人を好きになれないのは病気?恋愛感情がわかない心理と、愛着の傾向との関係|心療内科医が解説

「人を好きになれない」ということ自体は、病気ではありません。

何年も誰かを好きになっていない。告白されても心が動かない。友人が恋の話をしているのを、別の国の話のように聞いている。そんな自分を「どこか壊れているのではないか」と感じてしまう方もいらっしゃるのではないかと思います。

この記事では、恋愛感情が湧かない背景にあるものを、心療内科医の視点でいくつかに切り分けて整理します。そのうち、医療が関わったほうがよいものは一部だけです——まずそこからお伝えします。

まず、好きにならないこと自体は「異常」ではありません

診断名として「人を好きになれない病」というものはありません。恋愛感情を持つかどうか、どのくらいの強さで持つかには、もともと大きな幅があります。

ですから、この記事で見分けたいのは「異常かどうか」ではありません。いまのあなたにとって、それが困りごとになっているのかどうかです。誰も好きにならないまま穏やかに暮らせているなら、それは何も直す必要のない状態です。困っているとしたら、たいていは次のどちらかではないでしょうか。

  • 本当は誰かと近づきたいのに、気持ちのほうが動いてくれない
  • 周りから「そのうち分かるよ」「まだ本気の恋をしていないだけ」と言われ続けて、自分がおかしいのかと思えてきた

「好きになれない」の中身は、ひとつではありません

同じ言葉で語られていても、中で起きていることはかなり違います。まず全体像を見てください。

タイプ本人の実感恋愛以外では医療の出番
近づくこと自体が負担「好かれると重い。一人が楽」友人・職場でも距離を取る困っていれば相談する価値あり
気持ちが動く力が落ちている「恋愛だけでなく、何も楽しくない」趣味・食事も味気ない◎ 早めに相談してよい
感情に蓋をしている「自分が何を感じているか分からない」怒りや悲しみも薄い相談する価値あり
もともと恋愛感情を持たないあり方「困っていない。周りが騒ぐだけ」友情や信頼はふつうにある× 治す対象ではない

この表でいちばん大事なのは、いちばん下の行です。恋愛感情を持たない・持ちにくいというあり方は、それ自体が治療の対象ではありません。後ほど改めて触れます。

恋愛感情が湧きにくくなる、4つの背景

どれか一つが正解というより、重なっていることのほうが多いと考えられています。

① 近づかれること自体が、負担として感じられる

人との距離が縮まると、うれしさより先に息苦しさが立ち上がるタイプの人がいます。これは冷たいのではなく、幼い頃から「近づきすぎない距離」のほうが安全だと体が学んできた結果と考えられています。回避型愛着障害と呼ばれる傾向の中心にあるのが、この感覚です。

この場合、好きにならないというより好きになりかけると自動的にブレーキがかかるという言い方のほうが近くなります。近づきたい気持ちと怖さが同時に強い恐れ回避型では、その揺れがさらに大きくなりやすいと考えられています。

② 気持ちが動く力そのものが落ちている

恋愛だけでなく、好きだった音楽も、休日の予定も、食事の味さえどうでもよく感じるなら、話は変わります。アンヘドニア(快感消失)といって、うつ状態のときに早い段階で出ることが知られている症状です。

ここが分かれ目です。「恋愛だけが動かない」のか「何もかもが動かない」のか——後者なら、恋愛の悩みとしてではなく体調の問題として相談してください。うつ病は悲しい病気とは限らず、最初に出るのは「何も楽しくない」という形であることが少なくありません。

③ 傷つかないために、感情の蓋を閉じている

強く傷ついた経験のあと、感情そのものを感じにくくなることがあります。恋愛感情だけがなくなるのではなく、怒りも悲しみも薄くなっているのが特徴です。失感情症(アレキシサイミア)と呼ばれる状態と重なることがあります。

これも、あなたが冷たい人間になったわけではありません。強い痛みを二度と味わわないために、感じる回路をいったん下げておくという、そのときには必要だった守り方です。

④ そもそも、恋愛感情を持たない・持ちにくいというあり方

他者に恋愛感情をほとんど、あるいはまったく抱かないあり方は「アロマンティック」と呼ばれます。これは症状でも障害でもなく、性のあり方のひとつです。治療の対象ではありませんし、克服すべきものでもありません。

見分けの目安はシンプルです。本人が困っていないなら、それは直す必要のないことです。困っているとすれば多くの場合、本人ではなく「まだ本気じゃないだけ」と言ってくる周囲との摩擦のほうです。

セルフチェック——どれに近いかを見分けるために

最近半年ほどを振り返って、当てはまるものを数えてみてください。良し悪しを測るものではなく、自分がどのタイプに近いかを言葉にするための目安です。

A:近づくこと自体が負担かどうか

  • 好意を向けられると、うれしさより先に気まずさや申し訳なさが来る
  • 一人で過ごす時間が削られることのほうが、恋人がいないことより不安
  • 仲良くなりかけた相手ほど、連絡の頻度を落としてしまう

B:気持ちが動く力が落ちていないか

  • 恋愛に限らず、以前は楽しめたことが楽しめない
  • 食事の味やテレビの内容が、頭に入ってこない日が続いている
  • 朝起きたときから体が重く、その状態が2週間以上続いている

