
赤面症とは、人前で顔が赤くなること自体が強い苦痛になり、その場面を避けるようになっている状態を指します。
会議で指名されそうになると、話す前から顔が熱くなる。赤くなったことに気づかれたと思うと、そこから何を言ったか覚えていない。鏡やスマホの内カメラで顔色を確認する癖がついている——そんな方に向けて書いています。
この記事では、なぜ止めようとするほど赤くなるのかという仕組みと、そこから抜ける道すじを、心療内科医の視点で整理します。
赤くなること自体は、異常ではありません
顔が赤くなるのは、緊張したときに血管が広がって起きる正常な体の反応です。誰にでも起きますし、止められないのが普通です。
ですから、問題になっているのは赤面そのものではありません。「赤くなってはいけない」と考えることで生まれる悪循環のほうです。ここを取り違えたまま「赤くならない方法」を探し続けると、かえって強くなっていきます。
止めようとするほど、強くなる仕組み
赤面が苦しくなるとき、次のような循環が起きています。
- ①予期——「また赤くなるかもしれない」と身構える
- ②自己注目——注意が相手ではなく自分の顔に向く
- ③反応——緊張が高まり、実際に血流が増える
- ④解釈——相手の一瞬の表情を「引かれた」と受け取る
- ⑤回避——次からその場面を避ける。避けるほど確かめる機会がなくなる
ここが重要なのですが、隠そうとする工夫そのものが、この循環を維持します。髪で顔を隠す、うつむく、ファンデーションを厚くする、飲み会を断る——どれも一時的には楽になりますが、「隠さなければ大変なことになる」という前提を強めてしまいます。
「赤面恐怖」として扱われることがあります
赤面への強い恐れは、社交不安障害の一つの現れ方として整理できることがあります。日本では以前から対人恐怖として知られてきた領域です。
| よくある緊張 | 相談の対象になる場合 | |
|---|---|---|
| 場面 | 発表など、特別な場面に限られる | 雑談や会計など、日常の場面でも起きる |
| 影響 | 終われば引きずらない | 前日から不安で、あとも長く反芻する |
| 行動 | 避けはしない | 誘いを断る、進路や仕事を変える |
| 期間 | 一時的 | 半年以上続いている |
右側に当てはまるものが多い場合は、性格の問題として抱え込まないほうが結果的に早く楽になります。電話に出るのが怖いといった別の場面にも広がっている方は少なくありません。
セルフチェック
ここ半年ほどを振り返って、当てはまるものを数えてみてください。診断ではなく、相談するかどうかを決めるための目安です。
- 人と話す前から、赤くなることを考えてしまう
- 赤くなったかどうかを、鏡や画面で確認する癖がある
- 顔を隠せる髪型・服装・座る位置を選んでいる
- 指名されそうな会議や集まりを避けている
- 赤くなった日は、その場面を何度も思い返してしまう
- 人前で飲食する場面が苦手になってきた
- 赤面のせいで、進路や仕事の選び方を変えたことがある
- 赤くなる自分を、みっともないと感じている
3つ以下なら、無理に当てはめる必要はありません。5つ以上あり、実際に予定を避けているなら、一度ご相談ください。

抜けていくための考え方
目標を「赤くならないこと」に置くと、まず行き詰まります。止められないものを目標にしているからです。
- 注意を外に向ける——自分の顔ではなく、相手の話の内容に注意を戻す練習をします
- 隠す工夫を一つだけ減らす——全部やめる必要はありません。一つで十分です
- 赤くなったまま続けてみる——たいてい、相手は思ったほど気づいていません
- 先に言ってしまう——「緊張すると赤くなるんです」と伝えると、隠す負荷がなくなります
- 避けた場面を、小さく戻す——いきなり発表ではなく、会計で一言、からで構いません
赤面は、ずっと緊張が続いている状態の一部として出ていることもあります。その場合は、赤面だけを扱うより全体の緊張を下げるほうが早いことがあります。
なぜ、人によって差が出るのか
同じ場面でも、強く出る人とほとんど気にならない人がいます。違いは根性ではなく、いくつかの条件の重なりです。
