ストレスで咳が止まらない|心因性の咳(心因性咳嗽)の特徴と、喘息・感染症との見分け方

「心因性の咳」とは、感染症や喘息などの体の病気が見つからないのに、緊張や不安と結びついて咳が続く状態のことです。

検査では異常なしと言われた。それなのに会議が始まると咳き込む。夜眠っているあいだは一度も出ないのに、朝、会社に向かう電車で止まらなくなる。周囲の視線が気になって、さらに出てしまう——そんな状態が続いていて、どこに相談すればよいのか分からず調べている方に向けて書いています。

この記事では、心因性の咳の特徴と、感染症や喘息との見分け方、そして受診の順番について、心療内科医の視点で整理します。

心因性の咳とは

心理的な緊張やストレスと関連して咳が続く状態で、心因性咳嗽(しんいんせいがいそう)と呼ばれます。咳をする癖が残って続く場合は、習慣性の咳として扱われることもあります。

ここで先にお伝えしておきたいのは、咳そのものは本物だということです。演技でも、気のせいでもありません。実際に出ている咳の引き金が、感染や炎症ではなく緊張の側にある、というだけのことです。

感染症や喘息の咳と、どこが違うのか

見分けの手がかりを整理します。これは自己診断のためではなく、医療機関で何を伝えればよいかを知るための表です。

感染症・喘息などによる咳心因性の咳
眠っているあいだ出ることが多い。咳で目が覚めることもあるほとんど出ない
集中しているとき関係なく出る没頭していると減る、または忘れている
出やすい場面時間帯や場所とあまり関係しない会議前、人前、静かな場所など場面と結びつく
咳の性質痰がからむこともある乾いた咳が多い
ほかの症状発熱、のどの痛み、息苦しさ、ぜいぜいを伴うことがある伴わないことが多い
咳止め効くことが多い効きにくいことがある

「眠っているあいだは出ない」と「静かな場所ほど出る」の二つが揃うときは、一度ご相談いただく価値があります。とくに前者は重要な手がかりで、体の病気による咳は睡眠中も出ることが多いからです。

よくある現れ方

特定の場面だけで出る

会議、授業、面談、静かな待合室、映画館など、「咳をしてはいけない」と感じる場所ほど強く出るのが典型的です。出してはいけないと思うほど喉の違和感に注意が向き、その注意がさらに咳を呼びます。

咳払いが癖のように続く

痰が出るわけでもないのに、喉をクリアにしたくて何度も咳払いをしてしまう形です。喉のつかえ感(ヒステリー球)と重なっていることもあります。

感染症のあとから続いている

風邪をきっかけに始まり、感染が治ったあとも咳だけが残るというパターンがあります。この場合、最初は感染後の咳で、途中から癖として残っているということが起こり得ます。

まず、体の病気ではないことを確かめてください

順番を間違えないでいただきたいところです。心因性の咳は、ほかの原因が見つからないことを確かめたうえで考えるものです。

咳が続く原因には、体の側にあるものが数多くあります。

  • 咳喘息、気管支喘息
  • 風邪のあとに残る感染後咳嗽、百日咳などの感染症
  • 副鼻腔炎や後鼻漏(鼻水がのどに流れる)
  • 逆流性食道炎による刺激
  • 一部の血圧の薬による副作用
  • そのほか、胸部の検査が必要な病気

ですから、

  • まだ内科や呼吸器内科で調べていない場合は、先にそちらを受診してください
  • すでに検査を受けて異常なしと言われている場合は、その結果を持って心療内科にお越しください
  • 血痰、体重減少、息苦しさ、発熱が続く場合は、心因性と考える前に必ず内科で相談してください

一般に、8週間以上続く咳は慢性の咳として扱われ、原因を順番に確かめていくことになります。「異常なしと言われた」ことは行き止まりではありません。そこからが心療内科の入口です。

セルフチェック

ここ1か月ほどを振り返って、当てはまるものを数えてみてください。診断ではなく、相談するかどうかを決めるための目安です。

  • 検査で異常がないと言われたのに、咳が続いている
  • 眠っているあいだは、ほとんど咳が出ない
  • 会議や人前など、特定の場面で強く出る
  • 静かな場所にいると、かえって出そうになる
  • 何かに没頭しているときは、咳を忘れている
  • 痰はほとんど出ず、乾いた咳が中心である
  • 咳止めを飲んでも、思ったように効かない
  • 咳のことを考えると、喉がむずむずしてくる

3つ以下なら、無理に当てはめる必要はありません。5つ以上が2週間以上続いているなら、一度ご相談ください。

なぜ、緊張すると咳が出るのか

仕組みはすべて解明されているわけではありませんが、いくつかの要素が重なっていると考えられています。

  • のどの感覚が過敏になる——咳が続くと、のどの粘膜や神経が刺激に敏感になり、わずかな違和感でも咳が出やすくなると考えられています
  • 注意がのどに集中する——「またあの場面で出たらどうしよう」と意識するほど、のどの感覚に注意が向きます。注意が向くほど違和感は強く感じられます
  • 緊張が体を固くする——自律神経のはたらきが高まった状態では、呼吸が浅くなり、のども締まりやすくなります
  • 咳が習慣として残る——きっかけが治っても、咳という反応だけが残ってしまうことがあります

