
ペットロスとは、家族のように暮らしてきた動物との別れによって起きる、深い悲しみや心身の不調のことです。病気ではなく、大切な存在を失ったときの自然な反応ですが、ときに眠れない、食べられない、動悸がするといった状態が長く続くこともあります。
「ペットが亡くなっただけで、ここまで落ち込むのはおかしいのでは」と、自分を責めていませんか。この記事では、ペットロスの悲しみの経過と体に出る症状、乗り越えていくためのヒント、そして心療内科やカウンセリングでできることを整理します。
当院の院長は、医学書『死別と悲嘆の精神医学』(南山堂、2025年)で、心療内科の立場から死別の悲しみへのケアについて執筆しています。その経験をもとに解説します。
この記事の要点
- ペットロスの悲しみは、家族を亡くしたときと同じくらい深くなることがあります。それは決しておかしなことではありません
- 悲しみは一直線に軽くなるのではなく、波のように行き来しながら、少しずつ形を変えていきます
- 眠れない、食べられない、日常生活が送れない状態が続くときは、心療内科やカウンセリングに相談してよいタイミングです
ペットロスとは?「家族を亡くしたのと同じ」悲しみ
ペットは、毎日の生活を共にし、言葉がなくても気持ちを通わせてきた存在です。朝起こしてくれる、帰りを待っていてくれる——そうした日々の習慣ごと失うため、悲しみの深さが、人との死別と変わらないほどになることは珍しくありません。
ところが、ペットとの別れは、周りから「また飼えばいい」「たかがペットで」と軽く扱われることがあります。悲しみを人に話しにくく、忌引きのように休むこともしづらいため、一人で抱え込みやすいのです。このように、周りに認めてもらいにくい悲しみは、「公認されない悲嘆」と呼ばれることもあり、回復を難しくする一因と考えられています。
あなたの悲しみが深いのは、それだけ深い絆があったからです。まずは、悲しんでいる自分を責めないでください。
ペットロスで起こりやすい心と体の変化
悲しみは、心だけでなく体にも表れます。次のような変化は、ペットロスでよくみられるものです。
| よくみられる変化 | |
|---|---|
| 心 | 強い悲しみ、涙が止まらない、何も手につかない、気持ちがぼんやりする、怒りや後悔がわく |
| 体 | 動悸、息苦しさ、胸が締めつけられる感じ、頭痛、食欲の低下、疲れやすさ |
| 睡眠 | 寝つけない、夜中に目が覚める、亡くなった場面を夢に見る |
| 行動 | つい名前を呼ぶ、足音が聞こえた気がする、遺品やお気に入りの場所を避ける、または離れられない |
亡くなったペットの気配を感じる、鳴き声が聞こえた気がするといった体験も、死別のあとに多くの人が経験するもので、それ自体は異常ではありません。
悲しみは「波」のように行き来する
悲しみは、時間とともにまっすぐ軽くなっていくわけではありません。少し落ち着いたと思った翌日に、ふとした瞬間に涙があふれることもあります。
死別の悲しみの研究では、失ったことに向き合って悲しむ時間と、日常の生活に目を向ける時間を、人は行ったり来たりしながら回復していくと考えられています。悲しんでばかりいる自分も、少し笑えた自分も、どちらも自然な回復の過程です。「笑ってしまった」と罪悪感を抱く必要はありません。
また、命日や誕生日、一緒に過ごした季節がめぐってきたときに、悲しみがぶり返すこともあります。これも珍しいことではありません。
「もっと早く気づいていれば」と自分を責めてしまうとき
ペットロスでとても多いのが、「病気にもっと早く気づいていれば」「あの治療を選ばなければ」「最期にそばにいられなかった」という後悔や自責の気持ちです。
けれど、その判断は、当時のあなたが持っていた情報と状況の中で、精いっぱい考えて選んだものです。後悔の深さは、それだけ大切に思っていたことの裏返しでもあります。自分を責める気持ちが強く、何か月も頭から離れない場合は、一人で抱えずに相談してください。
看取りの前から始まる悲しみ(予期悲嘆)
高齢や病気のペットと暮らしていると、亡くなる前から「いつかいなくなってしまう」という悲しみや不安が始まることがあります。これを「予期悲嘆」と呼びます。
予期悲嘆は、別れに向けて心が少しずつ準備をしている反応でもあります。残された時間に、好きなものを食べさせる、写真を撮る、そばで過ごすなど、「してあげたいこと」を一つずつ形にしていくことが、別れのあとの後悔を和らげる助けになることがあります。
ペットロスを乗り越えていくためにできること
「乗り越える」といっても、悲しみを消したり、忘れたりすることではありません。悲しみを抱えながらも、少しずつ日常を取り戻していくことが回復です。できそうなものを一つ選ぶところからで十分です。
悲しみを話せる相手を見つける
同じようにペットを飼っている友人や、ペットとの思い出を知っている家族など、悲しみを分かってくれる人に話してみてください。周りに話せる人がいないときは、専門家への相談も一つの方法です。
思い出を形にする
写真を整理する、思い出を書き出す、手紙を書くなど、亡くなったペットとの時間を形にすることは、悲しみを整理する助けになります。
生活のリズムを守る
散歩の時間や食事の時間がなくなり、生活のリズムが崩れることがあります。起きる時間と食事の時間だけでも整えておくと、心と体の回復を支えます。
