
大人の「愛着障害」は、医学上の正式な診断名ではありません。正式な診断名としての愛着障害は子どもを対象としたもので、大人について使われる「愛着障害」は、幼い頃の養育者との関係から身についた人との距離の取り方のくせが、今の生きづらさにつながっている状態を指す、一般的な言葉です。
人と親しくなるほど不安になる。頼りたいのに頼れない。関係がうまくいきかけると自分から壊してしまう。そうしたことが続き、「もしかして自分は愛着障害なのでは」と調べている方に向けた記事です。
この記事では、愛着障害の「診断」が実際にはどう扱われているのかを正確に整理したうえで、大人向けのセルフチェック、病院で分かること・分からないこと、受診の目安を、心療内科医の視点でまとめます。

愛着障害は「診断」できるのか
「愛着障害」という言葉は、場面によって二つの意味で使われています。ここを分けておくと、ネットの情報に振り回されにくくなります。
| 医学上の診断名 | 一般的な言葉としての「愛着障害」 | |
|---|---|---|
| 対象 | 主に子ども | 大人を含む |
| 代表的なもの | 反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害 | 不安型・回避型・恐れ回避型などの愛着スタイルの偏り |
| 判断する人 | 医師が、国際的な診断基準に沿って判断する | 本人の気づきや、専門家との対話の中で見えてくる |
| 意味すること | 養育環境の大きな問題を背景にした、子どもの発達上の障害 | 人との距離の取り方のくせが、今の生活のつらさにつながっている状態 |
子どもの「愛着障害」として診断されるもの
医学上の診断名としての愛着障害には、主に次の二つがあります。どちらも、ネグレクトや養育者の頻繁な交代など、十分な養育を受けられなかった環境を背景に、幼い時期から現れるものとされています。
- 反応性アタッチメント障害:つらいときにも養育者に慰めを求めることがほとんどなく、慰められても反応が乏しい。喜びや楽しさの表現も少ない傾向がある
- 脱抑制型対人交流障害:初対面の大人にもためらいなく近づき、なれなれしく接する。見知らぬ人について行ってしまうことがある
お子さんのことで心配がある場合は、小児科や児童精神科、地域の子育て相談窓口などにご相談ください。当院も小学生以上のお子さんの診察をお受けしています。
インターネット上の「愛着障害診断」の多くは、愛着スタイル(人との距離の取り方の傾向)を調べるものです。
ただ、正式な診断名でないからといって、つらさが軽いわけではありません。名前がつかないことと、相談しなくてよいことは別の話です。
大人の愛着の問題が表れやすい場面
愛着のくせは、ふだんは目立たなくても、人との距離が近くなる場面で表に出やすくなります。
| 場面 | 表れやすいこと |
|---|---|
| 恋愛・夫婦 | 連絡の頻度や愛情の確認をめぐって、同じ形のけんかを繰り返す。関係が安定すると、かえって落ち着かなくなる |
| 職場 | 上司の評価に過敏になる。頼まれると断れずに抱え込む。困っていても相談できない |
| 友人関係 | 誘いを断られると、嫌われたと感じて自分から離れる。深い付き合いになる前に距離を置く |
| 親子 | 大人になっても親の顔色をうかがう。親に会ったあとに強く疲れる。自分が親になってから、子どもとの距離に悩む |
一つの場面だけでなく、相手が変わっても同じ形のつまずきが繰り返されるときは、愛着の傾向が関わっている可能性を考えてみる価値があります。
大人の愛着障害セルフチェック
最近の数か月を振り返って、当てはまるものを数えてみてください。これは診断ではなく、ご自身の傾向をつかむための目安です。
A 人との距離
- 親しくなるほど、相手がいつか離れていくのではと不安になる
- 人に頼ったり甘えたりするのが苦手で、つい一人で抱え込む
- 関係が深まりかけると、自分から距離を置いたり連絡を絶ったりしてしまう
- 相手の些細な反応から、嫌われたのではと考え込んでしまう
- 恋愛や友人関係で、いつも同じような形でつまずく
B 感情
- 人間関係のことで、気分が大きく上下しやすい
- 寂しさや空しさが、理由なく強く押し寄せることがある
- 怒りや悲しみを感じても、それを言葉にできず飲み込んでしまう
- 自分の本当の気持ちが分からなくなることがある
- 人に優しくされると、うれしいより先に戸惑いや警戒が出る
C 自分への見方
- 自分には愛される価値がないと感じることがある