ですから、「気にしないようにしよう」と努力するほど、かえって注意がのどに向かうという厄介な構造になっています。意志の問題ではありません。

なお、同じ仕組みは体のほかの部位でも起こります。ストレスで熱が出る心因性発熱や、検査で異常がないのに続く胃の不調も、「検査では異常がないのにつらい」という点で同じ系列の相談です。

咳が出そうなとき、その場でできること

根本的な対処ではありませんが、場面を乗り切るための手当てとして使えます。

  • 咳をこらえるより、ゆっくり息を吐くほうに意識を向ける
  • ひと口ずつ水を飲む。のどを潤すと同時に、注意を切り替えられます
  • あめやガムなど、口の中に何かを入れておく
  • 会議の前に「緊張すると咳が出ます」と一言伝えておく。隠そうとする負荷が減ります
  • 出てしまったあと、自分を責めない。責めるほど次の場面が怖くなります

とくに最後の項目が大切です。咳そのものより、「また出るのではないか」という予期のほうが症状を強めます。

心療内科でできること

当院は「咳をすぐ止める」ことを目的にはしていません。咳は結果なので、そこだけを抑えても戻ってきてしまうことが多いからです。実際にお手伝いできるのは次のようなことです。

  • これまでの検査結果を確認し、体の側にまだ確かめるべきことが残っていないかを整理する
  • どの場面で強く出るかを記録として見える形にし、引き金を特定する
  • のどへ向く注意を切り替える方法を、実際の場面に合わせて練習する(心理療法を用いることがあります)
  • 背景に不安や緊張の高まりがある場合は、そちらを整える
  • 眠れない状態が重なっているときは、睡眠を先に立て直す

当院では医師と心理セラピストが連携して進めます。咳止めを増やす方向では、この状態は落ち着きにくいことが知られています。薬を使う場合も、不安や緊張の側に働きかける目的で用いることがあります。

受診の目安

  • 内科や呼吸器内科で検査を受けて異常がないと言われたのに、咳が続いている
  • 咳のせいで会議や外出を避けるようになってきた
  • 眠っているあいだは出ないのに、日中だけ止まらない
  • 咳のことを考える時間が長くなり、仕事や家事に支障が出ている
  • 咳に加えて、眠れない・気分が落ち込むといった変化が出てきた

お子さんの場合も同じで、学校に行く前だけ咳き込むという形で現れることがあります。仮病を疑う前に、一度ご相談ください。

よくあるご相談例

外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多く寄せられる悩みを一般化したものです。

  • 何度も呼吸器内科で検査を受けたが異常がないと言われ、どこにかかればよいのか分からなくなった
  • 会議中だけ咳が止まらず、発言を求められる場面を避けるようになった
  • 風邪は治ったのに咳だけが数か月残っていて、周囲に感染を疑われるのがつらい
  • 咳のせいで電車に乗るのが怖くなり、通勤の経路を変えている

よくある質問

心因性の咳は、本当の咳なのでしょうか?

はい、実際に出ている咳です。演技でも気のせいでもありません。咳の引き金が、感染や炎症ではなく緊張の側にあるというだけのことです。この点をご本人がいちばん疑ってしまいがちですが、疑う必要はありません。

咳止めを飲み続けても大丈夫ですか?

効きにくいことが多いため、量が増えていきやすい点に注意が必要です。効かないと感じている時点で、薬の追加ではなく相談に切り替えてください。自己判断で増やすと、眠気や便秘などの負担が出ることがあります。

周りに感染を疑われるのがつらいです。

この悩みは非常によくお聞きします。事情を知らない相手に伝わらないのは事実なので、「感染性のものではないと検査で確認しています」と先に一言伝えておくと、受け取られ方が変わることがあります。隠そうとする負荷が減るぶん、咳自体も楽になることがあります。

どのくらいで治りますか?

期間を断言することはできません。引き金になっている負荷が調整できるかどうかで経過が変わりますし、個人差もあります。ただ、環境が変わったときや、咳への注意が薄れたときに落ち着いていく方は少なくありません。「体質だから一生このまま」と決めてしまう必要はありません。

参考文献

医師からのメッセージ

「検査では異常がないと言われたのに、咳が止まらない」——この状態でいちばんつらいのは、咳が止まらないのではないかという恐怖や周囲に理解されないこととかもしれません。

出ている咳は本物です。それは、いまの緊張がすでに体に届いているという知らせでもあります。ここまで一人で抱えてこられたのだと思います。うまく説明できないままで構いませんので、これまでの検査結果を持ってご相談ください。

この記事の監修

赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医

日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

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