「交代勤務睡眠障害」とは、夜勤やシフト勤務によって体内時計と勤務時間がずれ、休むべきときに眠れず、働くべきときに強い眠気が出る状態のことです。
夜勤明け、疲れきっているのに2〜3時間で目が覚めてしまう。休日に寝だめしても回復しない。深夜帯になると意識が飛びそうになる——そんな状態が続いていて、自分の体力や気合の問題だと思っている方に向けて書いています。
この記事では、一般的な不眠との違いと、体内時計を戻すために実際にできること、そして受診の目安を、心療内科医の視点で整理します。
交代勤務睡眠障害とは
体内時計は、本来「夜に眠り、昼に活動する」ようにできています。夜勤やシフト勤務では、この体内時計と実際の勤務時間が食い違うため、体が休む準備をしている時間帯に働き、活動する準備をしている時間帯に眠ることになります。
このずれによって、「休息時に眠れない」と「勤務中に強い眠気が出る」の両方が同時に起きるのが、この状態の特徴です。
ここが重要なのですが、これは体力や気合の問題ではありません。体内時計は意志で動かせるものではなく、夜勤に「慣れる」ことにも限界があります。実際、長く夜勤を続けている方でも、体内時計が完全に勤務時間に合うことはまれだと考えられています。
一般的な不眠と、どこが違うのか
対処の方向がかなり変わるので、整理しておきます。
| 一般的な不眠 | 交代勤務による不眠 | |
|---|---|---|
| 主な原因 | ストレス、生活習慣、不安など本人の側にあることが多い | 勤務時間という環境の側にある |
| 困りごと | 夜に眠れない | 眠れないのと勤務中に眠いが同時に起きる |
| 休日 | 比較的よく眠れることが多い | 休日も時間帯がばらつき、回復しきらない |
| 生活習慣の助言 | 「毎日同じ時間に寝起きする」が有効 | そのままでは実行できない。勤務に合わせた設計が要る |
| 放置すると | 不眠が慢性化する | 事故や作業ミス、気分の落ち込み、胃腸の不調につながることがある |
いちばん大きな違いは、原因が本人ではなく勤務形態の側にあることです。ですから、「気の持ちよう」や「規則正しい生活を」という一般的な助言は、そのままでは役に立ちません。一般的な不眠症の4つのタイプとは分けて考える必要があります。
なお、夜勤とは関係なく「朝どうしても起きられず、夜は眠れない」という場合は、睡眠相後退症候群という別の状態のことがあります。
セルフチェック
夜勤やシフト勤務を始めてから、当てはまるものを数えてみてください。診断ではなく、相談するかどうかを決めるための目安です。
- 夜勤明け、疲れているのに2〜3時間ほどで目が覚めてしまう
- 日中に寝ようとしても、浅い眠りしか取れない
- 深夜帯の勤務中、意識が飛びそうになることがある
- 休日に長く寝ても、回復した感じがしない
- 通勤の運転中や電車内で、強い眠気に襲われる
- 胃の不調や食欲の乱れが続いている
- 気分が落ち込みやすくなった、または怒りっぽくなった
- 夜勤のある週とない週で、体調の差が大きい
3つ以下なら、まずは次の章の工夫から試していただいて構いません。5つ以上、とくに勤務中の強い眠気や運転中の眠気がある場合は、早めにご相談ください。事故につながる前に手を打つ必要があります。
なぜ、何年続けても体が慣れないのか
体内時計は、主に「光」で合わせられているから
体内時計は、朝の光を浴びることでその日の時刻を合わせています。光は、意志よりもはるかに強く体内時計を動かします。夜勤をしていても、朝に光を浴びてしまえば、体は「いまが朝だ」と判断し直します。
夜勤明けの朝日が、いちばん邪魔をするから
夜勤を終えて帰宅する時間帯は、ちょうど朝の光が最も強い時間帯です。これから眠ろうとしているのに、体内時計にとっては「起きる合図」を浴びていることになります。帰宅後に寝つけない理由の多くは、ここにあります。
シフトの回り方によって、負担が変わるから
一般に、日勤から夕方の勤務、そして夜勤へと時間が後ろにずれていく回り方のほうが、体は適応しやすいとされています。逆に急に前へ戻る組み方は負担が大きくなります。これは職場の設計の問題なので、個人の工夫では埋めきれない部分です。
夜勤のときにできること
順番に整理します。すべてを完璧にやる必要はありません。光の扱いだけでも変えると、体感が変わる方が多い部分です。
夜勤に入る前
- 勤務前に、できれば1〜2時間ほど仮眠を取っておく
- 直前の食事は軽めにする。重い食事は勤務中の眠気を強めます
夜勤中
- 勤務場所をできるだけ明るくする。光は覚醒を保つうえで最も確実な手段です
- 眠気が強い時間帯に、20〜30分程度の短い仮眠を取る。長すぎるとかえってだるくなります
- カフェインは勤務の前半まで。終盤に飲むと、帰宅後の睡眠を浅くします(カフェインとメンタルの関係)