- 人の役に立っていないと、そこにいてはいけない気がする
- 褒められても素直に受け取れない
- 相手に合わせすぎて、自分の希望を後回しにしがち
- 失敗すると、必要以上に自分を責めてしまう
D 生活への影響
- 人間関係の悩みで、眠れない日が続くことがある
- 仕事や学業に集中できないほど、関係のことで頭がいっぱいになる
- 人付き合いを避けるために、行きたい場所や機会をあきらめている
- 気分の落ち込みや強い不安が2週間以上続いている
- 自分を傷つけたくなったり、消えてしまいたいと思ったりすることがある
結果の見方
| 当てはまった数 | 考え方の目安 |
|---|---|
| A〜Cの合計が0〜4個 | 愛着の傾向が日常に大きく影響している可能性は高くありません。無理に当てはめる必要はありません |
| A〜Cの合計が5〜9個 | 人との距離の取り方に、ある程度のくせがあるかもしれません。タイプを知ると対処が見えやすくなります |
| A〜Cの合計が10個以上 | 愛着の傾向が生きづらさにつながっている可能性があります。一人で抱えず、相談先を持つことを考えてみてください |
| Dに1つでも当てはまる | 合計の数にかかわらず、一度医療機関にご相談ください。特にDの最後の項目に当てはまる場合は、早めの相談をおすすめします |
セルフチェックを使うときの注意
- 落ち込んでいる時期は、多めに当てはまりやすくなります。気分が落ち着いている日に、もう一度試してみてください
- 数が多いことは、あなたの価値の低さを意味しません。これまでの環境で身につけてきた、自分を守るための工夫の表れです
- 結果を相手を責める材料にしない:「あなたは愛着障害だ」と人に当てはめるためのものではありません
どのタイプに近いかを知りたい方は、愛着スタイル診断(4タイプ別チェック)をお使いください。子どもの頃の記憶から振り返りたい方は、愛着障害を疑うべき幼少期の記憶7つも参考になります。
愛着の傾向は4つのタイプで考える
大人の愛着は、「愛着障害か、そうでないか」の二択ではなく、4つの傾向のどこに近いかで考えるのが一般的です。
| タイプ | 特徴 | くわしい解説 |
|---|---|---|
| 安定型 | 人を信頼でき、困ったときに頼れる | 安定型の解説 |
| 不安型 | 見捨てられることへの不安が強く、確かめたくなる | 不安型の解説 |
| 回避型 | 親密になるほど息苦しく、距離を取りたくなる | 回避型の解説 |
| 恐れ回避型 | 近づきたいのに怖い、という揺れがある | 恐れ回避型の解説 |
多くの方は一つのタイプにきれいに当てはまるわけではなく、相手や状況によって出方が変わります。タイプは自分を理解するための地図であって、レッテルではありません。

病院(心療内科・精神科)で分かること
「正式な診断名がないなら、病院に行っても意味がないのでは」と感じる方もいらっしゃいます。けれど、受診することで分かることは少なくありません。
背景にある心の不調
愛着の傾向を背景に、うつ病、不安症、適応障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などが起きていることがあります。こうした状態は医学的に診断でき、治療の対象になります。眠れない、気分が沈む、強い不安が続くといった症状がある場合は、まずそちらの治療が優先されることもあります。
似ている状態との見分け
人間関係の不安定さや感情の揺れは、境界性パーソナリティ障害や、発達特性による対人関係の困りごととも重なって見えることがあります。どれに近いのかによって、役立つ関わり方が変わります。境界性パーソナリティ障害との関係については、境界性パーソナリティ障害と愛着障害の解説をご覧ください。
| 状態 | 愛着の傾向との違いの目安 |
|---|---|
| うつ病 | 気分の落ち込みや意欲の低下が、ほぼ毎日・2週間以上続く。人間関係に限らず、生活全体に及ぶ |
| 社交不安症 | 人から否定的に見られることへの強い不安が中心。親しい相手より、人前や初対面の場面でつらくなりやすい |
| 境界性パーソナリティ障害 | 見捨てられ不安に加えて、感情や衝動の激しい揺れ、自分を傷つける行動などが長く続く |
| 発達特性(ASDなど) | 相手の意図の読み取りや、暗黙のルールの理解に難しさがある。親密さへの不安とは別の理由でつまずく |
これらは重なって存在することもあり、自己判断で見分けるのは難しいものです。どれか一つに決めつけず、診察の中で一緒に整理していくのが確実です。