遺品の整理は、急がなくていい
ケージや食器を片づけるタイミングに、正解はありません。片づけられない自分を責めず、心の準備ができたときに少しずつで構いません。
「次の子」は、焦らなくていい
新しいペットを迎えるかどうかも、周りに急かされて決める必要はありません。迎えることが、前の子を忘れることにはなりませんし、迎えないことも一つの選択です。
子どもや家族と悲しみを分かち合う
お子さんにペットの死を伝えるときは、「遠くに行った」「眠っている」とぼかすより、年齢に合わせた言葉で、亡くなったことを正直に伝えるほうがよいと考えられています。悲しい気持ちを、大人も子どもも一緒に言葉にしてよいことを伝えてあげてください。
また、家族の中でも、悲しみの表れ方や回復のペースは人それぞれです。「もう泣いていない」から悲しんでいないわけではありません。お互いの違いを責めないことが大切です。
自然な悲しみと、相談したほうがいい状態
多くの場合、ペットロスの悲しみは、時間とともに少しずつ形を変えていきます。ただし、次のような状態が続くときは、相談を考えてみてください。
| 自然な悲しみの範囲 | 相談を考えたい状態 |
|---|---|
| 悲しみの波はあるが、少しずつ日常の時間が増えていく | 何か月たっても、悲しみが少しも和らがない |
| 眠れない夜もあるが、休める日もある | 眠れない、食べられない状態が2週間以上続いている |
| 仕事や家事は、つらいながらもこなせている | 仕事や家事が手につかず、生活に支障が出ている |
| 思い出すと涙が出るが、楽しかった記憶も思い出せる | 強い自責感が続き、「自分も消えたい」と思うことがある |
なお、人との死別の悲しみが長く強く続き、生活に大きな支障が出る状態は「遷延性悲嘆症」と呼ばれ、治療の対象になることがあります。ペットとの別れでも、同じように長く苦しい状態が続くことがあり、その場合は遠慮なく相談してください。
心療内科・カウンセリングでできること
「ペットロスで病院に行ってもいいのだろうか」とためらう方は少なくありません。けれど、悲しみによって心や体に不調が出ているなら、それは十分に相談の対象です。
- 悲しみを安心して話せる場——周りには話しにくい気持ちを、否定されずに話すことができます
- カウンセリング——心理セラピストと一緒に、後悔や自責の気持ち、思い出との向き合い方を整理していきます
- 体の症状への対応——眠れない、動悸がするといった症状が強い場合は、必要に応じて一時的にお薬を使うこともあります
- 長引く悲しみの見極め——うつ病や遷延性悲嘆症など、治療が必要な状態かどうかを確認します
当院では、医師と心理セラピストが連携し、死別の悲しみに寄り添ったケアを行っています。眠れない夜が続いているときも、まずはご相談ください。
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。
- ペットが亡くなってから眠れず、仕事中も涙が出てしまう
- 最期に立ち会えなかったことを、何か月も責め続けている
- 家族は立ち直ったように見えるのに、自分だけ悲しみから抜け出せない
- 高齢のペットとの別れが近づいていて、今から不安でたまらない
どのご相談でも、悲しみを無理に終わらせようとするのではなく、その方のペースで、悲しみと共に生活を取り戻していくお手伝いをします。感じ方や回復のペースには個人差があります。
よくある質問
ペットロスは、どのくらいで落ち着きますか?
決まった期間はありません。数週間で少しずつ落ち着く方もいれば、1年以上かけて悲しみが形を変えていく方もいます。期間よりも、生活に大きな支障が続いていないかを目安にしてください。
ペットロスで心療内科に行くのは、大げさではありませんか?
いいえ、大げさではありません。悲しみで眠れない、食べられない、仕事が手につかないといった状態があるなら、相談してよい状態です。
カウンセリングでは、どんなことを話すのですか?
亡くなったペットとの思い出、別れのときのこと、後悔している気持ちなど、話したいことから話していただいて構いません。無理に話すよう求めることはありません。
悲しくて仕事を休みたいのですが、甘えでしょうか?
甘えではありません。悲しみで心身の調子を崩しているなら、休むことも回復のために必要です。不調が続く場合は、医師に相談してください。
参考文献
- 宮本せら紀ほか(分担執筆)『死別と悲嘆の精神医学』南山堂、2025年
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」
医師からのメッセージ
「たかがペットで」と言われて、悲しみを飲み込んできませんでしたか。何年も一緒に暮らし、毎日を支えてくれた存在を失ったのですから、深く悲しむのは当然のことです。その悲しみの深さは、あなたがどれだけ大切にしてきたかの証です。
悲しみを無理に終わらせる必要はありません。ただ、眠れない、食べられない、自分を責め続けてしまうといった状態が続くなら、どうか一人で抱え込まないでください。迷った時点で、ご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

