
「気持ちが通じ合わない」「話しても分かってもらえず、自分がおかしいのかと思えてくる」――パートナーとの間でそんな状態が続き、心身に不調が現れることをカサンドラ症候群と呼びます。とくに、パートナーに発達特性(自閉スペクトラム症=ASDの傾向)があるとき、意思疎通の難しさから起こることが知られています。この記事では、カサンドラ症候群とは何か、自分を守る方法を心療内科医が解説します。
目次
カサンドラ症候群とは?
カサンドラ症候群とは、情緒的な交流が難しいパートナーとの関係の中で、気持ちが通じ合わない状態が続き、孤独感や自己否定感、心身の不調が生じる状態を指します。医学的な診断名ではありませんが、パートナーにASD(自閉スペクトラム症)の特性がある場合に起こりやすいとされています。周囲からは「良いパートナーなのに」と理解されにくく、つらさを一人で抱えやすいのが特徴です。
カサンドラ症候群のセルフチェック
次のような状態が続いていないか確認してみましょう(診断ではなく目安です)。
- パートナーに気持ちが伝わらず、孤独を感じる
- 会話がかみ合わず、感情を共有できない
- 「自分がおかしいのでは」と思うことが増えた
- パートナーの言動に振り回され、心が休まらない
- 周囲に相談しても「贅沢な悩み」と理解されない
- 気分の落ち込み・不眠・頭痛など体の不調が出てきた
なぜカサンドラ症候群が起こるのか

ASDの特性がある方は、相手の気持ちを想像することや、感情を言葉で共有することが苦手な場合があります。これは本人の愛情不足や悪意ではなく、生まれ持った特性によるものです。しかし、日常的に情緒的な交流が得られない状態が続くと、パートナーの側が孤独感や自己否定感を募らせ、心身をすり減らしてしまうことがあります。
どちらが悪いという話ではなく、「特性のすれ違い」から生じるものだと理解することが、解決の第一歩になります。
心身に現れるサイン
カサンドラ症候群では、次のような不調が現れることがあります。
- 気分の落ち込み・涙もろさ・意欲の低下
- 不眠、頭痛・めまい・動悸など自律神経の乱れ
- 自己肯定感の低下、「自分には価値がない」という感覚
- 対人関係を避けるようになる
自分を守るためにできること
- 「自分がおかしいわけではない」と知る:つらさには理由があります。まず自分を責めるのをやめることが大切です。
- 特性を正しく理解する:相手の言動を「特性によるもの」と捉え直すと、過度に傷つかずに済むことがあります。
- 期待の持ち方を調整する:情緒的な交流を相手だけに求めず、信頼できる人や場とのつながりも大切にします。
- 一人で抱え込まない:同じ悩みを持つ人は少なくありません。関係のパターンについては共依存の視点も参考になります。
- 専門家に相談する:ご自身の心身のケアと、関係の整理を、カウンセリングでサポートできます。
よくあるご相談例
外来では、「パートナーに気持ちが通じず、長年孤独を感じてきた」「話し合おうとしても会話がかみ合わず、自分が責められている気持ちになる」「周囲に理解されず、自分が我慢すればいいと抱え込んできた」といったご相談をよくお聞きします。ご本人が長くつらさを一人で抱えてこられたケースが多いのが特徴です。
こんなときは受診を
- 気分の落ち込みや不眠など心身の不調が続いている
- 自己肯定感が下がり、自分を責め続けている
- 関係のつらさをどう整理していいか分からない
これらが続くときは、一人で抱え込まず一度ご相談ください。
よくある質問
Q. カサンドラ症候群は病気ですか?
医学的な診断名ではなく、状態を表す言葉です。ただし、それによって生じたうつ状態や不安・不眠などは、治療やケアの対象になります。
Q. パートナー本人が受診しないと解決しませんか?
いいえ。まずはご自身の心身のケアと、つらさの整理から始められます。ご本人の受診の有無にかかわらず、ご相談いただけます。
Q. 相手を変えることはできますか?
特性そのものを変えるのは簡単ではありませんが、関わり方やコミュニケーションの工夫で、すれ違いを減らせることはあります。
参考文献
医師からのメッセージ
気持ちが通じ合わないつらさを長く一人で抱え、「自分さえ我慢すれば」と頑張ってこられた方は少なくありません。あなたの感じているつらさは、決して大げさでも贅沢でもありません。どうか一人で抱え込まず、気軽にご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

