え込まず、支援機関に「家族として」相談する
  • 改善が見えない時期があっても、自分の関わりが悪いせいだと決めつけない
  • 仕事や趣味など、ご自身の生活を手放さない
  • 同じ立場の家族が集まる会に参加してみる

相談できる公的窓口

ご本人が動けない段階でも、ご家族だけで相談できる窓口があります。

  • ひきこもり地域支援センター:全都道府県・指定都市に設置。社会福祉士や精神保健福祉士などの支援コーディネーターが相談に応じます
  • 保健所・精神保健福祉センター:お住まいの地域の相談窓口として利用できます
  • 自治体の福祉相談窓口:生活面の支援制度についても相談できます

心療内科でできること

  • ご家族のみの相談(ご本人が来られない段階でも可能な場合があります)
  • 背景にある状態の見立て(うつ・不安・発達特性など)
  • ご家族自身の不眠・抑うつなど、心身の不調への対応
  • 受診につなげる場合の、具体的な進め方の相談

背景にうつ病などが関わっている場合は、治療によって状況が変わることもあります。ただし、ご本人の意思なく受診させることはできませんので、まずはご家族の相談から始める形が現実的です。

こんなときは早めにご相談ください

  • 食事や睡眠が極端に乱れ、体調の悪化が見てとれる
  • 「死にたい」という言葉が出ている
  • 暴力や自傷につながる行動がある
  • ご家族自身が眠れない、気分の落ち込みが続いている

特に「死にたい」という言葉が出ている場合は、様子を見ずにすぐご相談ください。

よくあるご相談例

外来では、ご家族から次のようなご相談をよくお聞きします。

  • 「何年も部屋から出てこず、どう声をかけていいか分からない」というご相談
  • 「刺激しないようにしていたら、まったく会話がなくなってしまった」というご相談
  • 「自分の育て方が悪かったのかと、責め続けている」というご相談

よくある質問

Q. 本人が行きたがりません。家族だけで相談できますか?
A. はい。ご家族のみのご相談を受けている医療機関や支援機関があります。当院でもまずはご家族からのご相談を承っています。

Q. 無理にでも連れ出した方がいいのでしょうか?
A. いいえ。強引な働きかけは信頼関係を損ない、状況が長引く要因になることがあります。

Q. 親の育て方が原因なのでしょうか?
A. 原因を一つに特定できるものではありません。ご家族が自分を責め続けることは、支える力を削ってしまいます。

Q. 学校に行けない子どもの場合も同じですか?
A. 重なる部分はありますが、学齢期の場合は学校との連携が加わります。不登校・いじめのページもあわせてご覧ください。

参考文献

医師からのメッセージ

「自分の育て方が悪かったのではないか」と、ご自身を責め続けてはいませんか。ここまで関わり続けてこられたこと自体が、すでに大きな支えになっています。

ご本人が動き出すまでには時間がかかることもあります。その間、ご家族が無理なく支え続けることもできる状態でいることが何より大切です。ご家族だけでのご相談で構いませんので、迷った時点でお越しください。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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