エラーコードから学ぶ、失敗の価値。システムが次に進むために必要な例外

記事の説明

エラーコードは、システムが「うまくいっていないこと」を静かに知らせてくれるサインです。
人の心にも、エラーコードのようなサインが現れます。仕事でのミス、人間関係のつまずき、不眠、動悸、涙が止まらない、朝起きられない。こうした「失敗」や「不調」は、決してあなたの価値を下げるものではなく、次の一歩を踏み出すための重要な例外処理かもしれません。

この記事では、心療内科医の立場から、エラーコードを手がかりに「失敗の価値」を見つめ直しながら、うつ病、不安障害、適応障害、発達特性(グレーゾーンを含む)などに伴う症状、原因、治療方法をわかりやすく解説します。
実際の体験談を交えつつ、カウンセリングや心療内科への通院のタイミング、医師との付き合い方、安心して治療を続けるためのポイントもお伝えします。

自分を責めるためではなく、自分のシステムを深く理解し、より生きやすい再設計をしていくための案内書として、読んでいただけたら幸いです。

エラーコードは「壊れた証拠」ではなく「守ろうとした記録」

コンピュータシステムでエラーコードが出る時、必ずしもシステムが完全に壊れたとは限りません。
多くの場合「これ以上続けると危険だから、ここで止めたほうがいい」という自己防衛のサインです。

人の心や脳も、よく似た仕組みを持っています。

  • 朝起きられない
  • 会議が怖くて動悸がする
  • ミスを極端に恐れて手が震える
  • 電車に乗ろうとすると息苦しい
  • 仕事のことを考えると涙が出る

これらは「弱さ」でも「怠け」でもなく、
心と体のシステムが「このまま動き続けると危険だよ」と送っているエラーコードのようなものです。

心療内科や精神科で診断される

これらも、多くは「壊れた心」ではなく、
「負荷が高すぎる環境」と「これまで身につけてきた対処法」との組み合わせから生まれた、
一種の例外処理と言えます。

エラーコードを消すことだけを目的にすると、本質的な問題は何も変わりません。
むしろ
なぜこのエラーが出たのか
という視点が、回復と再設計の重要な入口になります。

失敗は「例外処理」のきっかけ。原因と背景を一緒に整理する

心療内科を受診される方の多くは、こうおっしゃいます。

  • 自分はダメな人間だと感じる
  • 何度も同じミスをしてしまう
  • 他の人はちゃんとできているのに、自分だけできない
  • もう社会人失格だと思う

ただ、診察室でゆっくり話を聞いていくと、背景には

  • 長時間労働やサービス残業
  • 強いプレッシャーやパワハラ
  • 高すぎるノルマ・目標管理
  • 真面目すぎて休めない性格傾向
  • 発達特性に合わない仕事の割り振り
  • 家族環境や過去のトラウマ

といった、構造的・環境的な要因が複雑に絡んでいることがほとんどです。

システム開発で言えば

  • 要件定義が現実的でない
  • 無理な納期設定
  • 担当者に合わない仕様
  • テスト環境が整っていない

のに、それを個人の能力不足とだけ責めている状態に近いかもしれません。

心療内科での診察やカウンセリングでは

  • 症状(不眠、食欲低下、意欲低下、焦燥感など)
  • 心の状態(思考パターン、自己評価、不安)
  • 環境要因(職場、家庭、人間関係、ライフイベント)
  • 生物学的要因(体質、遺伝、ホルモンバランス、自律神経)

を改めて整理し、
「なぜ今、このタイミングでエラーコードが出たのか」
を一緒に理解していきます。

心のエラーコードとしてよく見られる症状

ここでは、心療内科でよくご相談いただく症状を、あえて「エラーコード」のように整理してみます。
あくまで例であり、自己診断には使わないでください。気になる方は受診を検討してください。

  • コード E001: 朝起きられない、仕事の準備をしようとすると強い拒否感
    • うつ病、適応障害、バーンアウト(燃え尽き症候群)などでよく見られるサイン
  • コード E010: 会議や人前で話すときに動悸、手の震え、冷や汗
  • コード E011: 眠れない、夜中に何度も目が覚める、悪夢が続く
    • 不眠症、うつ病、不安障害、PTSDなどでよく見られる
  • コード E100: ミスを極端に恐れ、何度も確認して時間が足りなくなる
    • 強迫傾向、完璧主義、発達特性(ASD・ADHD)との関連があることも
  • コード E101: 同じ失敗を繰り返してしまう、段取りがうまく組めない
    • ADHD傾向、疲労による集中力低下、睡眠不足などの可能性

これらはあくまで例示的な「仮のコード」です。
大事なのは、
自分の症状にラベルを貼って終わりにするのではなく、
「なぜ今、そのコードが出ているのか」を一緒に考えるプロセスです。