夜勤明けの帰宅時
- サングラスをかけて帰る。これがこの記事でいちばんお伝えしたい工夫です
- 帰宅後すぐに眠らず、軽く食事を済ませてから休む
- 寝室は遮光カーテン・アイマスク・耳栓で、できるかぎり夜に近づける
- 家族には、この時間帯が自分にとっての夜であることを共有しておく
休日
- 寝だめで取り戻そうとしない。かえってリズムが崩れます
- 次の勤務が日勤なら、休日は日中に光を浴びて通常のリズムに寄せる
- 次も夜勤が続くなら、無理に昼型へ戻さないほうが楽なことがあります
「休日にしっかり寝て取り戻す」という考え方は、交代勤務ではうまくいきません。取り戻すより、次の勤務に合わせて崩れ方を小さくする、という発想のほうが現実的です。
心療内科でできること
当院は「夜勤をやめましょう」と申し上げるところではないのですが、続けられる形に整えることをサポートできます。
- いまの状態が交代勤務によるものか、別の睡眠の問題が重なっているかを整理する
- 勤務表に合わせて、光・仮眠・カフェインの時間割を一緒に設計する
- 必要に応じて、睡眠や覚醒のリズムに働きかける薬を検討することがあります
- 気分の落ち込みが重なっている場合は、うつ状態として並行して対応する
- 勤務の調整が必要な場合に、職場へ出す書類を作成する
- 日中の強い眠気が続く場合、過眠症など別の病気が隠れていないかを確認する
当院では医師と心理セラピストが連携して進めます。受診したら必ず薬を飲むことになる、ということはありません。まず光と仮眠の設計から始めることも多くあります。
受診の目安
- 勤務中や通勤中に、強い眠気で危険を感じたことがある
- 休息時にまとまって眠れない状態が1か月以上続いている
- 気分の落ち込みや意欲の低下が出てきた
- 胃腸の不調や体重の変化が続いている
- 夜勤の翌日、何日たっても回復しない
- お酒を飲まないと眠れなくなっている
とくに運転中の眠気は、本人だけの問題では済みません。一度でも危ないと感じたことがあれば、早めにご相談ください。なお、朝起き上がれない状態が夜勤と関係なく続く場合は、別の背景を考えます。
職場・人事のご担当者へ
交代勤務による不調は、個人の努力では限界があり、勤務表の組み方そのものが影響します。
- シフトは、時間が後ろにずれていく回り方を基本にする
- 夜勤中に仮眠を取れる場所と時間を確保する
- 夜勤明けから次の勤務までの間隔を十分に空ける
- 勤務中の強い眠気を、本人が申告しても不利にならない扱いにする
- 体調不良が続く方について、産業医や外部の医師の面談につなぐ
従業員の方の受診や、外部の医師による面談については法人の方へのページをご覧ください。
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多く寄せられる悩みを一般化したものです。
- 夜勤明けに寝つけず、数時間で目が覚めてしまう状態が何年も続いている
- 勤務中の眠気が強く、ミスが増えていることに自分でも気づいている
- 夜勤のある週だけ気分が落ち込み、休みの週には戻るということを繰り返している
- 家族と生活時間が合わず、休息を取りにくい
よくある質問
夜勤を続けていれば、そのうち慣れますか?
体内時計が勤務時間に完全に合うことは、まれだと考えられています。「慣れない自分がおかしい」と考える必要はありません。ただし、光や仮眠の取り方を変えることで、つらさを小さくすることはできます。
休日に寝だめをしてもよいですか?
長く寝ること自体は悪くありませんが、寝だめでリズムを取り戻すことはできません。次の勤務が日勤か夜勤かによって、休日の過ごし方を変えるほうが効果的です。
お酒を飲むと寝つけるのですが、続けて大丈夫ですか?
寝つきはよくなったように感じても、睡眠そのものは浅くなることが知られています。量が増えていきやすい点にも注意が必要です。お酒に頼る形になっている時点で、一度ご相談ください。
夜勤をやめたほうがよいのでしょうか?
必ずしもそうではありません。まずは光・仮眠・カフェインの設計を変えてみて、それでも改善しない場合に、勤務の調整を検討するという順番で構いません。辞める前にできることが残っていることが多いと考えています。
参考文献
医師からのメッセージ
「同じ職場の人は平気そうなのに、自分だけ耐えられないのは甘えではないか」——そう考えて受診が遅れる方が多い領域です。けれど、体内時計のずれへの強さには個人差があり、努力で埋められる部分ではありません。
そして、眠気による事故は本人の責任だけでは済まなくなります。まずは光の扱いを変えるところからで構いません。また、うまく説明できなくても大丈夫です。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

