
「些細なことでイライラする」「理由もなく落ち込む」「涙が止まらない」。40代後半〜50代でこうした心の波が強くなったとき、「更年期のせい?でも、行くなら婦人科?それとも心療内科?」と迷う方は少なくありません。
結論からお伝えすると、どちらも正解になり得ます。大切なのは、いちばんつらい症状がどこにあるかで選ぶこと、そして必要なら両方の力を借りることです。この記事では、更年期に心の不調が起きる仕組み、婦人科と心療内科それぞれの役割、どちらを受診すればよいかの判断の目安、そして見逃したくない「更年期うつ」のサインまで、心療内科専門医がわかりやすく解説します。
目次
更年期に「イライラ・落ち込み」が起きるのはなぜ?
更年期(閉経をはさむ前後約10年)には、女性ホルモン「エストロゲン」が大きく揺らぎながら減っていきます。エストロゲンは、気分を安定させる脳内物質セロトニンや、自律神経の働きとも深く関わっています。そのため、ホルモンの変動がそのまま気分の波・不安・イライラ・意欲の低下として現れやすくなるのです。
つまり、更年期の心の不調は「気の持ちよう」でも「性格の問題」でもなく、体の変化に伴って起こる生理的な反応です。ご自分を責める必要はありません。
更年期に出やすい心の症状(チェックリスト)
以下は診断ではなく、傾向を知るための目安です。ほてり・発汗・動悸といった身体症状と一緒に現れやすいのも特徴です。
- 些細なことでイライラし、家族にあたってしまう
- 理由もなく気分が落ち込む、涙もろくなった
- 不安や焦りが強く、落ち着かない
- 何をするのも億劫で、興味や意欲がわかない
- 寝つけない・夜中に目が覚める
- 集中力や記憶力が落ちた気がする
- ほてり・発汗・動悸・頭痛など体の不調も伴う
なお、まだ生理があり「生理前になると特に不調が強くなる」という場合は、更年期ではなくPMDD(月経前不快気分障害)が関係していることもあります。
婦人科と心療内科、それぞれの役割

同じ「更年期の心の不調」でも、アプローチの入り口が異なります。
| 婦人科 | 心療内科・精神科 | |
|---|---|---|
| 得意な領域 | ホルモンの変動そのもの | 抑うつ・不安・不眠など心の症状 |
| 主な治療 | ホルモン補充療法(HRT)・漢方薬 | カウンセリング・漢方・必要に応じた薬の調整 |
| 向いている人 | ほてり・発汗など身体症状が中心の人 | 落ち込み・不安・不眠が強く生活に支障がある人 |
どちらか一方しか選べないわけではなく、両方を連携して併用することも珍しくありません。
どちらを受診すればいい?(判断の目安)
迷ったときは、「今いちばんつらい症状はどれか」で考えると選びやすくなります。
- ほてり・発汗・月経の乱れなど体の症状が中心 → まず婦人科へ。更年期かどうかの確認(ホルモン検査)もできます
- 強い落ち込み・不安・不眠・意欲低下が中心で、生活に支障がある → 心療内科・精神科へ
- 「消えたい」と感じる、食事や睡眠がとれない → 早急に心療内科・精神科へ
- どちらもつらい・判断がつかない → 受診しやすい方へ。必要なら適切な科を紹介してもらえます
「婦人科で更年期と言われたが、気分の落ち込みが強い」という場合に、心療内科が次の選択肢になることはよくあります。逆に、心療内科を受診して身体症状が強ければ婦人科をご案内します。どちらから入っても、適切な治療にたどり着けます。
見逃したくない「更年期うつ」
更年期の気分の落ち込みの多くはホルモンの変動による一時的なものですが、中にはうつ病に移行しているケースもあります。次のような状態が2週間以上続く場合は、更年期症状の範囲を超えている可能性があります。
- ほとんど一日中、気分が落ち込んでいる
- 何をしても楽しめない、興味がわかない
- 眠れない、または眠りすぎてしまう
- 食欲が極端に落ちた、または増えた
- 自分を責める、消えてしまいたいと感じる
「更年期だから仕方ない」と我慢して、うつの治療が遅れてしまうのは避けたいところです。気分の症状が重いときは、ホルモンの問題と決めつけず、心療内科にも相談してみてください。
治療の選択肢

更年期の心の不調には、いくつかのアプローチを組み合わせます。
- ホルモン補充療法(HRT):婦人科で行う、減ったエストロゲンを補う治療。身体症状に加え、気分の症状が和らぐこともあります
- 漢方薬:婦人科でも心療内科でも用いられ、心身のバランスを整えます
- カウンセリング・心理療法:考え方や生活の負担を整理し、ストレスへの対処を一緒に考えます
- 抗うつ薬・睡眠の調整:落ち込みや不眠が強い場合に、医師が慎重に検討します
当院では、薬に頼りすぎず、医師と心理カウンセラーが連携して、お一人おひとりの状態に合わせた治療を行います。必要に応じて婦人科との連携もご相談いただけます。
※治療の効果や経過には個人差があり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
自分でできるセルフケア
- 睡眠リズムを整える(朝に光を浴びる、就寝前のスマホを控える)
- 軽い運動(ウォーキングなど)でセロトニンと自律神経を整える
- カフェイン・アルコール・糖分の取りすぎを控える
- 「頑張りすぎない」許可を自分に出し、完璧を手放す
- つらさを一人で抱えず、家族や専門家に言葉にする
心療内科に相談する目安
次のような場合は、我慢せず早めに相談してください。
- 気分の落ち込みや不安で、家事・仕事・対人関係に支障が出ている
- 眠れない日が続いている
- イライラで家族関係がつらくなっている
- 「消えたい」と感じることがある(この場合は早急に)
更年期の不調は、適切なサポートで和らげることが見込めます。「これくらいで受診していいのかな」と思う段階でも、相談して構いません。
よくある質問(FAQ)
Q. 更年期のイライラ、まず何科に行けばいいですか?
A. 体の症状(ほてり・発汗・月経の乱れ)が中心なら婦人科、心の症状(強い落ち込み・不安・不眠)が中心なら心療内科・精神科が目安です。迷う場合は受診しやすい方へ。必要なら適切な科を紹介してもらえます。
Q. 婦人科で「更年期」と言われましたが、落ち込みがつらいです。
A. 更年期と診断されていても、抑うつや不安が強い場合は心療内科・精神科の対象になります。ホルモン治療と心のケアを併用することもよくあります。
Q. 心療内科ではどんな治療をしますか?
A. まずお話をうかがい、必要に応じてカウンセリングや漢方、睡眠の調整、抗うつ薬などを検討します。当院は薬に頼りすぎない方針で、医師と心理カウンセラーが連携します。
Q. ホルモン補充療法(HRT)と心療内科、どちらがいいですか?
A. どちらが良いかは症状の中心によります。身体症状が中心ならHRT(婦人科)、心の症状が中心なら心療内科のケアが向きます。併用が適することもあるため、自己判断せず相談してください。
医師からのメッセージ
更年期の心と体の揺らぎは、これまで頑張ってこられた証でもあります。イライラや落ち込みを「年のせい」「気の持ちよう」と我慢する必要はありません。婦人科でも心療内科でも、入り口はどちらでもかまいません。
大切なのは、つらさを一人で抱え込まず、どこかに一歩相談してみることです。その一歩から、ご自分に合った道筋が見つかっていきます。「このくらいで受診していいのかな」とためらわず、どうぞ気軽にご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