- もともとの反応しやすさ——血管の反応や自律神経の働き方には個人差があります。汗をかきやすい方や、自律神経のはたらきが乱れやすい方に強く出ることがあります
- 注意の向きやすさ——自分の状態を細かくモニターする傾向が強いと、わずかな熱感にも気づきます
- 過去の経験——一度指摘された、笑われたといった出来事があると、その場面が警戒の対象として登録されます
- いまの消耗——睡眠不足や疲労が重なると、同じ場面でも反応は強く出ます
この四つ目は見落とされがちです。「去年までは平気だったのに」という場合、赤面が悪化したのではなく、体力が落ちているだけのことがあります。
その場でできること
根本的な対処ではありませんが、場面を乗り切るための手当てとして使えます。
- 息を吐く時間を長くする(吸うより吐くほうを意識するだけで構いません)
- 手元の資料や相手の手元など、視線を置く場所を先に決めておく
- 最初の一言だけ用意しておく。出だしが決まっていると自己注目が起きにくくなります
- 温かい飲み物や厚着を避け、部屋の温度が高いときは調整する
- 赤くなったことに気づいても、そこで話を止めない
できなかった日があっても構いません。数回で変わるものではありませんし、失敗として数える必要もありません。
心療内科でできること
- どの場面でどんな循環が起きているかを、具体的に書き出して整理する
- 注意の向け方や、隠す工夫の減らし方を段階的に練習する(認知行動療法などの心理療法を用いることがあります)
- 避けている場面に少しずつ戻る計画を、一緒に組み立てる
- 必要な場面に限って、緊張を和らげる薬を検討することがあります
- 背景にうつ状態や強い消耗が重なっていないかを確認する
当院では医師と心理セラピストが連携して進めます。薬で赤面を消すという考え方はとりません。薬を使う場合も、避けている場面に戻るための補助として位置づけます。
受診の目安
- 半年以上、赤面への不安が続いている
- 会議や集まりを実際に避けるようになっている
- 赤面を理由に進路や働き方を変えようとしている
- その場面を前に、動悸・発汗・手の震えが強く出る
- 眠れない・気分が落ち込むといった変化が加わってきた
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多く寄せられる悩みを一般化したものです。
- 会議で発言を求められる場面が怖く、異動を希望しようか悩んでいる
- 赤くなったことを指摘されて以来、人前で話すのが苦痛になった
- 化粧や髪型で隠す工夫を続けてきたが、そのこと自体に疲れてしまった
- 昇進の話が出ているが、人前に立つ機会が増えると思うと気が重い
よくある質問
赤面症は治りますか?
赤くならなくなる、という意味では断言できません。ただ、赤くなっても場面を続けられるようになるという変化は多くの方に起こります。実際にはそれで困りごとが消えることがほとんどです。個人差があります。
手術で治すという話を見かけました。
赤面に対する手術については、効果とあわせて後戻りできない変化や副作用が伴います。まずは薬や心理療法など、戻せる方法から検討することをおすすめします。迷っている段階で一度ご相談ください。
人に相談すると「気にしすぎ」と言われます。
赤面そのものは目立たなくても、本人の苦痛は別に存在します。周囲が気づいていないことは、つらくない理由になりません。実際に予定を避けているなら、それは十分に相談していい状態です。
薬を飲むと眠くなりませんか?
薬の種類によって性質が異なります。必要な場面だけに使う方法もありますので、飲み続ける前提で考えていただく必要はありません。不安な点は診察でそのままお伝えください。
参考文献
医師からのメッセージ
「顔が赤くなるくらいで受診していいのか」と迷って、何年も一人で抱えてこられる方が多い領域です。けれど、そのために避けてきた場面の数を数えると、失われているものは決して小さくありません。
赤くならない方法を探すのをやめても、できることは残っています。うまく説明できないままで構いませんので、気になった時点でご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

