
「セルフネグレクト」は、食事や睡眠、清潔さ、通院や治療など、自分自身の心身を保つために必要なことに手が回らなくなり、放置してしまう状態のことです。
片づけや入浴が億劫で後回しにしてしまう、必要な通院や薬の管理を後回しにしてしまうといった状態が続いているなら、それは「だらしない」からではなく、心が限界に近づいているサインかもしれません。
この記事では、セルフネグレクトの特徴と、背景にある心理を心療内科医の視点で整理します。
セルフネグレクトとは
セルフネグレクトは、食事・睡眠・清潔・医療など、自分の心身を保つために必要な行動が、慢性的にできなくなっている状態を指します。「面倒くさがり」という性格の範囲と異なるのは、自分を大切にする余力そのものが失われている点です。うつ病や気力の低下を伴う状態、孤立、慢性的な自己肯定感の低さなどが背景にあることも少なくありません。
気づかれにくく、進行しやすい理由
セルフネグレクトは、本人が助けを求める行動そのものをとりにくくなるという特徴があります。
- 「困っている」と言うこと自体にエネルギーが必要で、声を上げられない
- 見た目や生活の変化は、本人よりも周囲が先に気づくことが多い
- 「みっともない」という羞恥心から、状態を隠そうとしてしまう
気づいた時点で対応することが難しいほど、状態が進んでから表面化しやすいのが、このテーマの難しさでもあります。
セルフチェック:こんな状態が続いていませんか
最近2週間ほどを振り返って、以下に当てはまるものがないか確認してみてください。診断ではなく、相談を考える一つの目安です。
- 食事を作る・食べること自体が面倒で、簡単に済ませる日が続いている
- 入浴や歯磨きなど、以前は当たり前にしていた身の回りのことが億劫になっている
- 部屋の片づけやゴミ出しが、気づけば何日も手つかずになっている
- 必要な通院や薬の服用を、後回しにしてしまうことがある
- 「どうせ自分のことなんて」と、自分を大切にする理由が見つからない
- 人に会う予定や連絡を、理由もなく避けてしまう
- 体調が悪くても、「大したことない」と受診をためらってしまう
- 「疲れた」以外の感情があまり湧いてこない
いくつか当てはまっても、それだけでセルフネグレクトと決まるわけではありません。ただ、こうした状態が2週間以上続いているなら、一人で抱え込まず、相談先の一つとして心療内科を選択肢に入れてみてください。
なぜ自分を大事にできなくなるのか
セルフネグレクトの背景には、いくつかの要因が重なっていると考えられています。
- うつ病や慢性的な疲労により、行動そのものへのエネルギーが枯渇している
- 孤立や人間関係の希薄さから、「見てくれる人がいない」状態が続いている
- 自己肯定感の低さから、「自分を大切にする理由がない」と感じてしまう
- 介護や仕事など、他者のケアを優先し続けた結果、自分の順番が回ってこない
「自分のことは後回しでいい」という状態が長く続くと、自分を大切にする行動そのものが優先順位の外に追いやられてしまいます。頑張り続けてきた結果、力尽きてしまった状態とも言え、決して「怠け」ではありません。
心療内科でできること
- 専門医による診断(うつ病など背景にある状態の見極め)
- カウンセリング(生活を立て直すための無理のないペース作り)
- 必要に応じた薬物療法
- 生活全般の負担を整理するサポート

周囲の人ができること
身近な人の変化に気づいたときは、次のような関わり方が助けになることがあります。
- 「片づけなさい」ではなく、「最近どう?」と、まず様子を聞いてみる
- 一緒に何かをする形で、負担を分担してみる(一緒に掃除する、通院に付き添う等)
- 改善を急かさず、小さな変化を見つけて言葉にしてみる
- 深刻に見える場合は、無理に一人で対応しようとせず、専門家への相談を一緒に考える
今日からできるセルフケア

- 「片づける」ではなく、「ペットボトルを1本捨てる」など、できることを極端に小さくしてみる
- 食事は作らなくても構いません。コンビニやレトルトで、まず1食とることを目標にしてみる
- 入浴が難しい日は、顔や手を拭くだけでも十分と考えてみる
- 「今日はここまでできた」と、自分に一言かけてみる
できなかった日があっても構いません。完璧を目指すより、少しずつ「自分のための行動」を取り戻していくことが回復への一歩になります。
受診の目安
- セルフチェックの項目に複数当てはまり、2週間以上続いている
- 通院や治療が必要な持病があるのに、対応が後回しになっている
- 「消えてしまいたい」と感じることがある
特に「消えてしまいたい」という気持ちが浮かぶ場合は、我慢せずすぐにご相談ください。「この程度で相談していいのだろうか」とためらう必要はありません。生活の負担が積み重なっている時点で、それは十分な相談理由になります。
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。
- 「気づけば何日もお風呂に入れておらず、自己嫌悪だけが募っている」というご相談
- 「持病の通院を、何ヶ月も先延ばしにしてしまっている」というご相談
- 「誰にも会いたくなく、連絡もすべて後回しにしてしまう」というご相談
よくある質問
Q. ただの面倒くさがりとは違うのですか?
A. 一時的な面倒くささと異なり、セルフネグレクトは自分を大切にする行動全般が、長期間にわたって難しくなっている状態を指します。
Q. うつ病と同じですか?
A. 同じではありませんが、うつ病の症状の一つとしてセルフネグレクトの状態が現れることもあります。
Q. 一人暮らしでなくても起こりますか?
A. はい。家族と同居していても、自分自身のケアだけが後回しになるケースは珍しくありません。
Q. 何科を受診すればいいですか?
A. 心療内科または精神科でご相談いただけます。体の不調も気になる場合は、内科と連携することもあります。
Q. 高齢者だけの問題ですか?
A. いいえ。セルフネグレクトは高齢者に限らず、若い世代や現役世代にも起こります。年齢にかかわらず、気になる場合はご相談ください。
参考文献
医師からのメッセージ
「自分のことなんて後回しでいい」と思っていませんか。それは冷たさや怠けではなく、これまで頑張り続けてきた心が「もう余力がない」と教えてくれているサインです。
一人で抱え込まず、迷った時点で相談していただいて構いません。自分を大切にする力を、少しずつ一緒に取り戻していきましょう。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

