
「悪夢ばかり見る」とは、怖い夢や嫌な夢を繰り返し見て、目が覚めたあとも気持ちが落ち着かず、眠ることや翌日の生活に影響が出ている状態のことです。「また見るかもしれないと思うと、寝るのが怖い」「夢の場面が一日中頭から離れず、朝から疲れている」という状態が続いているなら、それは気のせいや気の弱さではありません。この記事では、悪夢が増える背景、様子を見てよい悪夢と相談を考えたい悪夢の違い、今夜からできる工夫を、心療内科医の視点で整理します。
この記事の要点
- 悪夢は病名ではなく、「怖い夢を繰り返し見て、眠りや日中の生活に影響が出ている」状態を指す言い方です
- たまに見る悪夢は誰にでもあり、強いストレスや疲れ、睡眠の乱れで増えることがあります
- 過去のつらい出来事を思わせる悪夢が続くときは、心の傷つきが関わっていることがあります
- 眠れない・日中がつらい状態が続くなら、一人で耐えずに相談してよい目安です
悪夢とは|ふつうの怖い夢との違い
夢は、眠りのうち「レム睡眠」という浅い眠りの時間帯に多く見ると考えられています。そのため悪夢は、眠りの後半、明け方に近い時間帯に出やすいことが知られています。目が覚めた直後は鼓動が速い、汗をかいている、といった体の反応を伴い、夢の内容もはっきり覚えていることが多いのが特徴です。
怖い夢を見ること自体は、多くの人が経験します。問題になるのは「夢を見たかどうか」ではなく、その夢のせいで眠りが妨げられ、日中の気分や生活に影響が出ているかどうかです。次の表で、様子を見てよい悪夢と、相談を考えたい悪夢の違いを整理します。
| 見るポイント | 様子を見てよいことが多い悪夢 | 相談を考えたい悪夢 |
|---|---|---|
| 頻度 | たまに見る程度 | 週に何度も見る、毎日のように見る |
| 続いた期間 | 忙しい時期だけ、数日で落ち着く | 数週間以上続いている |
| 夢の内容 | 日によってばらばら | 同じ内容を繰り返す、過去のつらい出来事を思わせる |
| 眠りへの影響 | 目が覚めても、そのあとまた眠れる | 目が覚めたあと眠れない、寝るのが怖い |
| 日中への影響 | ほとんど気にならない | 疲れ、集中力の低下、気分の落ち込み、不安が続く |
今の状態を整理するチェック
最近2週間ほどを振り返って、当てはまるものを数えてみてください。診断ではなく、ご自身の状態を整理するための目安です。
- 怖い夢や嫌な夢を、週に何度も見る
- 同じような内容の夢を繰り返し見る
- 夢のせいで途中で目が覚め、そのあと眠れなくなる
- 夜になると「また見るのでは」と思い、寝るのが怖い
- 夢の場面が日中にも頭に浮かぶ
- 眠れていないせいで、日中の集中力や気分に影響が出ている
- 過去のつらい出来事を思わせる内容の夢を見る
いくつか当てはまり、それが数週間続いているなら、相談を考えてよい時期です。1〜2つで、たまに見る程度であれば、無理に当てはめて心配する必要はありません。
悪夢が増える背景|考えられるもの
悪夢の原因は一つではなく、いくつかが重なっていることも少なくありません。当てはまるものがあっても、ご自身を責める必要はありません。
強いストレスと疲れ
仕事や人間関係の緊張が続くと、眠っている間も心が休まらず、悪夢が増えることがあります。心が「処理しきれていない出来事」を、夢の中で繰り返していると考えられています。
つらい出来事の影響
事故、災害、暴力や強い恐怖を伴う出来事、ハラスメントやストーカー被害などのあとには、その場面を思わせる悪夢が続くことがあります。出来事から時間がたってから出ることもあります。こうした悪夢は、心の傷つきに関わる状態のサインとして知られています。詳しくは、過去の出来事がフラッシュバックする…それはPTSDかもしれません、ストーカー被害と急性ストレス障害、PTSDのページをご覧ください。大切な人を亡くしたあとに、故人が出てくる夢や、つらい夢が続くこともあります(死別のあとに出る身体症状)。
うつや不安
気分の落ち込みや強い不安があるとき、眠りが浅くなり、悪夢が増えることがあります。悪夢のほかに、気分が晴れない、興味や意欲がわかない、といった変化が続いているときは、うつ病の記事も参考にしてください。
睡眠不足と生活リズムの乱れ
睡眠不足が続いたあとの「取り戻すような深い眠り」や、寝る時間が毎日ばらばらな生活では、レム睡眠が偏って、夢が鮮明になることがあります。お酒は寝つきをよくするように感じますが、眠りの後半を浅くし、悪夢や中途覚醒につながることがあります。
薬の影響
服用している薬を変えたとき、あるいはやめたときに、悪夢が増えることがあります。思い当たる場合は、自己判断で薬をやめたり量を変えたりせず、処方している医師や薬剤師に相談してください。
似ているけれど別のもの|悪夢・金縛り・夢が多い
「寝ている間のつらさ」には、悪夢とよく似たものがいくつかあります。何が起きているかで、相談の仕方も変わってきます。
| 状態 | 起きやすい時間帯 | 特徴 |
|---|---|---|
| 悪夢 | 眠りの後半、明け方 | 怖い夢で目が覚め、内容をはっきり覚えている |
| 金縛り(睡眠麻痺) | 寝入りばなや明け方 | 意識はあるのに体が動かない。怖い幻のようなものを感じることもある |
| 夢が多くて疲れる | 一晩を通して | 夢を何度も覚えていて、眠った気がしない |
| 夜驚(やきょう) | 眠りの前半 | 叫んだり泣いたりして起きるが、本人は覚えていない。子どもに多い |
