抜毛症・皮膚むしり症とは?やめられない癖の正体とセルフケア

「抜毛症」「皮膚むしり症」は、髪の毛や皮膚を、自分でもやめたいと思いながら繰り返し抜いたりむしったりしてしまう状態のことです。

気づけば眉毛やまつげ、頭髪の一部を抜いてしまっている、かさぶたやささくれを無意識にむしり続けてしまうといった行動が繰り返されているなら、それは「癖が悪い」だけの問題ではないかもしれません。

この記事では、抜毛症・皮膚むしり症の特徴と、やめられない背景、セルフケアの工夫を心療内科医の視点で整理します。

抜毛症・皮膚むしり症とは

抜毛症(トリコチロマニア)は髪の毛やまつげ、眉毛などを繰り返し抜いてしまう状態、皮膚むしり症(スキンピッキング)は皮膚をひっかいたりむしったりする行動を繰り返す状態です。どちらも「体軸性反復行動症」と呼ばれる仲間で、強迫性障害と関連が深いことが知られています。単なる「癖」と異なるのは、本人が「やめたい」と思っているのにコントロールが難しく、それによって外見上の変化や苦痛が生じている点です。

項目抜毛症皮膚むしり症
対象となる部位頭髪・まつげ・眉毛など毛のある部分皮膚(顔・腕・指先など)
主な行動毛を引き抜く皮膚をひっかく・むしる・刺激する
起こりやすい場面緊張・退屈・集中しているとき緊張・退屈・集中しているとき
見た目への影響脱毛斑・地肌の露出かさぶた・傷跡・色素沈着

両方の行動が同時に見られる方もいれば、どちらか一方だけの方もいます。どちらに当てはまるかよりも、行為によってどれだけ苦痛や生活への影響が生じているかに目を向けることが大切です。

一人で抱え込みやすい理由

抜毛症・皮膚むしり症は、人前では意識的に我慢できることが多く、一人のときに集中して行われる傾向があります。そのため、周囲はもちろん、本人自身も「そこまで深刻ではない」と見過ごしてしまいやすい特徴があります。

  • 「くせ」の一言で片付けられ、相談すること自体を思いつきにくい
  • 見た目の変化を隠すことに労力を使い、疲弊が積み重なっていく
  • 「またやってしまった」という自己嫌悪が、かえって次の行為の引き金になることもある

このサイクルに気づいた時点で、恥ずかしいことだと感じる必要はありません。

セルフチェック:こんな行動はありませんか

最近2週間ほどを振り返って、以下に当てはまるものがないか確認してみてください。診断ではなく、相談を考える一つの目安です。

  • 気づいたら髪の毛やまつげ、眉毛を抜いてしまっていることがある
  • 皮膚のかさぶたやささくれ、ニキビなどを無意識にむしってしまう
  • やめようと思っても、緊張しているときや手持ち無沙汰なときについやってしまう
  • 行為の後に、後悔や恥ずかしさを感じることが多い
  • 人前ではしないよう気をつけているが、一人になるとやってしまう
  • 髪や眉、まつげが不自然に薄くなった部分がある
  • 皮膚に傷跡や色素沈着が残っている
  • こうした行為を隠すために、帽子やメイクなどで工夫している

いくつか当てはまっても、それだけで診断が確定するわけではありません。ただ、こうした状態が続いているなら、一人で抱え込まず、相談先の一つとして心療内科を選択肢に入れてみてください。

なぜやめられないのか

抜毛症・皮膚むしり症の背景には、いくつかの要因が考えられています。

  • 緊張や不安、退屈といった感情を、行為によって一時的に落ち着けている
  • 行為の最中に得られる集中感や達成感が、無意識のうちに繰り返しを強めている
  • テレビを見ている、考え事をしているなど、意識が他に向いているときに無自覚に始まる
  • ストレスの多い時期に頻度が増えるなど、状況によって波がある

「やめられないのは意志が弱いから」ではなく、脳の習慣的な回路が関わっている可能性があると考えられています。

心療内科でできること

  • 専門医による診断(強迫性障害など関連する状態との見極め)
  • 習慣逆転法など、行動に働きかけるカウンセリング
  • ストレスや感情との付き合い方を整理するサポート
  • 必要に応じた薬物療法

今日からできるセルフケア

  • 手が動きやすい場面(テレビを見ているとき等)に、代わりに触れるものを用意してみる
  • 行為が起きやすい時間や状況を、責めずに記録してみる
  • 患部に絆創膏を貼るなど、物理的に行為をしにくくする工夫をしてみる
  • 「今日は減らせた」と感じられた日があれば、それだけで十分と捉える

できなかった日があっても構いません。完全にやめることより、少しずつ付き合い方を見つけていくことが大切です。

受診の目安

  • セルフチェックの項目に複数当てはまり、見た目の変化や苦痛が生じている
  • 自分で対処しようとしてもうまくいかない期間が続いている
  • 隠すことへの負担が、日常生活に影響している

「これくらいで受診していいのだろうか」とためらう方も多いのですが、見た目の変化や自己嫌悪感によって毎日の生活の質が下がっているなら、それは十分に相談する理由になります。

よくあるご相談例

外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。

  • 「気づくと眉毛を抜いてしまい、メイクで隠すのに疲れた」というご相談
  • 「ストレスがたまると、指先の皮をむいてしまう癖が止まらない」というご相談
  • 「やめたいと思っているのに、無意識にやってしまう自分に自己嫌悪を感じる」というご相談

よくある質問

Q. ただの癖とは違うのですか?
A. 「もうやめたい」という気持ちがあるにもかかわらずコントロールが難しく、それによって苦痛や見た目の変化が生じている場合、単なる癖とは区別して考えます。

Q. 自然に治りますか?
A. 個人差がありますが、対処法を知らないまま我慢するだけでは長引くこともあります。工夫や相談によって、行為の頻度が和らぐこともあります。

Q. 強迫性障害と同じですか?
A. 抜毛症・皮膚むしり症は強迫性障害と関連が深い「向身体性反復行動症」というグループに含まれますが、同一の診断ではありません。

Q. 何科を受診すればいいですか?
A. 心療内科または精神科でご相談いただけます。皮膚の傷が気になる場合は、皮膚科と連携することもあります。

Q. 子どもにも見られますか?
A. はい。10代前後で始まることも珍しくありません。年齢にかかわらず、気になる場合はご相談ください。

参考文献

医師からのメッセージ

「こんな癖、恥ずかしくて誰にも言えない」と一人で抱え込んでいませんか。それは意志の弱さではなく、緊張や不安を落ち着けようとする心の働きが、たまたまこの形で表れているだけかもしれません。

一人で我慢せず、迷った時点で相談していただいて構いません。行為との付き合い方を、一緒に整理していきましょう。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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