体験談1

「失敗が怖くて動けなくなったエンジニア」の場合

30代前半の男性エンジニア。
大きなシステム開発プロジェクトで、テスト工程のリーダーを任された方がいました。

もともと几帳面で責任感が強く、
深夜まで残業しながらも、なんとか納期に間に合わせてきました。

ある日、納品後に重大なバグが発覚。
幸い大事故にはなりませんでしたが、社内で問題視され、
彼は強い自責感と恥ずかしさから、人前に出ることが苦痛になりました。

その後

  • 朝、会社の最寄り駅に近づくと動悸と吐き気
  • 会議の前日はほとんど眠れない
  • 夜中に「もしまたミスをしたら」という不安で目が覚める
  • ソースコードを見ると、頭が真っ白になる

という状態が続き、心療内科を受診されました。

診察と心理検査、生活背景の確認を通して
うつ病と不安障害が重なった状態と判断し

  • 休職の提案
  • 抗不安薬と抗うつ薬の少量からの開始
  • 認知行動療法的なカウンセリング
  • 「失敗」と「自分の価値」を切り分ける練習
  • 仕事復帰のプロセスを会社と連携しながら段階的に調整

という治療計画を立てました。

数か月後、少しずつ

  • バグ = 能力の否定 ではなく、システムと体制の問題も含めて見る
  • 自分一人の責任ではないこと
  • 「完璧でない自分」を許しながら仕事をする感覚

が育っていき、
最初は時短勤務から、徐々に業務に復帰していきました。

この方が印象的だった言葉があります。

失敗した自分を消したかったけれど
今は、失敗した自分も含めて
自分のシステムをアップデートする作業なんだと
少しだけ思えるようになりました

体験談2

「いつも締切ギリギリになってしまうデザイナー」の場合

20代後半の女性デザイナー。
フリーランスとして働いていましたが

  • 締切を守れない
  • スケジュール管理がうまくいかない
  • 作業に取りかかるまでに異常に時間がかかる

という悩みを抱えていました。

何度も反省し、タスク管理アプリもいくつも試し、
意志の力で乗り越えようとしましたが、なかなか改善しません。

周囲から

  • ちゃんと計画を立てたら
  • やる気の問題じゃないの
  • 甘えすぎでは

と指摘され続け、
本人も「自分は怠け者で、社会不適合なのかもしれない」と感じていました。

診察と発達検査を行った結果、
ADHD傾向を含む発達特性があることがわかりました。
うつ病ではなくても、慢性的な自己否定と不安、睡眠リズムの乱れを伴っていました。

治療と支援としては

  • ADHD特性に適したタスク分解と時間管理の方法
  • 達成感を得やすい仕事の組み立て方
  • クライアントへの締切設定や交渉の仕方
  • 必要に応じて少量の薬物療法
  • カウンセリングによる自己理解のサポート

を行いました。

彼女はこう話してくれました。

今までは
いつも締切が守れない自分、エラーだらけの自分を
消したい、隠したいと思っていました

でも今は
自分のOSが周りと少し違うだけで
それに合った設定に変えればいいんだ
と感じられるようになりました

エラーコードをきっかけに
「自分の脳の使い方」を学び直すプロセスが始まった例です。

心療内科やカウンセリングを検討すべきサイン

次のような状態が2週間以上続いている場合は、
心療内科やメンタルクリニック、カウンセリングの利用を検討してほしいサインです。

  • 眠れない、または寝すぎてしまう
  • 食欲が極端に落ちた、または過食が続く
  • 朝起きるのがつらく、身支度に時間がかかる
  • 仕事や勉強に集中できない
  • ミスが増え、注意されることが多くなった
  • 動悸、息苦しさ、めまい、頭痛、腹痛などの身体症状が続くが、内科では異常がないと言われる
  • 自分を責める考えが止まらない
  • 以前楽しめていたことが楽しく感じられない
  • 死にたい、消えたいという考えが頭によぎる

これらは、いわば「システムに負荷がかかりすぎている」「例外処理だけでは追いつかなくなっている」
というサインです。

心療内科や精神科に行くことに、まだ抵抗を感じる方も少なくありません。
ですが、現代のメンタルヘルス医療は

  • 薬物療法
  • 精神療法、カウンセリング
  • 認知行動療法
  • 仕事の調整や休職支援
  • 家族支援
  • 睡眠衛生指導、自律神経の整え方のアドバイス

など、多角的なアプローチを組み合わせて行うことが増えています。

「薬漬けになるのでは」と心配される方もいますが、
実際には、ご本人の希望を丁寧に聞きながら、必要最小限から始めることがほとんどです。
不安があれば、遠慮なく医師に質問してください。