C:感情そのものが遠くないか

  • うれしい・悲しいを聞かれても、うまく言葉にできない
  • 泣いたほうがいい場面で涙が出ず、あとから困る
  • 自分の気持ちより、相手がどう思うかのほうがすぐに浮かぶ

Bが2つ以上当てはまるなら、恋愛の悩みとしてではなく体調の問題として受診をご検討ください。AやCが中心で、生活は回っているなら、急いで何かをする必要はありません。どれも1つ以下なら、無理に自分を当てはめなくて構いません。

自分の傾向をもう少し整理したい方は、愛着スタイル診断感情の見つけ方の記事も合わせてお読みください。

「まだ本気の恋をしていないだけ」に、答える必要はありません

この悩みを苦しくしているのは、多くの場合ご本人ではなく周囲の言葉です。そのうち分かる、いい人がいないだけ、若いうちに——悪気なく言われるほど、反論しづらくなります。

けれど、恋愛感情の有無は、人としての成熟度とも、心の健康とも別のものです。説明する義務はありませんし、納得してもらう必要もありません。困っているのが「自分の状態」ではなく「周囲との温度差」なのだとしたら、変えるべきは自分の感じ方ではなく、その話題との距離の取り方かもしれません。

心療内科でできること

当院は「人を好きになれるようにする」ことを目的にはしていません。恋愛感情の有無は、治療のゴールになりうるものではないからです。扱うのは、そのまわりにある困りごとのほうです。

  • 気持ちが動かないのが恋愛だけなのか、生活全体なのかを一緒に切り分ける
  • うつ状態や消耗が背景にあるときは、まずそちらを整える
  • 近づかれると引いてしまう反応が、いつ・どんな場面で身についたのかをたどる(スキーマ療法などの心理療法を用いることがあります)
  • 感情に名前をつける練習を、負担にならない範囲で少しずつ進める
  • 周囲の言葉との付き合い方を、具体的な場面ごとに考える

当院では医師と心理セラピストが連携して進めます。薬で恋愛感情が湧くようになることはありませんが、うつ状態が背景にあって何も感じられなくなっている場合には、そちらの治療の中で感じる力が戻ってくることがあります。どのくらい戻るかには個人差があります。

受診の目安

  • 恋愛だけでなく、以前楽しめたことが楽しめない状態が2週間以上続いている
  • 眠れない・食欲がない・朝が特につらい、といった体の変化が伴っている
  • 人と親しくなること自体を避けるようになり、生活の範囲が狭くなってきた
  • 「自分は欠陥品だ」という考えが頭から離れず、その考えで気分が落ちている

恋愛の悩みで心療内科に行っていいのかと迷う方は多いのですが、眠れない・気分が戻らないなど生活に影響が出ているなら、それは十分に相談していい状態です。

よくあるご相談例

外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多く寄せられる悩みを一般化したものです。

  • 交際を申し込まれても心が動かず、断るたびに自分は冷たい人間なのではないかと悩んでいる
  • 恋愛に限らず何も楽しめない状態が続いており、それが性格なのか体調なのか自分では判断がつかない
  • 周囲から結婚について繰り返し聞かれることがつらく、その話題になる集まりを避けるようになった
  • 人を好きになった記憶がないまま年齢を重ね、この先も同じなのだろうかと不安になっている

よくある質問

人を好きになれないのは、病気なのでしょうか?

いいえ、それ自体は病気ではありません。診断名としても存在しません。ただし、恋愛だけでなくあらゆることへの興味や楽しさが同時に失われている場合は、うつ状態の症状として説明がつくことがあります。その線引きが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

過去のつらい経験が原因でしょうか?

関係していることはありますが、必ずしもそうとは限りません。原因を一つに特定できないことのほうが多く、無理にたどらなくても構いません。診察でも、過去を掘り返すことよりいま何に困っているかから始めます。話したくないことは話さなくて大丈夫です。

親に「孫の顔が見たい」と言われるのがつらいです。

その苦しさは、あなたの状態の問題ではなく、関係の中で起きていることです。説得しようとするほど消耗しやすいので、話題そのものから距離を取るほうが現実的なことが多くなります。具体的な受け答えを一緒に考えることもできますので、診察でお話しください。

恋愛できるようになりたいのですが、治療で変わりますか?

「恋愛できるようにする治療」というものはありません。ただ、うつ状態や強い消耗が背景にある場合は、そちらが整うにつれて気持ちが動く感覚が戻ってくることがあります。近づかれると引いてしまう反応についても、心理療法の中で扱うことは可能です。どのくらい変わるかには個人差があります。

参考文献

医師からのメッセージ

「人を好きになれない自分は、人としてどこか欠けているのではないか」——そう言って来られる方がいます。けれど診察室でうかがっていくと、本当に苦しいのは好きにならないこと自体ではなく、そんな自分を責め続けていることのほうであることがほとんどです。

恋愛感情の有無で、その人の価値が決まることはありません。もし何も感じられない状態が生活全体に広がっているなら、それは性格ではなく心と体からのサインかもしれません。恋愛の話で受診してよいのかと迷う必要はありません。うまく言葉にならないままで構いませんので、気になった時点でご相談ください。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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