金縛りについては金縛りが続くのはなぜ?、夢を多く覚えていて疲れる場合は夢が多くて疲れる:ストレスと睡眠の質で詳しく説明しています。
眠るのが怖くなる「悪循環」

悪夢が続くと、「また見るかもしれない」という不安から、寝つきが悪くなったり、わざと寝る時間を遅らせたりしがちです。ところが睡眠不足になるほど、眠りは浅く乱れやすくなり、悪夢がかえって増えることがあります。悪夢そのものより、この「眠ることへの怖さ」が、つらさを長引かせることもあります。
ここまでを読んで、「自分の眠り方のせいだ」と感じた方もいるかもしれません。ですが、怖い夢を見るのは、ご自身の意思や努力でコントロールできることではありません。
今夜からできる工夫

悪夢をゼロにする方法はありませんが、眠りの負担を減らす工夫はあります。全部やる必要はなく、できそうなものを一つ選ぶだけで十分です。
寝る前の過ごし方
- 寝る1時間ほど前から、強い光とスマートフォンの画面を少し減らす
- 怖い映像、刺激の強い動画やニュースは、寝る前には避ける
- お酒で寝つこうとせず、飲むとしても量と時間を控えめにする
- 毎日、起きる時間を大きくずらさない
悪夢で目が覚めたとき
- 「夢だった」と、声に出さず心の中で確認する
- 部屋を少し明るくして、見慣れた物を見る。いまいる場所を確かめる
- 水や白湯を一口飲み、ゆっくり息を吐く
- 眠れないまま布団の中で粘らず、少し起きて静かに過ごしてから、眠くなったら戻る
夢のことをうまく扱う
夢の内容を朝にメモすることで、気持ちが整理される方もいます。ただし、書くたびに怖さがよみがえるなら、無理に続ける必要はありません。夢の「結末」を、安全で安心できる形に書き換えて、日中に落ち着いた状態で思い浮かべてみるという方法が、悪夢への心理的なアプローチとして用いられることがあります。つらい出来事に関わる悪夢の場合は、ご自身だけで掘り下げようとすると負担が大きくなることがあるため、専門家と一緒に進めるほうが安心です。
心療内科でできること
心療内科では、悪夢の内容だけでなく、眠りの状態、気分や不安の程度、最近の出来事、服用中の薬、飲酒の習慣などを合わせてうかがい、背景に何があるかを一緒に整理します。そのうえで、睡眠リズムの整え方、悪夢への心理的なアプローチ、必要に応じて薬による調整などを、ご本人の状態に合わせて検討します。薬は必ず使うものではありません。つらい出来事が関わっている場合は、心理療法を含めた選択肢を、無理のないペースで一緒に考えます。睡眠そのものの悩みは不眠症のページ、不眠症の4つのタイプ、眠れない夜に脳で起きていることも参考になります。
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。個人が特定されないよう一般化したもので、特定の方の経過や治療の結果を示すものではありません。
- 仕事の忙しい時期から、毎晩のように追われる夢を見て、朝から疲れている
- 過去の怖い体験を思わせる夢で目が覚め、そのまま朝まで眠れなくなる
- 悪夢が続いて寝るのが怖くなり、布団に入るのを先延ばしにしてしまう
- 大切な人を亡くしたあと、つらい夢が続いて気持ちが休まらない
受診を考える目安
- 悪夢が数週間以上続いている
- 悪夢のせいで、ほとんど眠れない日がある
- 日中の疲れや集中力の低下で、仕事や学校に影響が出ている
- 過去のつらい出来事の場面が、夢だけでなく日中にもよみがえる
- 気分の落ち込み、強い不安、お酒の量の増加を伴っている
「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが強いときは、ためらわずにすぐ相談してください。まもろうよ こころ(厚生労働省の相談窓口案内)で相談先を探せます。命の危険を感じるときは、119番に連絡してください。
よくある質問
悪夢をよく見るのは、病気のサインですか?
必ずしもそうではありません。疲れやストレス、睡眠の乱れで悪夢が増えることはよくあります。ただし、数週間以上続いたり、眠りや日中の生活に影響が出ていたりするときは、背景を確かめる意味で相談する価値があります。
悪夢を見ないようにすることはできますか?
夢の内容を直接コントロールすることはできません。一方で、睡眠リズムを整える、お酒や寝る前の刺激を控えるなどの工夫が、眠りの負担を減らす助けになることがあります。個人差があります。
子どもが悪夢を訴えるときはどうしたらよいですか?
子どもが怖い夢を見て目を覚ますことは、成長の過程でよくあります。まずは、そばで安心できる声をかけて落ち着くのを待ちましょう。長く続く、日中の様子も変わった、といったときは相談してください。当院は小学生から診察が可能です。
薬を飲まないと治りませんか?
悪夢への対応は、睡眠リズムの整え方や心理的なアプローチなど、薬以外の選択肢もあります。薬を使うかどうかは、状態に合わせて一緒に決めますので、まずは相談してみてください。
参考文献
医師からのメッセージ
「悪夢ばかり見るなんて、自分の心が弱いのでは」と、ご自身を責めていませんか。悪夢は、心や体が「まだ休めていない」「受け止めきれていない出来事がある」と教えてくれているサインであることがあります。眠るのが怖い夜を一人で乗り切ろうとせず、迷った時点で相談してください。まずは、いまの眠りの様子をお聞かせいただくだけでも構いません。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