Q&A よくある質問と心療内科医からの回答

Q1

失敗が増えただけで、病院に行ってもいいのでしょうか

A1
もちろん構いません。
失敗の「数」そのものよりも

  • 失敗への恐怖や不安が強すぎる
  • 失敗が続いて、自分の価値を極端に低く感じる
  • 仕事や勉強、人間関係に大きな支障が出ている
  • 繰り返し同じパターンでつまずいてしまう

といった状態が続いている場合は、一度専門家に相談する価値があります。

早めに相談することで、休職や退職、深刻なうつ状態などを
予防できることも少なくありません。
内科に行くのと同じ感覚で、気軽に使ってよい医療資源だと考えてください。


Q2

心療内科と精神科はどう違いますか

A2
診療所では実際には、診療内容が重なる部分が多く、
同じ医師が心療内科と精神科を掲げていることもあります。

ざっくり言うと

  • 心療内科
    • ストレスや心の状態が原因で、身体症状(頭痛、腹痛、動悸、めまいなど)が出ている場合
    • 自律神経失調症、過敏性腸症候群、緊張型頭痛など
  • 精神科
    • うつ病、躁うつ病、統合失調症、依存症、重度の不安障害など

といったイメージですが、
クリニックによってはどちらも幅広く診ているところがたくさんあります。

ホームページや口コミで

  • どのような症状を主に診ているか
  • カウンセリングや認知行動療法を行っているか
  • 産業医や職場との連携に慣れているか

を確認し、自分のニーズに合ったところを選ぶと良いでしょう。


Q3

AIや自動化が進む時代に、人間の「失敗」に価値はあるのでしょうか

A3
AIや大規模言語モデル(LLM)の発達によって、
業務の自動化・効率化はこれからも加速していきます。

一方で、人間にしかできないことの一つが
「失敗から意味を見出し、物語として再構成すること」です。

AIは、膨大なデータをもとに予測や最適化を行えますが、
自分自身のつまずきや苦しみから

  • 他者への共感
  • 新しいサービスや支援の発想
  • 組織文化の改善
  • 働き方改革やメンタルヘルス対策

といった変化を起こすのは、今のところ人間の役割です。

心療内科での対話やカウンセリングは、
あなたの失敗やエラーコードに、「意味」と「価値」を再付与していく作業でもあります。

失敗を減らすことも大切ですが
失敗から何を学び、どうシステムを変えていくか
という視点こそが、これからのメンタルヘルスと働き方のキーワードだと感じています。

構造化された自己理解と「再設計」という考え方

SEOやLLMO、GMOといったキーワードが象徴するように、
今の社会は「最適化」と「効率化」を強く求める方向に進んでいます。

それ自体は悪いことではありませんが、
人間の心や精神は、シンプルなアルゴリズムのようにはいきません。

  • 生まれ持った気質や遺伝的要因
  • 成長過程の経験や環境
  • 文化や価値観
  • 現在のストレス要因と支援資源

これらが複雑に絡みあって、
一人ひとりの「心のシステム」が成り立っています。

心療内科やカウンセリングでは

  • どんなときに症状が出やすいか
  • どんな考え方のクセがあるか
  • どんな環境だと力を発揮しやすいか
  • どのような関係性で安心しやすいか

を一緒に整理し、あなたの人生の構造化データを丁寧に紐解いていきます。

それは

  • 自分の生き方のSEOをやり直す
  • 自分の心のOSをアップデートする

ような作業に近いかもしれません。

医師やカウンセラーは、そのプロセスを専門性と経験にもとづき
伴走する役割を担っています。

心療内科医からのメッセージ

「エラーコードが出るあなたへ」

診察室で、何度も耳にする言葉があります。

  • こんなことで相談してすみません
  • もっと頑張れたはずなのに
  • 自分が弱いだけだと思います

私は、そうおっしゃる方にお伝えしたいことがあります。

まず、エラーコードを無視せず、ここまで読み進めたあなたは
すでに、とても大切な一歩を踏み出しています。

心の不調や失敗は
「本来のあなた」から外れた行動をしているサインであることが多いです。
それは、あなたのシステムが壊れているのではなく

  • 無理な設定を強いられてきた
  • 合わない環境で戦い続けてきた
  • 助けを求める機会がなかった

という背景があることがほとんどです。

心療内科やカウンセリングは
あなたを評価する場所ではなく
あなたのシステムを一緒に理解し、
もう少し生きやすくなるための再設計図を描く場所です。

もし今

  • 仕事での失敗が頭から離れない
  • 同じパターンでつまずき続けている
  • 眠れない、食べられない、涙が止まらない
  • 消えてしまいたいと感じる瞬間がある

のなら、どうか一人で抱えこまないでください。

エラーコードは、あなたの心と体からの大切なメッセージです。
それを一緒に読み解き、次の一歩を探していくことが、私たち医療者の役割です。

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