これまでの経緯の整理
診察では、今お困りのことに加えて、これまでの人間関係や育ってきた環境についても、話せる範囲でお聞きします。話したくないことを無理に話す必要はありません。自分の傾向がどこから来ているのかを言葉にしていくこと自体が、回復の手がかりになることがあります。
受診するときに準備しておくとよいこと
初めての受診で、何をどう話せばよいか分からなくなる方は少なくありません。次のようなことをメモにしておくと、短い時間でも伝えやすくなります。
- 今いちばん困っていること(例:恋人と同じ形でけんかを繰り返す、眠れない)
- それがいつ頃から続いているか
- 睡眠・食欲・仕事や学業への影響
- このページのセルフチェックで当てはまった項目
- 話しておきたいこと、まだ話したくないこと
当院は小学生以上の方の診察をお受けしており、お一人での受診も可能です。
愛着の傾向は変えられる
愛着の傾向は、生まれつき決まった性格ではなく、その後の関係や経験によって変化しうるものと考えられています。信頼できる関係を積み重ねることで、安定型に近づいていくことは「獲得された安定型」と呼ばれています。
当院では、医師の診察と心理セラピストによる心理療法を組み合わせ、薬だけに頼らない形でご相談をお受けしています。変化の速さには個人差があります。ご自身で取り組める方法は、愛着障害の診療案内でも紹介しています。
よくあるご相談例
外来では、次のようなご相談をよくお聞きします。いずれも特定の方のお話ではなく、多くの方に共通する内容を一般化したものです。
- ネットの診断で愛着障害と出たが、本当にそうなのか確かめたい
- 恋愛や職場で同じような人間関係のつまずきを繰り返し、自分に原因があるのではと感じている
- 親との関係が今の生きづらさにつながっている気がするが、どう向き合えばよいか分からない
- 人間関係の悩みが続くうちに、眠れない・気分が沈むといった症状が出てきた
よくある質問
ネットの愛着障害診断の結果は、信じてよいのでしょうか?
自分の傾向を知るきっかけとしては役立ちます。ただ、ネットの診断は医学的な診断ではなく、答えたときの気分にも左右されます。結果は「今の自分の傾向」くらいに受け止め、つらさが続く場合は専門家に相談してください。
病院で「愛着障害」と診断してもらえますか?
大人の方の場合、「愛着障害」という正式な診断名がつくことは基本的にありません。ただし、背景にあるうつ病や不安症などは診断・治療の対象になります。名前がつくかどうかより、今のつらさを和らげることを一緒に考えます。
愛着障害は親のせいですか?
育った環境が影響することはありますが、誰か一人の責任と決めつけられるものではありません。親自身も余裕のない状況にあったことも多く、原因探しよりも「これからどうしていくか」に目を向けるほうが役立つことが多いです。
大人になってからでも変われますか?
はい、変化しうると考えられています。信頼できる人との関係や、心理療法を通じて、人との距離の取り方は少しずつ変わっていきます。個人差があります。
カウンセリングだけを受けることもできますか?
当院では、医師の診察と心理セラピストによる心理療法を組み合わせてご相談をお受けしています。カウンセリングを中心に進めたいといったご希望があれば、診察の際にお伝えください。お薬を使うかどうかも、症状に合わせて医師とご相談のうえで決めます。
子どもの頃のことを、全部話さなければいけませんか?
いいえ、話したくないことを無理に話す必要はありません。今困っていることからお話しいただければ十分です。話せる範囲は、通院を続ける中で少しずつ変わっていくこともあります。
参考文献
医師からのメッセージ
「自分は愛着障害なのかもしれない」と調べている方の多くは、人との関係でずっと一人で悩んでこられた方です。名前を探したくなるのは、このつらさに理由があってほしい、という自然な気持ちだと思います。
診断名がつくかどうかにかかわらず、そのつらさは相談してよいものです。迷った時点で、どうぞお気軽にご相談ください。
この記事の監修
赤坂心療内科クリニック 院長
宮本 せら紀(みやもと せらき)
医学博士・心療内科専門医・認定内科医・日本医師会認定産業医
日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院にて臨床研修。東京大学大学院にて医学博士号取得(ストレス防御・心身医学)。日本心身医学会・日本心療内科学会ほか所属。

